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佐藤浩介 東京理科大学 総合研究機構
超新星爆発による重元素合成
誕生して間もない宇宙には、ほとんど水素とヘリウムしか存在していませんでした。では、私たちの体を構成し、身のまわりにある酸素や鉄といった元素(これらを「重元素」と呼ぶ)は、いったいどのようにしてつくられたのでしょうか? 現在ある重元素のほとんどは、超新星爆発によって合成され、そして宇宙空間へばらまかれました。超新星爆発には、太陽の10倍以上重い星が重力崩壊して爆発するII型と、軽い星の最期である白色矮星の連星系が起こすIa型があります。II型は主に酸素などの比較的軽い元素を生成し、Ia型は鉄などの多くの元素を生成します。よって、さまざまな重元素の量を観測することができれば、これまでIa型とII型がどのような割合で起こったかを知ることができます。つまり、宇宙誕生以来どのような星がどのくらい生まれ、そして死んでいったのかという歴史を知ることができるのです。
「すざく」による銀河団の観測
銀河の集団である銀河団は、宇宙で最大の重力的に緩和した天体であり、その強い重力のために銀河団を構成する銀河でつくられた重元素が逃げ出せずに、すべて閉じ込められていると考えられます。また、銀河団中は強い重力で束縛された数千万度という高温のプラズマで満たされていて、図22のようにX線を放射しています。そのX線スペクトルは、図23に示されているようになります。X線スペクトルは、X線のエネルギー(横軸)とX線の強度(縦軸)の相関を示したもので、連続的に分布する成分と元素から放出される成分(線スペクトル)に分けられます。線スペクトルは、特性X線という各元素により固有のエネルギーを示します。図23に示すような特性X線の強度を測定することで、X線を放射する高温プラズマ中にどれくらい各元素が存在しているかを知ることができます。「すざく」は、これまでの衛星と比べて線スペクトルの決定精度が高く、このような観測にとても適しています。
図23
銀河団を満たす高温ガスから放射されたX線のエネルギーごとの強度 |
銀河団観測から「すざく」が明らかにしたこと
私たちは、4つの銀河団(AWM7、Abell1060、HCG62、NGC507)の観測データを詳細に解析して、高温プラズマ中に含まれるIa型、II型で合成された重元素の量を求めました。そして、超新星爆発の理論モデルを用いることで、Ia型、II型からどのような割合で重元素が生成されたのかを調べました。 その結果、酸素やマグネシウムがほとんどII型で生成されたのに対し、鉄は主にIa型で生成されていることが分かりました。また、この結果から銀河団で宇宙誕生から現在までに起こった超新星爆発の総数を求めたところ、II型がIa型より約3倍も多く起こっていることが分かりました(図24)。現在、銀河団中ではII型はほとんど見られませんが、銀河形成期には現在よりも重い星が多くつくられ、盛んに爆発していた証拠を重元素が残していたと考えられます。今回得られたII型の回数を、銀河の明るさ当たりの爆発回数は同じとして我々の銀河系で換算してみると、宇宙が始まって以来、数億回爆発したことになります。このような大量の超新星爆発を経て、現在の宇宙は形成されてきたことが分かりました。
(さとう・こうすけ)