宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 特集 > X線天文衛星「すざく」 > 銀河の大爆発がつくった巨大プラズマの「帽子」

特集

銀河の大爆発がつくった巨大プラズマの「帽子」

鶴 剛 京都大学大学院 理学研究科

「すざく」衛星は、おおぐま座の銀河M82から北へ約3万8000光年離れて位置する巨大なプラズマの塊「M82の帽子」から、大量の重元素を発見しました。そして、約2000万年前にこの銀河で超新星爆発約1万個分の大爆発が起こり、高速のプラズマ流を放出したことで、この「帽子」がつくられたことを解明しました。「帽子」は小さな銀河に匹敵する大きさ(約1万2000光年×約3000光年)を持っていますが、淡い構造のため、これまで十分な観測をすることができませんでした。高感度の「すざく」は鮮明な「帽子」の撮影に成功し、世界で初めて極めて高い精度のX線データをもたらしたのです(図21)。

図21 「すざく」の裏面照射型CCDで得たX線画像
M82銀河の場所には、米国のX線天文衛星チャンドラ、ハッブル宇宙望遠鏡、赤外線天文衛星スピッツァーで取得された3色写真を重ねた。 (M82銀河の場所の3色写真は、X線:NASA/CXC/JHU/D.Strickland、可視光:NASA/ESA/STScI/AURA/The Hubble Heritage Team、赤外線:NASA/JPL-Caltech/Univ. of AZ/C. Engelbrachtによる)

 X線データ解析の結果、巨大プラズマの温度は約700万度であり、酸素、ネオン、マグネシウム、ケイ素が大量に含まれ、鉄は相対的に半分にすぎないことを見つけました。これらは、銀河の中にのみ存在する巨大な恒星が、超新星爆発を起こしてつくった重元素です。銀河本体から約3万8000光年も離れた「帽子」の中で、それらが発見されたのは実に驚くべきことです。さらに「すざく」は、「帽子」と銀河本体の間からもX線を検出しました。両者を結んで高温プラズマが満たされていたのです。プラズマの速度は秒速数百km、銀河本体から「帽子」に到達するには約2000万年が必要です。つまり、約2000万年前にM82銀河で大爆発が起こり、超高温プラズマの灼熱風(銀河風)が放出され、今現在、「帽子」と呼ばれる特異な構造をつくったと結論できます。
「すざく」は、天の川銀河中心で超新星爆発が連続的に起こり、巨大な超高温プラズマで満たされていることを明らかにしました。M82銀河で起こったことは、それをはるかに超えた規模の爆発だったのです。実際、現在でもこの銀河の中心には天の川銀河中心の約1万倍に近い質量の巨大プラズマが存在しています。
「あすか」の観測をきっかけに、私たちは2000年9月、このM82銀河から中質量ブラックホールを発見し、10月には電波研究者とともに、その中質量ブラックホールは約100万年前の超新星爆発約1万個の大爆発から誕生したことを明らかにしました。「帽子」も、ちょうど超新星爆発約1万個分の規模です。約100万年前と同様に、約2000万年前の大爆発でも中質量ブラックホールがつくられただろうと、私たちは考えています。
 現在もM82銀河は活動を継続しています。これからも大爆発を起こし、そして中質量ブラックホールもつくられていくでしょう。一方、「帽子」の巨大プラズマは簡単には冷えません。これからも秒速数百kmで宇宙の旅を続けていくことでしょう。

(つる・たけし)