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第37号 1996年11月8日発行

目次


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宇宙研計算機の使い方 
--- 「ベクトル計算機VX2を使おう」の巻 ---

 7月号では、スカラー計算に対して高速処理が出来る「DECα8200」の計算機の紹介をしましたが、今回は大容量の配列演算で威力を発揮するベクトル計算機「VX2」についてのお話です。 紗月:萌美さん、最近ワークステーションに向かってばかりいるけど、一体何を始めたの。目が悪くなるわよ。

 萌美:電磁流体シミュレーションで衝撃波の構造を調べているの。一般に無衝突プラズマでは、衝撃波下流の温度が、磁場に垂直方向と平行方向では等しくない事が期待されるのだけれど、そのような衝撃波の構造および安定性を調べているの。温度異方性を取り扱える電磁流体コードを開発して計算を始めたところよ。

 紗月:面白そうね。ジオテイル衛星の磁気圏観測でも、温度異方性は大切な問題として議論されているわね。でも数値シミュレーションをやるとなると、CPU 時間も必要だから、ワークステーションでは大変なんじゃない。センター計算機を使っているの?

 萌美:ええ。7月号のPLAINセンターニュースで DECα が速いって宣伝してあったから、今 DECα で計算させようとしていたところよ。

 大吾:萌美さん、ベクトル計算機を使った方が良いのじゃないかな。だって、温度異方性が入っていても、普通の電磁流体コードとさほど違わないんだろ? 電磁流体コードならベクトル計算機向きだと思うけど。

 萌美:従来のエネルギー保存の方程式に対して、磁場に平行方向のガス圧力と垂直方向のガス圧力の方程式をそれぞれ解くことになるだけよ。取りあえず、時間発展は4次のルンゲクッタで計算し、空間微分は4次の差分を使っているの。衝撃波の内部構造も議論するので、計算格子数は沢山使いたいわね。取りあえず 2000 程度から始めているけど、私のワークステーションでは遅くて話にならないわ。

 大吾:プログラムの中身だけど、こんな感じのDOループが沢山つかわれているんだろ。NX が計算格子の数で NN が密度や速度などの物理量成分の数として、
(NX=2048, NN=8 の場合)

DO 10 J=1, NN
DO 10 I=1, NX
X(I,J)=X(I,J)+DT*FX(I,J)
 10 CONTINUE

 萌美:そうよ。いっぱいDOループがあるわよ。

 紗月:それなら、私がやっている Chi-Square 関数フィットの計算と違ってベクトル演算向きね。きっと VX2 とか VPP500 のが DECα より速くなるんじゃない。大吾君、そうでしょ。

 大吾:じゃ、比べてみようか。
萌美さんのプログラムのベンチマークの結果
(NX=2048, NN=8 の場合)

DECα67秒
VX210秒
VPP50014秒

(シングル CPU だけを使った非並列計算)
(注、一般のベンチマークは、様々な異なった演算を含んだ多種類のプログラムをもとに行います。そのためこの結果は計算機能力の一面しか表していない可能性があります。)

 萌美:わたしの計算の場合、VX2 が速いのね。スカラー計算では DECα に軍配があがったけれど、ベクトル計算では VX2 とか VPP500 がいいのね。

 紗月:予想通りの結果ね。

 大吾:更に欲を出して、並列計算機としても使える VPP500 で、並列計算指向のプログラムを書けばもっと速く計算できるはずだけれどね。宇宙研では VPP500 で7つの CPU まで使うことが出来るので、並列プログラムが旨く書けたとすると、原理的には更に7倍計算時間を短縮できるけど、でも並列計算向きのプログラムへの書き換えは、一般に慣れないと厄介だから、取りあえず VX2 を使うのが良さそうだね。

 紗月:PLAINセンターで発行している「UNIXサーバ群」の利用手引きを見ると、VX2 では FORTRAN77 以外に C 言語、C++、FORTRAN90 も利用できるようね。また、メモリーも最大 2GBまで使えることになっているわ。ベクトル計算なら色々な用途に使えそうね。

 萌美:大吾君、紗月さん、ありがとう。VX2を使って計算することにするわ。
(星野 真弘)


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ネットワークのお話(3)
−電子メールが読めない?!−

 電子メールを読んでいたら変な文字が出てきて訳が判らなくなったといった経験をお持ちの方はいらっしゃいませんか?  確かに電子メールはとても便利な道具なのですが、使い方によっては困ったことにもなります。今回はその中でも最近良く耳にする文字化けのトラブルを中心に御紹介します。 電子メールの読み書きに使われているソフトには、様々なものがあります。何気なく使っていると、送信者が送信したと思っている内容と受信者が受信したと思っている内容に食い違いが生じることになりかねません。どのソフトを使っていても正しくメッセージを読んで貰えるようにするためには、最低、以下のような点に注意して下さい。

