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特集

イトカワはいつ,どこからやって来たか?

中村良介 産業技術総合研究所 研究員

 月の表面には、宇宙空間から降ってくる物体の衝突によって、クレーターと呼ばれる円形のくぼみが形成されています。月を望遠鏡で見ると、ウサギの模様になっている暗い部分(海)と周囲の明るい部分(高地)では、クレーターの数がまったく異なることが分かります。高地には無数のクレーターが存在するのに対し、海にはあまりクレーターはありません。アポロ計画によって月から持ち帰られた岩石の分析から、“海は高地よりもずっと新しい”ということが明らかになりました。海は高地よりも後になってできたとすれば、衝突する天体の合計数が少なくなり、その分クレーターの数も減るのが当然です。このように月では、ある地域のクレーター数とその地域の形成年代を対応付けることができます。
 月ほどは目立たないものの、イトカワにもクレーターはきちんと存在しています(イトカワの衝突クレーターを求めて 参照)。では、月と同様に、イトカワ上のクレーターの数とイトカワが形成された年代を対応付けることができるのでしょうか? 実はほとんどの小惑星は、火星と木星の間に存在する“小惑星帯”と呼ばれる領域に存在しており、イトカワのように地球の近くにやって来るもの(地球接近小惑星)は少数派です。イトカワも、もともとは小惑星帯にいたと考えるのが自然でしょう。小惑星帯では、地球や火星近辺に比べて衝突する物体の数がはるかに多いため、同じクレーター数に対応する形成年代は、月よりもずっと若くなります。イトカワは、“母天体”と呼ばれるより大きな小惑星が破壊された後に、その破片が合体してできたと考えられています。イトカワ上のクレーターの数から、この母天体の破壊年代(=イトカワの形成年代)を見積もると、数千万〜数億年となります。
  イトカワ上の100mの大きさのクレーターは、数mの大きさの物体の衝突によってできたと考えられます。イトカワに衝突しなかった数mの物体の中には、最終的に地球に落下し、隕石となったものもあるかもしれません。イトカワの上のクレーターは、ある意味では、“隕石”の衝突によってできたということもできるわけです。また、「はやぶさ」の最接近画像には、数cm程度の小さな白い点がたくさん写っています。宇宙風化(イトカワ表面の色と反射率の多様性 参照)によって暗くなった岩石の表面に、小さな物体が高速で衝突すると、クレーターの底には風化していない内部の明るい物質が露出するはずです。図8に見える小さな明るい点は、こうした微小クレーターだろうと考えられています。

図8 最接近画像の一部。左は1.2m、右は3.2m四方をカバーしている。中心付近に写っている白い点は、微小天体の衝突によって形成されたクレーターだと考えられる。

  小惑星帯での衝突を免れた微小物体の一部も、隕石と同様に共鳴を通じて地球にやって来るはずですが、地表に到達する前に大気との摩擦で流星となって燃え尽きてしまうでしょう。またイトカワ自身も、数百万年すると地球やほかの惑星などに衝突してしまうと予測されています。実際、月の海に存在するクレーターのほとんどが、イトカワのような地球接近小惑星の衝突によって形成されたと考えられています。
 このように、「はやぶさ」の取得した高解像度画像は、イトカワ本体はもちろんのこと、隕石や流星、月のクレーターの起源についても重要な情報を提供してくれているのです。

(なかむら・りょうすけ)