PLAINニュース第184号
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宇宙情報システム講義第2部
これからの衛星データシステムはこうなる

(第10回 搭載データ処理1)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

 今回と 次回 は、衛星の中のデータ処理システムの話をします。実は、この連載の 第1部の第5回 にも衛星の中のデータ処理システムの話をしました。この時は、「はやぶさ」のデータ処理系の主要な機能について説明しました。

 今回と 次回 は、現在開発中の将来衛星に搭載されるデータ処理システムの基本的な考え方についてお話しします。具体的には、現在開発が進んでいる小型科学衛星シリーズや ASTRO-H にこのデータ処理システムが搭載されるのですが、これらの衛星だけでなく将来の日本のほとんどの衛星で使えるようなシステムとして開発しています。

 今回は、このシステムの構成原理についてお話しします。衛星に搭載されるデータ処理システムは、実際にはいくつかの種類に分けて開発されます。例えば、衛星全体のデータ(コマンドとテレメトリ)を管理するためのシステムがあります。これは、地上から受け取ったコマンドを然るべき搭載機器に送ったり、搭載機器が発生したテレメトリを地上に送ったり、コマンドやテレメトリを一時的に蓄積したりします。それ以外に、特定の仕事に特化したデータ処理システムも衛星には搭載されており、例えば姿勢制御のためのデータ処理をするシステムや搭載機器が発生したデータをその機器の特徴に合わせた形で処理するシステムも衛星に搭載されます。

 今までの衛星では、それぞれのデータ処理システムは別々に開発されていました。それは、大きなシステムをいっぺんに開発するよりも、複数の小さなシステムを別々に開発し、それらを組み合わせて大きなシステムを作る方が簡単だからです。しかし、この方法には問題もありました。それは、それぞれのデータ処理システムには共通に開発できる部分もあったのですが、今までのやり方では、共通化できる部分も別々に開発されていたのです。

 現在開発中の新しいデータ処理システムでは、共通に開発できる部分はなるべく共通に開発し、別々に開発した方がいい部分については、別々に開発できるようにしたのです。実は、これを実行するには、かなりの発想の転換が必要になるのです。それは、今までの縦割り行政を崩すことになるからです。しかし、この新しい方針は、多くの方々に理解して頂くことができ、今は新方針に基づいて着々と設計が進んでいます。さらに、基本的な部分の設計は、宇宙科学研究本部の通信・データ処理グループのグループ員が自分達で行っているのも大きな特徴です。

 それでは、ここで、発想の転換の内容を発表します。データ処理システムは、通常は、物理的な要素(主にハードウェア)と機能的な要素(主にソフトウェア)を組み合わせて実現されます。今までの開発では、物理要素と機能要素の両方を一つのものとして開発していたのですが、新しいシステムでは、物理要素と機能要素を別々に開発します。すなわち、物理要素は、それがどのような機能と組み合わされるかにはなるべく依存しないように開発し、機能要素も、それがどのような物理要素と組み合わされるかにはなるべく依存しないように開発します。そして、個々のデータ処理システムは、それに必要な物理要素と機能要素を組み合わせることによって作られるのです。この原理を模式的に表したのが図1です。


図1 搭載データ処理システムの構成原理

 また、大きな(あるいは複雑な)衛星には、多くの物理要素と機能要素を搭載し、小さな(あるいは単純な)衛星には、少な目の物理要素と機能要素を搭載するようにし、衛星の規模によらず共通化できる部分は共通化します。

 上記のことを可能にするためには、物理要素間のインタフェース、機能要素間のインタフェース、物理要素と機能要素の間のインタフェースを個々の衛星あるいは用途に依存しないように統一する必要があります。そのようなインタフェースは、既存の様々な標準規格を利用する予定ですが、既存の標準規格に適当なものがない場合は、適切なものを宇宙科学研究本部で現在設計中です。

 このようなシステム構成原理と統一インタフェースを採用すれば、ほとんどすべての衛星で共通に使用できるような標準的な要素を開発することができます。また、衛星毎に開発しなければならない特殊な要素も、共通に開発された要素と自由に組み合わせられるようになりますので、衛星毎に開発しなければならない部分を最小化することができるのです。

 このような新たな発想による衛星搭載データ処理システムの開発は、世界的にも例がなく、この分野においては、近い将来、我々が世界を引っ張っていくことになると思います。

 次回 は、このシステムで使用される標準インタフェースについてお話しします。



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