PLAINセンターニュース第165号
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RPIF (Regional Planetary Image Facility) の紹介

田中 智
固体惑星科学研究系

 なにはともあれ、「RPIF」というキーワードで検索してみる。Yahoo だと 27600 件、Google だと実に 49800 件もヒットする(7 月 17日現在)。老舗と思われる LPI(ヒューストンにある Lunar Planetary Institute)に入ると(http://www.lpi.usra.edu/library/RPIF/)、RPIF っていったい何?に対して、いちおうの説明書きがある;

The NASA Regional Planetary Image Facility, an international system of planetary image libraries, was established in 1977. These facilities maintain photographic and digital data as well as mission documentation and cartographic data. Each facility's general holding contains images and maps of planets and their satellites taken by solar system exploration spacecraft.

「設立は 1977 年で国際的な惑星画像のライブラリー。月惑星探査のミッションの画像やドキュメントそして地図などの保管、維持をする、、」などと書いてある。

 なるほど、で、その RPIF の一員としてこの宇宙研がアジアの拠点としておかれているという事実をご存知の方はそう多くはないと思う。しかしこれは歴然たる事実であって、このサイトの「international location」 の部分をクリックすると上から3つめにちゃんと我が「ISAS」の名前がある。アメリカ国内で9ヶ所、国外で9ヶ所、計 18ヶ所が RPIF としてアサインされている。アジアではこの ISAS が唯一の RPIF ブランチである。

 私の記憶が正しいとすると、この RPIFは至極高尚なポリシーをもってして生まれたと聞いている。「もし、なんらかのことで、たとえアメリカが破滅(消滅)したとしても、我々人類の大切な資産である月惑星に関するデータは世界のどこかにあって維持、保存されるのだ」というものである。まあ、世界が破滅すればどうしようもないが、たとえ、本当の動機はどうであれ、こういうことを言えるのはさすがアメリカ、かっこいい。設立当時は未だインターネットなど存在しなかったこともあり、説得力があったに違いない。

 今となってはインターネットが世界中をかけめぐり、データ公開=インターネットでデータを世界に配信するということなので、RPIF の存在価値は少し薄れてしまったのかもしれないが、いまでもまだ、整理されていないデータは山ほどある。とりわけ、ルナオービターやアポロミッションの写真、地図データは歴史的にも、また研究材料としても未だ貴重である。


写真1:宇宙研の RPIF 資料保管庫。
アポロデータ、金星マゼランデータなど5万点程度イメージや DC、地図などを保管されている。

 アポロミッションなどの写真などは今ではいろいろなサイトを検索するとスキャンされた写真を得ることができる。事実、最初に紹介した LPI のサイトでもずいぶんたくさんの写真を見てダウンロードすることができる。我が ISAS の RPIF に送られてきた写真は撮影された写真のすべてではないかもしれないが、web では拾えない写真が山ほどあってそれらは今も静かに書庫に眠っている。これらの「お宝画像」、これを一枚一枚見ていくだけでもかなり堪能できる。ぜひ一度、閲覧していただきたい。なにはともあれ、フィルムから焼き付けた「生写真」である。コンピュータの画面で見るのとは質もちがうし、実感が違う。

 実は、もっとすごいお宝資料が老舗の LPI にあることを最近発見した。ここには写真だけでなくて、データやログ、我々で言えばテレコマ表とか、運用ログ、搭載機器の回路図、基板図など到底公開されそうもないものが未整理の状態で眠っている。この意味で RPIFはエンターテイメントというより、我々の研究に多いに役立っている。大判の月面の地図などはとても研究に役立ってきた。回路図や運用ログでデータのクオリティーや取得状況が把握でき、現在の私たちの研究に大変役立てている。こんなデータコピーしちゃっていいのかな?と思いきや、LPI のスタッフは笑顔で我々の依頼に答えてくれる。

 上記で紹介したアポロミッションなどの写真のほかにバイキングランダーのマイクロフィッシュ、マゼランミッションの金星表面地形の大画像、ボイジャーが撮影した数々の惑星や衛星など CD がある。


写真2:LPI(Lunar Planetary Institute)に保管されている、アポロミッション資料。
貴重なデータはほとんどカタログ化されておらず、ひとつひとつ調べて必要なデータを探す。

 さて、この RPIF in ISAS/JAXA、今年も宇宙研の一般公開でこぢんまりとブースを構える。一昔前は、つまりインターネットがそれほど普及していないときは結構評判もよかったが、最近はちょっと検索すればいろいろなすごい画像を見ることができるので、影はうすくなっているかもしれない。しかし、今年もしつこく出展する。RPIF たるものはその義務を背負っているからでもある。

「RPIF」で検索すると、こういうのもひっかかった; なんと、昔のプレインセンターニュース記事である。

  • 第 21 号 1995 年 7月 12日発行:
    惑星科学では、惑星画像データがマイクロフィッシュから4つ切りサイズ程度のプリント、スライド、16mm フィルム、CD-ROM 等で NASA を中心とした機関(RPIF)から配布されていること。また、そのデータは大学関連の研究者から一般の天文愛好家まで幅広く利用できる制度になっていること。日本でもそのようなサービスを行っているが、「人」や「予算」の問題から諸外国に比べ必ずしも充分な体制が整っていないとの報告がありました。」

思わず、苦笑する。10 年以上経過した現在の状況もさして変わってない。

 ただし、ただし、1〜2週間にポツポツと私たちの手元には相変わらず、継続的に国際郵便物が送られてくる。RPIF 活動は今なお地道に続いていて、そしてこれからも続いていくのである。これら「世界資産」は着実に増加している。これらの郵便物が手元に届くたびに「我々はこれらのデータを維持、そして時にはサービス、研究、教育に役立てる義務がある」と痛切に感じる。しかし、それを実行に移すには現状ではまったく整備されていない。なんらかの「しくみ」が必要だ、と一応、マイルドに訴えさせていただいておく。

 遠い将来月面に基地ができたらそこは RPIF に指定されるに違いない。「たとえ地球上で人類が滅びても貴重なこれらのデータを残すことができる」。

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