No.215 |
ISASニュース 1999.2 No.215 |
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これに似た話は,戦後(この言葉に実感が持てる人は少なくなったが)の日本中にあふれている。政治(規制緩和),経済(金融ビッグバン)は言うに及ばず,子供の遊び(フラフープ,ゲイラカイト)から,スポーツ(サーフィン,スノーボード),自動車のオートマ化,嫌煙権にいたるまで,米国直輸入が目に付いてならない。学問,科学の世界でも似たような話が多い。アメリカで始まると,乗り遅れてはならじと間髪を入れずにそれに続く。さらに,実力をつけるための練習と言ってアメリカの計画に便乗して研究を始める。その結果,ただでさえ少ない予算と人材が圧迫されることになり自らの発想で研究をする余裕がなくなってしまう。
わが国のマスコミももう少し自国の研究に関心を持ってほしいものである。イギリスのネイチャーやアメリカのサイエンスに載れば大ニュースとして取り上げられるが,国内の学会誌,研究会の発表から取り上げられることは少ない。原爆展問題で辞任したスミソニアン博物館の館長は古くからの友人であるが,彼があるとき「日本のマスコミは頻繁にわれわれのところに取材に来るが,その度に“お国には世界的な研究所がいくつもあるのに,なぜ,そちらに行かないのですか?”と言っている」と言われて驚いたことがある。
もう一つ,誤解をされると困るが,米国直輸入の言葉で好きになれないものに「納税者への還元」と言うものがある。われわれは税金で仕事をしている以上(実はそうでなくても),納税者(国民)になんらかの意味で成果を還元しなければならないことは当然であるが,それが国民の「夢」をかなえる研究をしなければならないと短絡されるのは困ったものである。ましてや,アメリカで考えられたような夢を追っかけるなどとなれば論外である。そもそも夢などというものは見ようとして見えるものではない。よかれ,あしかれ(外国では悪夢は夢とは言わないが),夢は想像や希望などにはお構いなく,勝手に現われるものである。ボエジャーの見た惑星現象,電波やX線観測で発見されたパルサーやブラックホール,ハッブル望遠鏡の描き出す宇宙などは夢にも見たことのないような驚くべき真実ばかりである。勿論,大金を投じて行う事業であれば一般国民の理解と協力がなければ実現しないから,それを得る努力をするのは必要であるし,また義務でもあるが,それが目的で研究が発想されたり,実行されてはそれこそ国民を裏切るものであり,税金の無駄遣いである。
アメリカを真似したくないというのは決してその実力を軽視したり,侮ってはいるからではない。アメリカは過去の膨大な基礎投資の上に研究を進めており,それを支える研究者層,技術者層も桁違いに厚いことを考えれば,単純な真似では勝ち目がないと言うのが本音である。戦後のわが国の繁栄はアメリカ文化の直輸入によるところが大きい。これは経済や実用技術の世界では大成功であったかに見える。しかし,その成功に思い上がった結果がバブルであった。オリジナリティが命の科学,学問の世界で同じ憂き目には会いたくないものである。
正月のお屠蘇を飲み過ぎたせいか,何やらあやしげな文章になってしまった。やはり,医者の見たては正しかったようである。自らも襟を正して,身を引き締めなくてはならないと思う年の明けである。
(おくだ・はるゆき)
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