No.229
2000.4

ISASニュース 2000.4 No.229

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ギアナ宇宙センター訪問記

中 島 俊  

 メインエンジンに点火し,白煙が見えてから7秒後(配布されたタイムシーケンスによる),オレンジ色の炎をあげ,アリアン5型5号機(505)はしばらくするとバリバリと大きな音を出しながら雲の中に消えていった。しかし,固体ロケットの燃焼ガスの炎は強烈でしばらくの間全天がオレンジ色に染まったかのようであった。雛田先生は「おおすみ」打上げ前後,私もKSC飛跡監視所でアイスクリーンを担当していた1980年頃以来,久しぶりに屋外で打上げを見る事ができた。

 前日,今回のギアナ宇宙センター(CSG)訪問の主目的であるRange Safetyに関するディスカッションのためCSGCNESのオフィスを訪ねた時「これからロケットを射点に移動する。明日はどうにか打上げられそうだ。」との話を聞いたが,しばらく曇や雨の日が続いているし,外は小雨も降っているのに,と少々訝っていた。

 打上当日は管制室をガラス越しに見学できる見学席で招待客にブリーフィングが行われた。CNESの所長,打上担当のアリアンスペースの社長(前ESA長官),ロケットのお客であるASIASTAR及びINSAT3Bの責任者達がそれぞれ概要・意義につき話をしたが,宣伝の色彩が濃く少々食傷気味であった。その間も外は小雨。時々強い雨が降り続いている。ブリーフィングの後,射場見学に出発しアリアン4型及び5型の組立室,発射管制室等の見学をし,アリアン4型発射整備塔の屋上から1kmほど離れた発射台上の5型を見る事ができた。既に推薬の注液が始まっており,供給パイプラインから白煙が上っている。ロケットは雨の中4本の避雷塔に囲まれて立っており,そこからは一本のアンビリカルで傍らのブームとつながっているようにしか見えない。非常にシンプルなのに驚いた。

 打上げタイムシーケンスは7分前2回ホールドし,今日の打上げは無理かと思っていたが,残り10分ぐらいのところで打上げられた。我々が割り振られた見学者席は,射点から約4kmの地点。200〜300人収容の,柱に屋根のオープンスペースであるが,大型テレビスクリーン,モニタが設置されており,飲み物のサービスもある。ロケットが雲に隠れた後はスクリーンに軌道,管制室のCNES,アリアンスペース,衛星関係者の緊張した表情が映し出され一種のショーの趣きがある。ロケットの飛翔はすべて順調で,打上げ約35分後2番目の衛星にスピンをかけて分離し,衛星を静止トランスファー軌道に投入するという打上オペレーションは終了した。

 CSGは南米フランス領ギアナにある。日本からはパリ乗り換えが便利で,パリから約8時間半の飛行でCayenneに到着する。着陸直前窓から外を見ると,鬱蒼とした木々に覆われ下の地面は見えない。北緯5度,熱帯ジャングルである。家々の衛星用パラボラアンテナはほぼ真上を向いている。空港のターミナルビルは,最近建て替えられた様で非常にきれいである。空港からレンタカーでホテルに移動。車のドアを開けるとオートマチックではない。フランスである事を忘れていた。レンタカー会社の人の話もよく聞かずに,まあいいかと発進。ギアチェンジの車を運転するのは25年ぶりくらいである。何とかホテルの近くまで辿り着いて,バックしようとしてハタと困った。バックギアに入らないのである。昔を思い出し,バーを押し下げたり持ち上げたりしても動かない。ついに隣に駐車したお嬢さんに話しかけて教えてもらうハメになった。

 車の事ではもうひとつ。翌日,光学式のキーでロックした後,カギ穴に挿し込んでドアを開け,スタートしようとしたがエンジンがかからない。マニュアルを取り出したがフランス語で書かれており,解読不能。今度は側を通りかかった警官にマニュアルを見せて教えてもらった。結局はセキュリティ上,光学式キーで施錠したら,同一の方法で開けなければエンジンはスタートしないようになっているとの事。

 Cayenneの街の中心部は,官庁の周辺を除き何かうら寂しい街並みではあるが,周辺部には近代的なホテルも建っている。驚いたのは中国人の多さで,雑貨屋はほとんど全て中国人経営のようである。彼等は,他の商店が12時から4時まで店を閉めるのに,休まず店を開けている。中国人が多いという事は中華料理店も多いという事で,我々2人にとっては大変助かった。

 打上げ翌日パリ経由で帰国。パリで6時間待って東京便に乗り継ぎ。約1日がかりの帰国であった。パリ迄の飛行機は打上げ関係者で満席。赤い顔をした上機嫌の人々がしばらくの間談笑していたが,疲れたのかあとはパリまでのキャビンの中は静かであった。次回は是非,鹿児島からのキャビン内が同じような人々で一杯になるようにしたいものである。

(なかじま・たかし) 



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