No.229
2000.4

ISASニュース 2000.4 No.229

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第13回

極端紫外光によるプラズマの可視化

東京大学大学院理学系研究科 中 村 正 人  

 火星探査機「のぞみ」に搭載された極端紫外光スキャナー( eXtreme Ultra Violet Scanner: XUV )が世界で初めて地球プラズマ圏撮像に成功したのは1998年9月である。この映像は先月号のISASニュースの表紙に取り上げて頂いた。観測は地球プラズマ圏に含まれるヘリウムイオンが太陽光中の極端紫外線を共鳴散乱した光を検出したものであり,我々が取り組んでいる宇宙プラズマの可視化への第一歩と位置付けられる。

 地球や金星,火星の大気は太陽光中の紫外線等によって電離され,上空に電離層を形成している。この中にはヘリウムや酸素の様に,太陽光線中の極端紫外線を共鳴散乱するイオンが多く含まれている。これらのイオンが電離層から地球の磁力線に沿って拡散するなり,また金星や火星で起こるように太陽風に捕まえられて宇宙空間に逃げ出したりする様子は,これらイオンの散乱する極端紫外線を惑星の外から検出してやれば解る筈である。しかし,この様な重要な観測が近年までなされなかった理由は,その光が極めて微弱であり検出器の進歩を待たなければならなかったからである。

 極端紫外光は紫外線の中ではエネルギーが高い領域で,そこに存在する共鳴散乱線はヘリウムイオンでは30.4nm,酸素イオンでは83.4nmである。特にヘリウムイオンの散乱線はソフトX線に近く,光は物質によく侵入する。従って,通常の反射鏡を使ってはその反射率は極めて低く,これを改善するためにX線光学系で近年進展の著しい多層膜反射鏡を使用している。反射鏡表面における多層膜のブラッグ条件を利して反射率を目標の波長において増大させる手法である。これにより「のぞみ」搭載XUVでは許された観測時間内で0.01レイリーまでの光を捉える事が可能なように設計がなされている。

 今回のXUV観測によって地球プラズマ圏に関して次のことが明らかにされた。その強度は最大で約10レイリーとなり,理論的予測と良く合っている。プラズマ圏の境界は地球半径の約4倍の距離にあり,同時に観測された「あけぼの」衛星の結果とも一致した。さらにこの外側にも冷たいヘリウムイオンは希薄だが存在し,しかもその分布は時間変化をしている。これは,予想外に多量のプラズマがプラズマ圏から散逸し,昼側磁気圏境界まで達していることを示唆している。

 XUVは手始めに地球周辺で上記の観測を行ったが,しかし,もともとは火星大気中のヘリウムの存在量を測るために作られた観測器である。火星や金星でも地球と同じように内部で放射性崩壊物質(ウラン等)が崩壊してヘリウムを作り出していると考えられる。地球の場合は火山や海嶺から作り出されたヘリウムが大気中に散逸していくが,火星の場合はこの様なメカニズムは現在認められない。過去にその様な活動があったとしても,火星の微弱な重力とヘリウムが軽いガスであることが相まって,100万年程度の時間スケールで宇宙空間に散逸してしまっているはずである。しかし,過去の衛星観測の結果ではヘリウムが相当量火星大気に混じっているらしい。これはとりもなおさず火星の内部活動(水循環など)を示唆するものであり,XUVでは「のぞみ」の火星到着後,その総量や分布の様子を詳細に調べたい。また,火星に到着するまでの期間は,我々の太陽系に侵入してくる星間空間中のヘリウムガスの観測を行っており,こちらは本年6月には全天サーベイを完了する予定である。


左よりXUVフード,望遠鏡本体,プリアンプ及び高圧電源

 「のぞみ」XUVの後継センサーとして,口径を2倍にし,2次元画像取得が可能なプラズマ観測用極端紫外光望遠鏡を月周回衛星「セレーネ」に搭載すべく準備中であるが,詳細については別の機会に譲りたい。

(なかむら・まさと)


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