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特集

ボルダーの分布

道上達広 福島工業高等専門学校 専任講師・ISAS/JAXA共同研究員

 「はやぶさ」が小惑星イトカワを訪れた際、研究者の一番の驚きは、表面が非常に多くのボルダー(岩塊)や石で覆われていたことでした。図5はイトカワの東側を撮像したもので、その表面のクローズアップ画像をまわりに示してあります。まずはボルダーの地域別の特徴について見てみましょう。
 小惑星の表面は、メートルサイズのボルダーが多く存在する“ラフ地域”と、センチメートル、ミリメートルの大きさの石、小石がそろって構成される“スムース地域”に分かれます。数m以上のボルダーの9割以上がラフ地域に存在しています。イトカワは、頭と胴体からなる特徴的な形状をした小惑星です。頭と胴体でボルダーの分布を調べたところ、単位面積当たりの数は頭の方が胴体よりも多いように見えますが、これは胴体にスムース地域が集まっているためで、頭と胴体のラフ領域だけ比べるとそれほど大きな違いはないと考えられます。また、20m以上のボルダーはイトカワの西側に偏っていますが、数m以上のボルダーの数で見ると東側と西側でほとんど差はありません。これらのことは、以前探査された小惑星と比べて、イトカワのボルダーがラフ地域に偏りなく散らばっていることを意味しています。しかしながら、ボルダーの分布についてはよく分かっていないことも多く、現在研究が進められています。

  

図5 イトカワの東側とその表面の一部のクローズアップ画像(見やすくするため画像の偏光子の部分を加工してある)
© 東京大学総合研究博物館/JAXA

  これら多くのボルダーは、どこから来て、どうやってできたのでしょう? 天体表面には隕石などの天体が絶えず衝突し、クレーターと呼ばれる穴がいくつも形成されます。ボルダーは、クレーター形成などの衝突を受けて飛び出した表面の破片が、天体の重力によって捕獲され、再び天体表面に降り積もることでつくられます。この際、破片の捕獲には天体の重力が大きな影響を及ぼします。つまり、重力が小さいと、ほとんどの破片が天体から逃げていくことになるからです。イトカワはこれまで探査機が直接訪れた天体としては最も小さく(大きさが535×294×209m)、それより前に米国の探査機が訪れた小惑星エロス(大きさが34.4×11.2×11.2km)の約50分の1という大きさです。探査機が到着する前は、イトカワは重力が小さいため、飛び出した破片を捕獲することができないと、考えられてきました。つまり、のっぺらぼうの表面でもおかしくないと多くの研究者は考えていたわけです。ところが、イトカワの表面はこれまで見たことがないぐらい多くのボルダーで覆われていたのですから、研究者は驚いたわけです。
 ボルダーの単位面積当たりの数は、小惑星エロスよりも多いことが分かっています。イトカワ以前に探査された小惑星のボルダーは、いずれもクレーター起源であると考えられてきました。イトカワの場合、それらの多くのボルダーをクレーター起源だけで説明できるのでしょうか? 例えば、クレーター起源の場合、そこから生じたボルダーの大きさとクレーターの大きさには、ある関係式が成り立つことが知られています。小惑星エロスの場合は、最大のボルダーが約130mで、これは直径が約7.6kmのクレーターから生じたと、今までの関係式で説明することができます。ところが、小惑星イトカワの場合は最大のボルダー(愛称:由野台)が約50mと、全体の大きさに比べて大きく、イトカワ表面にある最大のクレーターを用いても、今までの関係式で説明することができません。つまり、クレーターの大きさに対してボルダーが大き過ぎるのです。またイトカワは、ほかの小惑星に比べてクレーターの数が少ないように見えます。そのため、クレーターの総体積に比べて、これまでの小惑星よりもボルダーの割合が大きいことが分かっています。
  以上のことから、イトカワのボルダーがクレーター以外で多くつくられたこと、つまりイトカワよりもはるかに大きな母天体がほかの天体の大きな衝突を受けて大きく壊れ、その破片の一部が互いに集積し合って現在のイトカワを形成したのではないか、と考えられています。

(みちかみ・たつひろ)