No.226
2000.1

ISASニュース 2000.1 No.226

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第10回

X線用CCD

大阪大学大学院理学研究科  常 深 博  

 最近,ビデオとかデジカメとか,可視光画像はすっかりフィルムからCCDに置き換わってしまった。同じことが,X線画像についても起きている。X線天文学ではX線光子一つ一つを直接CCDで検出する方法が主流になっている。CCDは可視光にせよ,X線にせよ,光子がCCD内で光電吸収した後に作られる電子を電気信号とする。可視光なら光子一個は電子をせいぜい一個しか作らないが,X線では光子一個がそのエネルギー(波長)に比例した多数の電子を作る 。X線検出器の較正に良く使われる6keV(キロ・電子ボルト)のX線光子一個は1600個ほどの電子を作る。CCD素子を-100℃ほどに冷却して低雑音回路で読み出せば,電子数にして2〜 3個の精度で信号強度を決定できる。つまり,CCDによってX線光子一つ一つのエネルギー,つまりX線の色,を精度良く測定できる。 ちなみに,CCDで可視光の色を決められるのは,CCDの画素一つ一つが色フィルターを持っているからである。

 X線を精度よく検出するには,いろいろな点で可視光で使うCCDとは異なる素子が必要である。低エネルギー(1keV以下)のX線は物質に吸収され易いので,X線用CCD素子上面には,保護ガラスも色フィルターもない。可視光を良く透過する酸化珪素膜もできるだけ薄くしたい。一方,高エネルギー(数keV以上)のX線は物質を透過し易いので,X線を検出する空乏層領域はできるだけ厚くしたい。可視光なら数μmもあれば良いが,10 keVX線の珪素内の平均吸収距離は100μmほどもある。さらに高いエネルギーのX線のためには,空乏層はできるだけ厚くしたい。厚い空乏層を必要とするのは,X線領域と近赤外線領域で使われるCCD素子である。

 また,可視光領域のデジカメは小型化の要求が強く,焦点像を小さくして素子を小型化する,つまり微小画素化が必要とされる。X線では光学系の制限で焦点像を小さくできず,できるだけ有効面積の大きな素子が必要で,画素の大きなものが使われている。


可視光ではインターライン型CCDが多いが,X線にはフレーム転送型CCDが使われる。
最近試作された稠密に並べられる1インチ角のフレーム転送型素子(2個)。    

 X線光子一つ一つの波長が決められるような観測をするCCDを宇宙で初めて使ったのは,1993年に打ち上げた『あすか』である。アメリカのMIT/リンカーン研究所製のCCD素子(27μm角の画素が420 X 422個,空乏層は35μm厚)を個並べたカメラを台搭載した。順調に動作し,これまでにない精度でX線スペクトルや画像を得,今でも世界中の研究者が利用している。これに続く衛星は,1999年7月に打ち上がったアメリカの『チャンドラ』(24μm角の画素が1024 X 1024個,空乏層は70μm厚の素子),12月に打ち上がったヨーロッパのXMM衛星(150μm角の画素が400 X 400個,空乏層のは280μm厚などの素子)であり,2000年2月に打ち上がる予定の我が国のASTRO-E衛星(搭載素子は『チャンドラ』と同じ)である。


『チャンドラ』のCCDによるカシオペア AのX線カラー画像。
(X線の波長情報を色で表している)           

 X線直接撮像型CCDは,現在では宇宙X線観測衛星の標準的な観測装置になっている。『あすか』ではX線望遠鏡の解像度がCCD素子の画素の大きさとマッチしていなかったが,その後,X線望遠鏡の解像度が改善され,『チャンドラ』では望遠鏡の結像性能がCCDのそれを上回ったとも言える。今後のXCCDはさらに解像度の進んだ素子が必要となろう。X線は可視光に比べ波長が短く,理想的にはX線望遠鏡は可視光の望遠鏡よりもはるかに高い空間分解能を発揮しうる。CCDの画素がある程度小さければ,X線の偏光観測も可能になり,入射位置も画素サイズよりもはるかに高い精度で決定できることが知られている。もちろん,宇宙観測用に開発されたX線用CCDが地上実験や工業用として広く使われるようになるだろう。

(つねみ・ひろし)



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