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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第487号

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ISASメールマガジン   第487号       【 発行日− 14.01.21 】
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★こんにちは、山本です。

 昨日20日は大寒 でした。この寒さはいつまで続くのでしょうか
関東地方ではインフルエンザが勢力を増加させています。

それと、増えているのが スパムメール
皆さんからの感想や質問は少ないのにスパムばかりが増えています。

エーイ!インフルエンザにもスパムにも負けないぞ!

 今週は、宇宙物理学研究系の松浦周二(まつうら・しゅうじ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:CMBとCIB
☆02:宇宙学校・ふくしま【こむこむ】1月26日(日)
☆03:臨時休館とWebサービス停止のお知らせ
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★01:CMBとCIB

 ご記憶の方がおられるかもしれませんが、2年ほど前に本メルマガにて私が携わっている宇宙背景放射の研究についての記事を掲載しました。今回は、その続編として最近の宇宙背景放射研究について書かせていただきます。
(ISASメールマガジン 第344号
 ⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2011/back344.shtml


 宇宙は138億年前に「ビッグバン」と呼ばれる大爆発により生まれたと考えられています。

ビッグバン当時の灼熱の宇宙が出した光は、爆発の勢いのまま宇宙が膨らんでゆくとともにその波長がのびて、目に見えないマイクロ波の宇宙背景放射(CMB)として現在観測されています。CMBは、教科書的なほぼ完全な2.83Kの温度の黒体放射スペクトルをもっており、その温度はどの空を見ても10万分の1ほどのわずかな「むら」しかありません。

私たちが夜空を見上げると星や銀河が所々に輝き「むら」だらけですが、CMBが発せられた宇宙の始まりには、星や銀河は生まれておらずほとんど一様だったことを示しています。研究者達は、CMBのわずかな温度むら(CMBゆらぎ)を精密に調べることにより宇宙の始まりに関する情報を得ようと日々努力しているのです。


 CMBの観測は地上からも盛んに行なわれてきましたが、全天の観測が行なえる人工衛星はやはり強力な手段です。上記のようなCMBの性質を明らかにしノーベル賞を生み出したCOBE衛星(米国・1989年打上げ)やダークマターやダークエネルギーの存在量や宇宙の基礎常数を決定づけたWMAP衛星(米国・2001年打上げ)がそれです。

最新のCMB観測衛星は2009年に打上げられた欧州のPLANCK衛\星です。PLANCK衛星はこれまでになく高い精度でCMBゆらぎを捉えることから、多くの研究者がその観測結果を心待ちにしていましたが、ようやく2013年3月に様々な科学成果として大々的に公開されました。その成果のひとつが、CIBとの相関による重力レンズによりCMBゆらぎの歪みを検出した、というものです。


 CIBはCMBより波長の短い赤外線(波長1から300マイクロメートル程度)の宇宙背景放射です。

CMBの時代には星や銀河がありませんでしたが、その後、物質密度のわずかな「むら」は宇宙の膨張にともない成長し、やがて銀河や銀河団を形作ったと考えられています。

当初の銀河はガスやダストを豊富に含んでおり、主な放射エネルギーである紫外線や可視光が自身のダストが吸収してしまいます。その結果暖められたダストは赤外線を放射するため、宇宙初期の銀河は赤外線で明るく輝くと考えられています。

実際、現在から数億年ほど時代をさかのぼると赤外線で明るい銀河が凄まじい数で存在することが、日本のあかり衛星の観測などからわかっています。CIBはこのような多数の銀河の赤外線が視線方向に折り重なってぼんやり広がった放射(宇宙背景放射)として観測されたものです。


 では、なぜCIBは重力レンズと関係があるのでしょう。

宇宙の中で特に物質が集中している場所は銀河団です。銀河の形成は物質が集中する領域から優先的におこると考えられるため、CIBの強度むら(CIBゆらぎ)は銀河形成が活発であった10億年以上も前の銀河団分布を反映しているのです。

銀河団には、大量の銀河だけでなくその100倍もの質量のダークマターが集積しているため、その近くを通る光の進行方向はその重力により大きく曲げられてしまいます(重力レンズ)。遠方のクエーサーの光が我々に届く間の途中にある銀河団により曲げられて弧状の像を示すアインシュタイン・リングという現象はまさにこれです。

CMBは等方なので同現象はおこらない気もしてきますが、わずかなCMBゆらぎの分布は、やはり途中の銀河団による重力レンズ効果をうけて歪むことになります。つまり、重力レンズを橋渡しに、CMBとCIBのゆらぎの空間的な相関から宇宙初期の銀河進化や空間構造を研究することができるのです。

このような研究には広い空でCMBとCIBの両方を観測することが必要になりますが、PLANCK衛星は両者を同時に測定する機能をもっていたのです。これは、CMBの重力レンズ効果という新しい研究を拓くものです。


 私たちはこれまでに、あかり衛星を用いたCIBの観測成果を得てきました。
(ISASニュース:宇宙科学の最前線
 ⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2011/matsuura/index.shtml

あかり衛星の観測波長ではPLANCK衛星の場合よりも手前の(赤方偏移が小さい)宇宙を主に見ることになるため、CMBの重力レンズ効果との相関を調べることはレンズ源である銀河団や銀河の進化情報をもたらします。今後は、いよいよ完成に近づきつつある、あかり衛星の全天マップからCIB成分を取り出し、CMBゆらぎとの相関を調べることも目指します。

国内外のCMB観測グループとの連携を進め、CMBとCIBの観測を一体として研究を進められれば、新しい発見が生まれると考えています。将来のスペース赤外望遠鏡SPICAでは、あかり衛星の100倍以上の感度が得られるため、CIBゆらぎの個々の「むらむら」を銀河団として明確に検出するとともに、赤外線スペクトルからその赤方偏移(距離)を決定することができると期待しています。

将来、CMBの観測精度も同じように格段に向上すれば、重力レンズ効果を現在のような統計的にではなく個々の銀河団毎に調べることができるかもしれません。


 私たちは、可視光に近い短い波長の赤外線でも宇宙背景放射のロケット観測CIBERも進めています。それは100億年以上前の時代にできた宇宙最初の星の光を宇宙背景放射として捉えようとする試みです。

こちらも宇宙背景放射のゆらぎ観測を進めており、将来的にはこれとCMBとの相関が調べられないかと夢想しています。もちろんこのような研究には精密なCIB測定が必要です。惑星探査機としてJAXAで開発がすすむソーラー電力セイルに赤外観測装置を搭載する計画など、今後も高精度のCIB観測計画を進めて行きます。

もう少し詳しくは、CIB観測プロジェクトのページもご参照ください。
 ⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/~matsuura/darkage/index_da.html

(松浦周二、まつうら・しゅうじ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※