No.188
1996.11


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惑星探査ローバ自律走行実験



 9月16日から19日にかけて,月・惑星探査ローバの走行実験を伊豆大島の奥山砂漠(三原山の東山麓)で行いました。一般公開でおなじみのローバですが,惑星環境を模擬した場所で走行実験を行うのは,今回が初めてです。本実験では,ローバが人間の支援なしに自ら環境を認識し,経路計画をたて,障害物にぶつかることなく与えられた目的地に到達する自律機能の検証が目的です。
 ローバは惑星表面など不整地を走破可能なようにアルミ製車輪を有し,4輪独立に駆動します。 またステアリング機構を備え,前後左右に自由に移動できます。さらに移動可能な経路を生成するために,3次元地形認識用レーザーレンジファインダを搭載しています。ローバは,搭載コンピュータによって種々のセンサ情報を処理して,大きな岩や窪地の認識,マップの生成,経路計画,自己位置同定,誘導制御,予期せぬ障害物の回避など高度な知能を備えています。
  実験場所は,大島1986年噴火の 1B大の火山礫からな る荒地で4WD車がどうにか走行できる地形です。 実験日初日はプログラムのバグなどで,ローバが急斜面を降りすぎて後退できなくなったり,障害物が何であるか判断できなくてじっと考え込んでしまったりしました。調整の結果,最終日には時速 1Hと低速ながら長距離走行に成功しました。また,障害物に囲まれるような複雑な地形でも迷路から脱出することができ,実環境における貴重なデータを取得することができました。子ローバの写真は,クレータなど険しい場所の探査を行う多脚ローバ(六足走行)で,急斜面における走行データを取得することができました。最後に,本実験を行うにあたり,ご協力いただいた日産自動車の方々に心より感謝いたします。

(久保田 孝)

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第4回宇宙機関会議

 さる10月9日(水),国際宇宙航行連盟(IAF)総会の開催に合わせ,第4回宇宙機関会議(SAF)が中華人民共和国の北京市において開催された。西田所長と的川が科学技術庁の奥村調査国際室補佐,宇宙開発事業団の大沢顧問とともに出席した。今回の主催は中国国家航天局(CNSA)で,NASA,ESAをはじめとする40機関の代表が顔をそろえた。

議事内容を列挙すると,
・新メンバーとしてルーマニア宇宙機関(ROSA)を承認した。
・基調講演(CNSA代表およびIAF会長 Deutsche 博士)
・各機関の報告

・フォーカス・グループの報告
 @“Mission to Planet Earth”から得られる発展途上国の利益の拡大
 A宇宙教育
 BSAF Award
 の3つについて報告がなされ,
@は今回の報告で活動終了,
Aはその活動を国際宇宙大学(ISU)に移管,日本が世話役を務める
Bは選定委員会のメンバーが決まった。

・イスラエル宇宙機関の提案
 2002年にIAF / COSPAR / AIAAの共催でアメリカで開催される World Space Congress に合わせて
“Mission to Planet Earth - Part”をSAFの主催で開催することが提案され、今後1年間検討することになった。

・規約改訂
 @SAFはIAFと同時開催とする。
 A継続性を保証するため前回会合の議長と当該会合の議長が共同議長を務める。
なお,次回SAFは来年のIAF(イタリアのトリノ)に合わせ,10月8日に開催する方向で検討することとし,担当機関をASI(イタリア宇宙機関)にESAから依頼する。

(的川泰宣)

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DOM-2-1・2真空スピン地上燃焼試験

 DOMは,来年度に予定されているLUNAR-Aミッションにおいて,月震計などを搭載した3機の槍型観測機(ペネトレータ)を月周回軌道から月面に投下するための“逆噴射 ”用小型固体ロケットモータです。その試作2号機=DOM-2の地上燃焼試験が,10月10日,14日の両日,能代ロケット実験場で行われました。
 DOM-2は,今年3月に行われた試作1号機=DOM-1の地上燃焼試験結果を踏まえて設計された飛翔型仕様のモータです。特に今回は,同時に製造された複数のモータで推進性能や重量特性にどの程度のばらつきがでるかを調べるため,外見も中身も全く同じ“双子のDOM-2”(写真:DOM-2-1,DOM-2-2)が試験に供されました。

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 燃焼試験は,前回同様,ユニークな二重真空槽方式の高空性能試験設備で作り出される低圧環境の下,モータ中心軸回りに2Hzの強制スピンを加えた条件で行われました 。両モータの着火・燃焼は正常で,推力,圧力,温度など合計50点の良好な計測結果と光学記録が得られました。今回の試験では,計測項目が多数追加された上に今まで以上に計測精度に神経を尖らせていたこともあり,その結果に実験班関係者一同ほっと胸をなで下ろしているところです。
 今後,試験データを基にした最終的な見直し作業を経て,飛翔型モータの設計・製造が行われます。飛翔型DOMは“四つ子”で,一機は最終的な性能確認のため地上燃焼試験で,残りの三機はペネトレータを月面に投下すべく月周回軌道上で務めを果たす予定です。

(徳留真一郎)

