No.215
1999.2

ISASニュース 1999.2 No.215

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国連主催の宇宙科学会議

槙野文命   

 私は国連が主催する「基礎宇宙科学」と題する会議に2度出席した。この会議はNASAESAの支援で1991年以来毎年開かれているもので,私が参加したのは,1994年1996年であった。1994年の会議はエジプトのカイロで開かれた。会議の趣旨も良く理解せず,普通の宇宙科学の国際会議かと思って,行ってみると,大違いであった。参加国は米,欧,日の宇宙先進国とアフリカ,西アジア,中米の十数ヵ国程度であった。先進国といっても限られた分野で,アメリカは惑星協会から数人と他に3人程,ヨーロッパから数人,日本から1人で,多くは地元のエジプト人であった。講演の内容は様々で,何が出てくるかわからないという有様であった。「西アジアにおける宇宙科学」という講演は西アジアのある国の大学で,天文コースを作るのに苦労した話であった。途上国を自称する中国は「中国における宇宙科学」という講演を行い,宇宙研と共同で行った日中共同気球実験を最大の成果として挙げた後,有人衛星を計画しているといって驚かせた。地元エジプトは宇宙論のセッションを独占し,むずかしくて私には理解できないセッションが半日続いた。NASAから急拠帰国した教授による衛星のシステム設計に関する1時間の講演,日照や薄明光など,様々な分野にわたって大勢の発表があった。「アブシンベルにおける夕方薄明光の明るさと色の変化」といった題目はこの国にいかにもふさわしいそうな響きがあった。「ケニアにおける宇宙科学」という珍しい講演もあった。途上国の研究者の中にはヨーロッパやアメリカで研究を行なっている人もいて,その水準は高いものも少なくなかった。惑星協会はマーズパスファインダーやカッシーニ,将来の火星生命探査などについて入れ替わり立ち替わり講演した。ドイツはX線衛星ローサット,日本はやはりX線衛星「ぎんが」,「あすか」の成果を講演した。最も失望したのは,主催者である国連代表者の講演であった。カミオカンデをはじめ世界中の太陽ニュートリノのデータを集め,強度変動の解析を行なって,11年周期があると結論した。太陽の中心から光が外へ出るのに何年かかるかわかっているのか,という質問が出たのは当然である。これで,この会議にすっかり興味を失った。会議の特色は毎日,夕食後に開かれるワークショップで,途上国の現状や要望を聞くことである。ESAの代表として来ていた私の知人が司会をし,要領良く意見をまとめていた。この席上,日本が途上国援助で天体望遠鏡を供与していることが,高く評価されていることを知った。私はとりあえず,宇宙研の衛星による観測への参加や,データ解析の機会を提供することはできると述べた。彼とはよく,国連の代表者や途上国を話題にしながら,食事を共にした。ある日のワークショップでNASAから火星のボーリング機械の開発が提案され,これにエジプト側が興味を示して細かい質問を繰り返していた。1996年の会議で,実際にエジプトが開発を行なっていることを知って,驚いたものである。国連は要望をまとめて各国へ勧告書として送るだけで,援助をする資金はないということで,国連の無力を改めて知った。

 1996年の会議はドイツのボンで主にDARAの援助で開かれた。私はあまり気が進まなかったが,ESAの知人の勧誘もあって出席することにした。ヨーロッパで開かれたせいか,先進国の講演はハッブル望遠鏡による深宇宙探査,重力波観測の現状と将来,ローサットによる全天X線探査,γ線天文学など興味深いものが多く用意され,退屈しなかった。日本からは5名の参加があった。私は前回の反省から,途上国も参加できると思い,多波長観測の講演をしたが,反応はなかった。私の講演も含めて,日本の講演に豪華さはなく,天文学途上国という感じであった。毎日のワークショップは開かれず,天文教育に関する報告と討論会が開かれた。日本からの参加者の中にはこの分野の専門家もいて,活発に発言していた。私はもっぱら教育される側として聞いていた。国連の代表者の会議のまとめも何となく空々しく,無力感だけが残った。教育されるべきは国連ではあるまいかと思った。この会議の勧告がどの程度有効なのかはわからない。先進主要国で参加していない国が多くあるし,参加している途上国もほんのわずかに限られている。いつも決まった顔ぶれであることも気になることである。国連が取り上げるべき重要問題は他にいくらでもあるのではないだろうか。

(まきの・ふみよし)



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