宇宙の中でも高温でかつ激しい活動領域からは,X線を中心に多量のエネルギー放射が行われています。中性子星やブラックホールに極めて近い領域,あるいは超新星残骸,銀河や銀河団など,「激しく活動している」宇宙の本質を知るためにX線観測が欠かせません。X線望遠鏡を搭載した「あすか」衛星やドイツの「ROSAT」衛星などの活躍で,太陽系内部の彗星から宇宙の果てのクェーサーにいたるまで,ほぼすべての天体が多少なりともX線を放射していることがわかってきました。一方で,X線望遠鏡でカバーされるX線の何十倍ものエネルギーを持つ硬X線からガンマ線の領域の観測は,なかなか進んできませんでした。
ガンマ線はX線にくらべて透過力が強いため,これまでX線でも吸収されて見えていなかったような天体からの放射を検出することができます。また,X線で観測できる現象よりもずっと高温,高エネルギーの現象を探る手がかりは,ガンマ線領域にあると考えられています。たとえば,地上には,非常に高いエネルギーの宇宙線がふりそそいでいます。中には,1個の粒子あたり16ジュールという想像を絶するエネルギーに達するものもあります。宇宙には,こうした宇宙線を作り出す「巨大加速器」が存在し,その中で粒子が加速されて高いエネルギーを持つと考えられています。硬X線やガンマ線を精度よく観測することができれば,宇宙線の加速がどこで,どのように行われているかを探査し,その起源と加速の機構を探ることができるはずです。
X線からガンマ線とエネルギーが高くなるにつれ,天体からの光子の数はどんどん少なくなってくるのが普通です。また,ガンマ線は,鏡で集めることができません。さらに,ガンマ線は遮へいするのが難しいため,天体以外の方向からやってくるバックグラウンドの光子をうまく落としてやらないといけません。このような理由から,ガンマ線領域では,精度の高い観測が行われてきませんでした。
2月に打ち上げられ,残念ながら軌道に投入することができなかったASTRO-E衛星には,日本ではじめて,600キロ電子ボルトという高いエネルギーまで観測できる硬X線検出器(HXD)が搭載されました。この検出器はガドリニウム・シリケート結晶を用いた新しい無機シンチレータ(GSO)とシリコンPIN検出器を組み合わせたものです。筒状に伸びた井戸型のBGOシンチレーターによって周りからの雑音ガンマ線をアクティブに低減することができるのが大きな特徴です。この技術は,われわれが開発したもので,1988年からブラジルで行った大気球実験で活躍した検出器がもととなっています。HXDでは,原子番号が高く,ガンマ線を止める能力の高いシンチレータが使われました。図1にこの検出器の断面図,図2にその外観をしめします。BGOは,ガラスのようにすぐにわれてしまうため,取り扱いが難しく,失敗を繰り返しながら打上げ時のショックに耐えるような工夫を施しました。