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第2回国際月探査ワークショップ

 さる10月14日より17日の4日間にわたり京都リサーチパーク内で第2回国際月探査ワークショップと国際月探査ワーキンググループ(略称ILEWG:イリューグ)の会議が開催された。これは2年前に開かれた国際会議に引き続き,ILEWGの支援のもとに,日本で開催されることになったものであり,宇宙科学研究所と宇宙開発事業団が共催した。この会議の目的は将来の月探査に関する各国の活動について情報交換を行うと共に,国際協力により各国の月探査をさらに実りあるものにするにはどうしたらよいか,さらに進んで大型の継続的な月探査に関する国際的戦略について考えようとするものであった。

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 秋の京都で開かれるという地の利もあってか,外国からの参加者も多く,各国の宇宙開発機関,大学,研究所,企業などから11カ国,140人以上のサイエンティスト,エンジニアが集まった。
 14日と17日の午後は各国の宇宙開発機関からの代表を主とするILEWGの会議が開かれ,各国の月探査に関する実情,将来展望,などの報告の他,月探査に関する活動をさらに活発化するための方策などが議論された。15日から17日の3日間は国際月探査ワークショップに当てられ,初日と最終日の午前中は全体会議,残りの時間は「月の科学」,「月からの科学」,「月の環境と資源の利用」,「インフラストラクチャーの開発」の4つの分野に分かれての分科会が開かれた。全体会議,分科会ともに大変興味深い講演と活発な議論が行われ,多くの参加者から感謝の言葉を頂けた事は主催者として特に嬉しいことであった。また最終日の夜には嵐山において月見の会を開いたが,これも好天に恵まれ,京都を国際的な月の都にする事に貢献できたのではないこかと考えている。
 この会議の成功は,どんな難しい注文についても,たいがいのことはこなしてくれた対外協力室の的川教授,国際調整課の荒井さんを始め,宇宙開発事業団の岩田さん,宇宙フォーラムの小沢さん,NASAのピルチャー博士,デューク博士など多くの人々の献身的な協力に負うところが多く,全体議長を務めた私にとっては,これらの人々に足をむけて寝られない日々が続きそうである。

(水谷 仁)

ILEWG会議に参加した各国の宇宙機関の代表たち


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宇宙空間に漂う有機分子の発見

 星と星の間の星間空間には極めて希薄とはいえ様々な物質が存在している。そのほとんどをしめるのは水素で分子,原子あるいはプラズマとして存在している。一方,星間空間には固体物質としての宇宙塵も存在している。宇宙塵は遠方の星の減光,赤外線による熱放射等の観測によって,その性質が調べられてきたが,その結果,宇宙塵は大きさが0.1ミクロン程度であり,酸化珪素,つまり岩石に近い物質がその主成分であるとこれまで思われてきた。

 昨年3月に打ち上げられたSFU搭載赤外線望遠鏡IRTSは星間空間の宇宙塵のかなりが有機物ではないかという新たな発見をもたらした。図1はIRTSに搭載されていた近赤外分光器(NIRS)と中間赤外分光器(MIRS)が観測した銀河面の平均的なスペクトルである。これまでの観測では波長幅の広い測光観測しかなく,このような複雑なスペクトル構造が観測されたのは初めてのことである。このスペクトルは銀河面上のいたるところで観測され,星の分布とは明らかに異なっていることから星間空間起源であることは確実である。この種のスペクトルは惑星状星雲など,特殊な天体においてこれまでにも観測されていたもので,多環式芳香族炭化水素(Poly Aromatic Hydrocarbon) ,分子量数100程度の有機物高分子がその起源とされている。


図1 IRTSによって観測された銀河面のスペクトル


図2 各種多環式芳香族炭化水素:PHAの予想されるスペクトル。
最上段図中の数字は天体から観測される波長を示す。
各図の左側に分子構造が示されている。

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 図2は各欄の左側に示したような分子構造を持つPAHのスペクトルを実験室で測定した結果を示したものであるが,IRTSで観測された波長にほぼ対応した構造が存在することがわかる。もっとも,数ミクロンの波長の熱放射は絶対温度100K以上のかなり高温でないと放射されないので,PAHにたまたま紫外線があたって過渡的に温度が上がったときにのみ放射されると思われている。一方,通常の宇宙塵はその熱放射(絶対温度10〜20K)が赤外線観測によって詳しく観測されているが,IRTSで観測されたPAHの分布との相関が極めて良い。このことはPAHのような有機物が星間空間に常に一定の割合で普遍的に存在することを示している。存在量の推定は簡単ではないが,星間物質の1%程度とおもわれ,星間物質のかなりが有機物ということになる。

 今年の夏,火星に生命が存在するのではないかという衝撃的なニュースがNASAによって発表されたが,そのときに生命活動の有力な証拠とされたのが隕石中に含まれていたPAHであった。今回の発見が生命活動あるいは生命の起源と直接結びつくわけではないが,有機物が宇宙ではごくありふれて存在し,太陽系が生成された時にも既に存在していたということは興味深いことである。

(松本敏雄)

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