・ヘッダの中の日本語

 インターネットの電子メールには、本文の前にヘッダと呼ばれる情報が付いています。判り易いところでは、To: で始まる宛先の情報、From: で始まる送り元の情報、Subject: で始まる主題の情報などです。これらの情報の中に日本語を使うと、困ったことになる場合があります。最近のパソコン用のメールソフト同士であれば、特に問題なく日本語が使えるようになっているものが多いようですが、UNIX 環境でのメールソフトは、ヘッダに日本語を使ってはいけないものが少なくありません。また、どこかで電子メールが中継されている場合もヘッダに日本語が入っていると正しく配達されない場合があります。 ヘッダに日本語を使う場合は、送信側・受信側双方のソフトがヘッダ中の日本語を正しく扱えていることを確認しておく必要があります。さもないと、せっかく送ったメールが読めなくなっていたり、ひどい場合は他の人からのメールまで読めなくしてしまうことがあります。

・半角カナや、半角の¥記号、JIS第1水準・第2水準の規定外の全角文字(*1)

 パソコンで良く使われている半角カナ文字は、UNIX 環境では読めない場合が少なくありません。メッセージ中にこのような文字が含まれていると、その前後の文章まで含めて、意味不明の文字列に化けてしまうことがあります。半角の¥記号は半角の\で表示される場合があります。全角文字でも特殊な罫線や、円で囲まれた数字、ローマ数字等の機種依存の文字は空白や他の文字に化けてしまう場合があります。(読む人はそこに数字が書かれていたことなど気付きもせず、とんでもない誤解を招くかも知れません)

・添付文書(Attachments)

 添付文書を含めて送信できるソフトがありますが、この機能を利用する場合は、受信側のソフトがその文書を正しく扱えるかどうか確認しておく必要があります。さもないと、画像を送ったつもりが、受信側では意味不明の文字列しか届かなかった、ということになりかねません。

 これ以外にも、電子メールには意外な落し穴が少なくありません(*2)。電子メールに限らず、ネットワークを利用する際のマナー(ネットワークのエチケットという意味で、ネチケットと呼ばれています)等をまとめたものが WWW で公開されていますので、一度御覧になることをお勧めします。国内では、
 http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/netiquette/
が精力的にネチケットの情報を提供しています。

-------
(*1)
便宜的にASCIIやJIS X0201関連の文字を半角、JIS X0208やJIS X0212関連の文字を全角と表記します。
(*2)
例えば、あなた宛の電子メールはあなたにしか読めないと思っていたりしませんか?
(三浦 昭)


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データベース DARTS の開発と現状

 先月の「ゴダード訪問記」に引き続いて、今月は、私たちのデータベース DARTS の紹介を兼ねて、その現状を報告したいと思います。

 現在構築しているデータベースは、X線天文衛星「あすか」と太陽X線観測衛星「ようこう」のデータベースです。「あすか」のデータは、ゴダードの HEASARC から向うで提供されているものと同じものを DAT に入れて送ってもらい、我々の AV テープライブラリに入れます。「ようこう」のデータは、宇宙研の D 棟の「ようこう」データ解析室にある 8 mm テープを「あすか」と同じ AV ライブラリに入れます。これまでに、これら一連の作業に関係するハードとソフトの試験を終え、今後、本格的にデータを入れていく予定です。しかし、両衛星のデータとも、テープの本数にして 150〜200 本、容量にして数百ギガバイトありますので、データの輸送等の時間も含め、データを完全に移し終えるまでには、年内一杯はかかりそうです。

 当然、データベースというのは、なにかしらデータを貯めてさえおけば良いものではありません。初めてそれを使う人でも容易にデータを探し出せ、それを使えないと意味がありません。私たちは、この2つの要求を満たすようにシステムを構築しております。データ検索には、実質、世界標準のインターフェイスとなった WWW を使います(検索自体はオラクルというソフトを内部で用いています)。そして、「あすか」のデータに関しては、他のデータベースセンターと同様、探し出したデータを自分の所に FTP で持ってくる事も出来ますし、センターの計算機 DEC 8200 にデータを移して、誰もが無料でそのデータを解析する事も出来ます。(「ようこう」のデータも DEC 8200 で同様に解析出来るように計画中です。) そして、各衛星に関する最低限の知識さえあれば、上記のシステムの使い方の説明を読まなくても済むように、使い勝手の良いインターフェイスが提供出来るように心がけています。

 ここまで、まるで詐欺まがいな広告の様なことを書きましたが、これまでに上記のシステムを作る上での幾つかの大きな問題を、富士通の協力を得て、プロジェクト全体で解決してきました。この 11 月にはアルファバージョン(とりあえず一通り動くもの)が完成します。日米間のネットワークが大変混雑し、大量のデータを海の向こうから取り寄せるのは困難になってきた今日、ちょうど良い時期にデータベースが完成する事を大変喜ばしく思っています。
(根來 均)


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編集発行:文部省宇宙科学研究所
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