PLAINニュース第182号
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PLANET−C のデータハンドリング(2/2)

上野 宗孝・東京大学
今村 剛・宇宙科学共通基礎研究系

2.PLANET-C 画像データの一次処理

 惑星探査機と地上のテレメトリー回線は地球周回衛星のようなブロードバンド環境ではなくナローバンドの世界です。PLANET-C の場合も回線速度 32Kbps - 2Kbps (地球と探査機の距離に依存)というモデムを電話回線に接続した場合よりもさらにナローな伝送しかできません。この限られた回線幅を用いて、探査機から画像データを効率良く伝送する必要があります。PLANET-C では時間方向に連続した画像アーカイブが金星大気のダイナミクスを理解する上で本質的に重要な情報となるため、探査機上でも画像データの一次処理を行うことでこの伝送効率を高めることを計画しています。PLANET-C は金星周回軌道上で 2時間間隔で撮像観測を行いますが、ここでは 2μmカメラ(IR2)のデータ取得手順を例にあげます。2μmカメラには金星観測用に 4種類のフィルターとダーク画像取得用のシャッターポジションがあります。観測に用いるフィルターセットは太陽・金星・探査機の位相関係で組み合わせの選択(昼面用・夜面用など)が変わりますが、どの波長でも以下のような手順で撮像観測を行います。

    ダーク画像(3枚)+金星画像(3枚)+ダーク画像(3枚)

それぞれの画像を 3枚ずつ取得するのは、3枚の画像に対してメディアンフィルターを適用し、宇宙線によるスパイク雑音を除去することを目的としています。それに引き続いて、前後のダーク画像の平均値を金星画像から差し引くことでダーク補正を行います。さらにその後、検出器画素間の感度ムラ補正(フラットフィールディング処理)を行い、1枚の観測データとします。機上でここまでの画像処理を行う理由は、取得された画像の空間的な滑らかさを高めることにより、画像圧縮率を向上させることにあります。PLANET-C にはこれらの機上処理を実現するために、DE と呼ばれる HR5000 ベースのプロセッサーユニットが搭載されており、画像間演算に加えて JPEG2000 と HIREW (PLANET-C プロジェクトで開発)の 2種類の画像圧縮アルゴリズムが実装されています。前者は主として非可逆圧縮、後者は可逆圧縮をターゲットにしています。サイエンスデータに対して非可逆圧縮を行うことは望ましいことではありませんが、限られた伝送量で多くの画像情報を送る必要から用意されています。PLANET-C ではデータ総量を減らす手順として、波長ごとの画像取得サンプリング間隔の最適化、空間分解能の削減(画像のビニング)、そして上記の圧縮を観測の条件に応じて最適配分し、効率的な運用を行います。

 地上に伝送されたデータは、HIREW/JPEG2000 で圧縮されたデータを解凍した後、必要なヘッダー付けを行います。ここで用いる画像ヘッダーは、SPICE data kernel と呼ばれる NASA/JPL の NAIF (Navigation and Ancillary Information Facility) が確立したシステムに準拠させた物とする方向で準備を進めており、この中には対象となる物理量から姿勢データなど科学的な解析を行うのに必要な情報を含んでいます。その後、画像データについてフィルター波長ごとに輝度校正とマッピング関数付けを施したものが一次処理済みのデータとしてアーカイブ化を行うものとなります。

3.PLANET-C データのアーカイブ

 一次処理データアーカイブは、波長・時系列方向のデータ群となりますが、このアーカイブは気象学的な解析を行うにはいささか原始的なものです。気象学的な解析を行うには、大気のダイナミクスに関する情報すなわち金星大気中の雲の運動まで導出しておく必要があります。PLANET-C では2時間間隔で撮像された画像から、雲の移動量を導出し、大気の高度ごとの風速ベクトルを導出することを計画しています。ここで地球の気象衛星の雲運動のトラッキングから導出された風速ベクトルの例を図1に示します。金星の場合は、大気の高度方向に対して大きく風速が変化することから、図1に示した例と比較して状況は複雑になりますが、同様の処理を行い風速ベクトルを導出します。この操作には時系列方向の複数の画像データの相関処理から、雲の動きを追いかける手法を開発しており、この結果得られた雲の移動量と風速データを二次処理されたデータアーカイブとして考えています。

 PLANET-C で取得された金星画像データは、できる限り速やかに公開することを計画しています。プロジェクト内外のメンバーが同等の立場に立ち、サイエンスにおいても凌ぎを削るという方向性をプロジェクトとして議論しています。このことを実現するためにも、一次二次のデータ処理とアーカイブ公開への準備はプロジェクトとしても非常に重要視しており、プレインセンターとプロジェクト側が協力して準備を進めたいと考えています。


図1.地球気象衛星の雲トラッキングによる風速ベクトルの導出例

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