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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第497号

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ISASメールマガジン   第497号       【 発行日− 14.04.01 】
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★こんにちは、山本です。

 4月1日 新しい年度が始まりました。管理棟前の「ソメイヨシノ」も満開になりました。

 ISASメールマガジンも あと3号で500号になります。登録者数は1万1千人を超えています。

 これからも、ISASの【今】を読者の皆さんに 毎週届けられるように、ワクワク・ドキドキが伝わるように、気を引き締めて編集に取り組みたいと考えています。

 3月20日に展示室に設置された「来場記念ポストカード作成機」ですが、連日300枚程の利用があるようです。
帰りがけに展示室の守衛さんに挨拶すると、一所懸命に作成機のプリンターを調整しているところでした。どうも、夕方には プリンターも疲れてしまうんですネ(編注:4月9日現在、不具合のため使用できません)

 今週は、昨日までは宇宙物理学研究系所属で、4月から東北大学国際高等研究教育機構 学際科学フロンティア研究所の津村耕司(つむら・こうじ)さんです。

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★01:赤外線天文衛星「あかり」のデータの想定外の使い方
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★01:赤外線天文衛星「あかり」のデータの想定外の使い方

 赤外線天文衛星「あかり」は2006年2月22日に打ち上げられ、2011年11月24日に運用終了(停波)されるまでの5年半以上に及ぶ期間で大量のデータを取得しました。

例えば「すばる望遠鏡」などの地上望遠鏡の場合、太陽が昇っている昼の間や、夜でも曇っていたら観測できません。一方で「あかり」のような人工衛星の場合、宇宙からなので天気に関係なく毎日24時間常に観測可能です。

つまり、「あかりの5年半」は地上望遠鏡にとっては11年分の観測をした事に相当する、と言う事もできます。(「あかり」も色々なトラブルの関係等で、5年半の期間中ずっとフルで観測していた訳ではないので、実際はもうちょっと短いですが)


 そういうわけで、「あかり」が5年半の間に観測したデータ量は膨大です。また、「あかり」の様な人工衛星では地球大気の影響を受けないので、地上の望遠鏡からでは不可能な観測も可能です。まさにこれが「あかり」のような宇宙望遠鏡を人工衛星として打ち上げる理由です。

しかも、人工衛星はそう頻繁に打ち上げられるものでもないので、「あかり」の様な人工衛星で得られたデータは非常に貴重です。この貴重な「あかり」のデータを「しゃぶりつくす」為に、観測したデータのほとんどを世界の研究者達に公開しています。これを「アーカイブ」と言います。

「あかり」の運用が終了した後に、「あかり」のデータを使った研究を思いついた場合、この大量にアーカイブされたデータを用いて研究を進める事ができます。このように、「あかり」が現役を引退した後も、「あかり」が観測したデータは永く天文学研究に活用され続けます。


 さて、私は先日、まさにこの様に「あかり」のアーカイブデータを用いて研究を進め、その成果を論文発表し、宇宙研からweb公開もさせていただきました。(年末の差し迫ったタイミングでの発表だったため、あまり注目されませんでしたが)
新しいウィンドウが開きます https://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/PR131227/pr131227.html


 この研究では、「あかり」のデータを用いて、星や銀河等が写っていない「何もない空」のスペクトルを、赤外線で精度よく調べました。一見「何もない空」も、本当に「何もない」訳ではなく、実はうっすらと光っています。この「何もない空」からの光には
 (1)太陽系からの光(黄道光)
 (2)銀河系(天の川銀河)からの光
 (3)遠方宇宙からの光(背景放射)
という3つの成分が含まれている事が知られています。

私たちの研究目的は、そんな「空の明るさ」から(3)を抽出する事です。(3)の成分を詳しく調べる事で、宇宙誕生直後の「宇宙最初の星形成」を調べられるかもしれないからです(※)。

