No.191
1997.2

ISASニュース 1997.2 No.191

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あけぼのから宇宙天気へ

小原隆博

(きっかけ)

 1970年2月,鉄腕アトムが大好きな岩手の小学生だった私は,「おおすみ」打ち上げの報道を大きな感動を持って見ていた。前年にはアポロの月着陸があり,時代は宇宙一色であった記憶がある。黄色いヘルメットを付けたおじさん達が真剣な表情で衛星打ち上げの仕事をしていた。それがきっかけだったのかもしれない。東北大学理学部地球物理の大家研究室に入り,宇宙空間物理学を学んだ。1980年にあこがれの内之浦に行ったのをかわきりに,EXOS-B,CそしてDと衛星を経験させて戴いた。

 2月1日付けで平磯宇宙環境センター(郵政省通信総合研究所)に移り,新しい仕事に着手しているが,移るにあたって的川先生から「いも焼酎」を書くように申しつかった。これまでの宇宙研での生活を振り返ると共に,これから行なおうとしている新しいプロジェクトについて述べさせて戴くことにしたい。


(あけぼのとの日々)

 EXOS-D(あけぼの)が私が最もかかわった衛星である。1989年2月に打ち上がり今なお順調に観測を続けている。プロトモデルからフライトモデルの製作に移ろうとする段階の86年,東北大学の大家研究室を巣立ち,宇宙科学研究所に助手として勤務することになった。衛星組立の現場で働く一方,衛星運用,データ処理について担当した。それまでは1サブシステムとして参加はしていたものの,EXOS-Dではシステム全体に関して理解する必要があり,随分多くの方々に教えて戴いた。プロジェクトマネージャーの鶴田先生の立ち振る舞いを見ては,マネージメントは如何にあるべきかを知った。そして運用の現場では,「衛星状態の僅かな変化が実は重大な危機の前触れである」との大家先生の言葉を胸に,危機管理的な立場から取り組んだ。

 あけぼのはオーロラの機構を解明する目的を持った衛星である。私はEXOS-C(おおぞら)ではじめて垣間見た極冠域をさらに詳しく見てみたかった。そこに見られるオーロラの正体が知りたかったのである。しかしなかなか活路が見いだせない時,西田現所長が実に明確にターゲットを与えてくれた。具体的に外国の幾人かの研究者を指差し,君がこれから納得させていかなければならないのは彼らだ,と勢いを込めて言われた。ターゲットが定まったからには丁寧に進めるだけだ。研究の進展は決して早くはなかったが,やっと最近になって極冠域オーロラ研究グループから講演の招待を受ける事が出来ている。


(宇宙天気予報)

 あけぼのに次いで打ち上げられたGEOTAILの観測から,磁気圏物理学のかなり本質的な理解に到っている。基礎物理を大切に進めて来た宇宙研の方針の正しさが証明されたと感じている。そんな中,オーロラや磁気圏物理の研究を精力的に進めて来たアメリカに変化が起きはじめていた。地球周辺(太陽も含めて)についてこれまで獲得された知識の社会への還元が問われはじめたのだ。公平に見て約半数のアメリカの科学者は,宇宙空間研究の社会的役割を意識した研究計画を持ちはじめた。

 その骨子は以下のようである。「21世紀に向けて人類が活動する空間になる。しかし一方そこはとても恐ろしい空間で,常に放射線の驚異にさらされる場所である。放射線の総量は太陽フレヤーや磁気嵐等によって大きく変動する。これからの研究はフレヤーや磁気嵐の発生,およびこれに伴う放射線量の変化を予測,予知する事に向けられる」と言うものである。これは別名「宇宙天気予報」とも呼ばれ,アメリカの国家プロジェクトになっている。

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 日本においては,宇宙空間科学のある意味でのアプリケーションとも呼べる「宇宙天気予報」への取組は,ここ郵政省平磯宇宙環境センターに於て行なわれている。太平洋が眼下に望める白亜のセンターの一室で,今日もメンバーの人達と97年度の計画について検討した。私達のグループは,これまでの経歴もあって主として磁気圏を中心に宇宙天気予報を実現しようとしている。平磯にもう一つある太陽の研究室では高精度の偏光望遠鏡を新たに製作中で,これとすでに製作が完了,稼働している太陽電波望遠鏡を用いて,太陽フレヤー予知に挑もうとしている。


(ふるさとの桜)

 もう10年以上も前になるだろうか。宇宙科学研究所に助手として勤務することになった時,大家先生が下さった色紙を,今,見ている。郷里盛岡の岩手県公会堂前には,大きな岩を2つに割ってその合間から太い幹を大空に向かって伸ばしている桜がある。盛岡の人達はこれを“石割り桜”と呼んでいるが,先生は色紙の中で“石割り桜”の力強さを賛美し,かくあるようにとの教えを下さった。樹齢はいかほどであろうか。父も母も見て育ったと聞くこの桜にあやかって,予報に挑んでいきたいと思っているところである。

(通信総合研究所・平磯宇宙環境センター,おばら・たかひろ)



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