PLAINニュース第186号
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宇宙情報システム講義第2部
これからの衛星データシステムはこうなる

(第11回 搭載データ処理2)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

  今回は、衛星の中のデータ処理システムの話の2回目として、標準インタフェースの話をします。

 前回お話ししたように、現在開発中の新しいデータ処理システムでは、物理的な要素と機能的な要素を別々に開発します。そして、個々の衛星のデータ処理システムは、それに必要な物理要素と機能要素を適当に組み合わせることによって構成します。このようなことを可能にするためには、物理要素間のインタフェース、機能要素間のインタフェース、物理要素と機能要素の間のインタフェースを個々の衛星や用途に依存しないように統一する必要があります。

 これらの統一インタフェースは、「既存の標準規格に適当なものがある場合はそれを利用し、適当な標準規格がない場合は宇宙科学研究本部が開発する」という方針で選定しました。インタフェースの全体構成を図1に示します。


図1 搭載データ処理システムのインタフェース構成

 それでは、物理要素間の標準インタフェースから説明します。これには、「高速のデータ転送が可能である」ことと「必要な機能は備わっているが、不必要な機能は備わっていない」という理由によりヨーロッパで開発された衛星用のデータ回線標準規格である SpaceWire を採用することにしました。SpaceWire 規格と共に、SpaceWire 上のデータの流れを制御する SpaceWire-RT という規格と SpaceWire を用いてメモリの読み書きを行うための Remote Memory Access Protocol (RMAP) という規格も使用します。これからは話を簡単にするために、この三つの規格を総称して SpaceWire と呼ぶことにします。

 衛星の中でデータ処理に関わる機器は、原則として全て SpaceWire により接続されます。衛星に搭載される計算機もセンサー等の機器も、ほとんどのものが SpaceWire で接続されるのです。これにより、別々に開発された機器でも簡単に接続できることになり、衛星毎にその衛星に適した機器を組み合わせて使用することができるのです。

 次に、機能要素間の標準インタフェースを説明します。これには、この連載の 第2部第6回 で説明した衛星監視制御プロトコル (Spacecraft Monitor and Control Protocol, SMCP) を使用します。このプロトコルは宇宙科学研究本部で開発しました。このプロトコルを使うための前提として、各々の搭載機器の機能がこの連載の第2部 第35回で説明した機能オブジェクトとして設計されていなければならないのですが、搭載機器の機能を機能オブジェクトとして設計していれば、その機能を監視し制御するために衛星監視制御プロトコルを統一的に使うことができるのです。

 衛星監視制御プロトコルとともに、場合によって、この連載の 第1部第2回 で説明したパケットを使っても良いのですし、使わなくてもかまいません。地上と衛星との間のやり取りにはパケットが使われますので、パケットの処理が可能な場合は、パケットを使います。そうでない場合は、他の機器にパケットの処理を依頼するのですが、詳しい説明は省略させていただきます。ところで、このパケットは、Space Packet Protocol という国際標準規格で規定されているデータ単位なのです。

 機能要素間のインタフェースとしての衛星監視制御プロトコルの使い方を簡単な例を使って説明してみます。ある衛星にカメラが搭載されていて、それがミッションプロセッサという計算機によって監視制御されるとします。

 カメラとミッションプロセッサとは物理的には SpaceWire によって接続されるのですが、ミッションプロセッサ内のミッション機器管理機能とカメラ内のカメラ管理機能とは衛星監視制御プロトコルにより接続されます。ミッション機器管理機能は、衛星監視制御プロトコルを用いてカメラ管理機能オブジェクトという機能オブジェクトを監視制御することになります。

 まずカメラを使うためにカメラを立ち上げます。カメラ管理機能オブジェクトには START というオペレーションがありますので、カメラを立ち上げるために、ミッション機器管理機能は衛星監視制御プロトコルを用いて START オペレーションを起動するためのメッセージを送ります。このメッセージは、パケットが使われている場合は、パケットに入れられて送られます。このメッセージとパケットは物理的には SpaceWire の機能によりミッションプロセッサからカメラに運ばれます。

 カメラの立ち上がり状態を確認するためには、カメラ管理機能が持っているカメラの状態を示すアトリビュートの値をミッション機器管理機能が読み出すことによって行われます。これを行うにも衛星監視制御プロトコルが使われます。衛星監視制御プロトコルでアトリビュートの値を送る方法はいくつかあるのですが、詳しいことはこの連載の 第2部第6回 の解説を参照して下さい。

 さらに、カメラが正しく立ち上がっているかどうかを判定するためには、次のようにします。機能オブジェクトの動作は、衛星の機能モデルに従って標準的な方式で定義されています。また、それは衛星情報ベース2 (SIB2) に標準フォーマットで格納されています。そこで、ミッション機器管理機能は SIB2 の内容の中で該当する部分を参照することによってカメラが正しく動作していることを確認することができるのです。そのためには、ミッションプロセッサは SIB2 全部を持っている必要はなく、自分が使用する部分だけを自分に適した形で保有していればいいのです。

 このような方法を採用することによって、ミッション機器管理機能を汎用化する、すなわち、あらゆる機器を統一的に管理するための機能を設計することが可能になります。相手がカメラでなく別の機器の場合は、SIB2 内で参照すべき部分を変えればよいだけであり、ロジックを変える必要はないからです。

 最後に、物理要素と機能要素の間のインタフェースについてですが、これはまだ標準規格ができていないのです。このような仕事に興味がある方は、私までご連絡下さい。ぜひいっしょに開発しましょう。ただし、謝礼は出ません。宇宙科学研究本部は貧乏なので。

 これで、搭載データ処理の話はおしまいです。また、これからの衛星データ処理システムの話もおしまいです。
 次回 は、この連載の最終回になります。最終回 には、今までに説明した方法を使うことによって衛星開発の方法がどのように効率化されるのかについて解説します。



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