そんなお宝の(3)をデータを得るためには、観測データから邪魔者の(1)や(2)を精度よく差し引く必要があります。従って、差し引くべき邪魔ものである(1)や(2)も詳しく知る必要があります。そのためには、(1)が強い天域や(2)が強い天域なども含む、広い空をまんべんなく観測したデータが必要です。そこで、「あかり」のアーカイブデータの出番です。

(※)詳しくは以下の過去のメールマガジンをご覧ください
松浦周二:CMBとCIB(第487号)
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2014/back487.shtml

津村耕司:遠くの宇宙と近くの宇宙(第422号)
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2012/back422.shtml

松浦周二:宇宙背景放射を測るという仕事(第344号)
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2011/back344.shtml

津村耕司:宇宙赤外線背景放射で探る宇宙の暗黒時代(第310号)
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2010/back310.shtml


 「あかり」は現役時代に色々な天域を観測しました。これは、色々な研究者が、自分の研究目的のために、色々な天体を観測したからです。
「○○を調べたいので、☆☆という星を、**というモードで観測」
「△△を調べたいので、★★という銀河を、※※というモードで観測」
という感じです。

こういったデータがアーカイブ化されています。例えば「☆☆という星」を観測したデータは、将来別の目的でその星を研究したいと思った別の研究者がそのアーカイブデータを使う事ができます。

一方で、「☆☆という星」に興味がない人にとっては、そのデータは意味が無い物かもしれません。ところが、その「☆☆という星」を観測したデータには、「☆☆という星」だけではなくその周りの天体も一緒に写っています。

そして、今回私が調べたかったのは、「色々な天域での空の明るさ」です。なので、そのデータの「本来の目的」が「☆☆という星」の観測であったとしても、自分には関係ない、自分はそのデータの中の「☆☆という星」は見ずに、その周囲の空の明るさを調べる、という使い方をします。

つまり、「☆☆という星」の観測データも「★★という銀河」の観測データも全部、私の研究に使えます。むしろ、色々な天域の空の観測データがあった方が、都合が良い訳です。このように、観測者本人は「想定していなかった」データの使い方をします。


 そういう感じで、「あかり」の大量のアーカイブデータの中から、自分の研究にとって必要なモードで十分高い精度で取られたデータを「いいとこどり」して解析し、何も写っていない空の明るさを「(1)と(2)と(3)」に成分分離する事に成功しました。

我々の研究の目標は(3)を抽出する事で、その目的にとっては(1)と(2)は邪魔者でしたが、太陽系を研究している人にとっては(1)が、銀河系(天の川銀河)を研究している人にとっては(2)がお宝になり得ます。

このように、「近くの宇宙(=太陽系(1))、ちょっと遠くの宇宙(銀河系(2))から、とても遠くの宇宙(銀河系外(3))まで」を同じデータセットから同時に研究できる事が、「空の明るさ」を用いた研究の面白さであり、醍醐味です。

また、私の研究の成果として得られた、「あかり」のアーカイブデータから作った「色々な天域での空の明るさのスペクトル」を、宇宙研のウェブサイトを通じて世界の研究者に公開しました。このデータからまた、データ制作者本人(=私)が想定していなかった成果が出てくれると嬉しいです。

このような感じで、「あかり」の運用・観測は終了してしまいましたが、「あかり」が遺した大量の観測データは、まだまだこれからも天文学の世界で活用され続けていきます。そして、このような「あかり」による成果が、次の「SPICA」へと引き継がれていきます。


 最後になりましたが、私事で恐縮ですが一つご報告をさせてください。

私は大学院生の5年間、ポスドクの4年間の計9年間、この宇宙研の赤外線グループで研究をさせて頂き、本メールマガジンにもこれで3回目の登場となりましたが、今年の4月から、東北大に異動する事になりました。東北大は学部生時代に4年間過ごした所で、母校に今度は研究者として戻る事になります。

とはいえ、今まで進めてきた研究を東北大でも宇宙研との共同研究という形で続けていく予定ですので、これからも引き続き応援よろしくお願いします。

(津村耕司、つむら・こうじ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※