PLAINセンターニュース第161号
Page 1

宇宙情報システム講義第1部
衛星データシステムをこう作ってきた(第2回 パケット)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

 

 今回は、現在の宇宙研の衛星データ処理システムにおいて最も基本的な概念であるパケットの話をします。パケットとはデータのかたまりのことで、宇宙研の衛星データ処理システムでは基本的にパケット単位でデータの伝送や処理を行います。

 パケットの使われ方を模式的に示したのが図1です。衛星に搭載されている機器はデータを発生して地上に送るわけですが、この際にデータをパケットというかたまりとして生成します。生成されたパケットはデータ伝送システムによって衛星内で収集され、無線回線によって地上に送られ、地上でデータを必要としている装置(衛星管制装置など)に配信されます。つまり、この図は非常に簡単化されているのですが、この図のデータ伝送システムは、(1) 衛星内のネットワーク、(2) 衛星−地上間の回線、(3) 地上のネットワークのすべてを含んでいるのです。

 ここで重要なことは、搭載機器は、パケットの構成方法(すなわちパケットのフォーマット)とパケットをデータ伝送システムに渡す方法は知らなければならないのですが、データ伝送システムの中の仕組みは知らなくてよいということです。これは、データ伝送システムの設計とは独立に搭載機器の設計が行えるということを意味します。パケットを使う前の昔のシステムは、これがそうなっていませんでしたので、パケットを使うことによって搭載機器の設計がラクにできるようになったわけです。また、データ伝送システムも、パケットを使うことによって、どんな衛星のどんなデータも伝送できる汎用のシステムが簡単に構築できるようになりました。地上でパケットを受け取る装置も、パケットのフォーマットとパケットを受け取る方法だけを知っていればよく、パケットがどのようにして送られてくるかは知らなくてよいのです。

 以上の説明は、テレメトリに関するものですが、コマンドについても基本的なデータの流れは同じです。

 次に、パケットの歴史についてお話ししたいと思います。そもそもパケットの概念は、1970 年代の終わりに NASA で深宇宙探査機のテレメトリ処理を行っていた技術者が、その当時のテレメトリのフォーマッティング方式では柔軟な処理がやりにくいことに気づき、それを解決するための方法として考案したのです。この方式が、1984 年に宇宙データシステム諮問委員会 (Consultative Comittee for Space Data Systems, 略して CCSDS) という国際委員会によって標準規格として制定され、現在では世界中のほとんどすべての科学衛星で使用されています。ちなみに、パケットを世界で初めて実用化したのは、1990 年に打ち上げられた NASA のハッブル宇宙望遠鏡です。

 宇宙研では、「のぞみ」でこの方式を採用しようと思って山本達人先生と相談しました。その結果、「のぞみ」では少し変則的な方法を採用することになりました。変則的というのは、本来のパケットは可変長ですが、可変長のパケットを採用すると処理が大変になりそうなので、取りあえず「のぞみ」では固定長のパケットを使おうということになったのです。

 本来の可変長のパケットを宇宙研で最初に採用したのは ASTRO-E です。これは満田先生と相談して決めたのですが、満田先生は可変長パケットを使うことを即決して下さいました。その理由を聞くと、「過去の衛星でテレメトリのフォーマッティングに苦労したから」ということだったのですが、私はそれを聞いて「ほほぉ」と思いましたね。なぜかというと、アメリカでも日本でも同じことで苦労していたというのが興味深かったからです。

 ところで、パケットの規格を制定した CCSDS という委員会は、私にとっては重要な組織です。宇宙研は 1984 年にこの委員会に加盟したのですが、その時に野村先生の勧めにより私が委員として参加することになりました。初めのうちは NASA や ESA の議論について行くのが精一杯でしたが、だんだんと自分の意見も出せるようになり、この委員会の様々な仕事に関わるようになりました。過去には宇宙通信方式に関する標準規格をいろいろと執筆しましたし、現在はシステム・アーキテクチャー作業部会の部会長を務めるとともにアーキテクチャー関連の標準規格を執筆しています。

このページの先頭へ



この号の目次へ

宇宙研計算機、ネットワークに関するお知らせ


(468 kb/ 2pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME