PLAINセンターニュース第160号
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宇宙情報システム講義第1部
衛星データシステムをこう作ってきた(第1回 はじめに)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

 今回から宇宙研において現在使用している衛星データ処理システムについて連載で書かせて頂くことになりました。この連載では、衛星データ処理システムのうち、衛星毎に固有に開発している部分は除き、どの衛星でも共通に使えるように汎用システムとして開発してきた部分に焦点を当てます。また、衛星の機上で使用されているデータ処理システムも、地上で試験と運用に使われているデータ処理システムも、基本的には同じコンセプトに基づいて作られていますので、この連載でもその双方を取り上げます。

さて、私が今までに開発に関わってきた衛星データ処理システムの歴史的な流れをまとめてみると表1のようになります。

表1 宇宙研の汎用衛星データ処理システムの流れ

衛星名
打上げ年
採用した技術
のぞみ 1998 固形長パケット(テレメトリ)、SDTP、SIB
ASTRO-E 2000
(打上げ失敗)
「のぞみ」のもの+
可変長パケット(テレメトリ)
はやぶさ 2003 ASTRO-E のもの+
可変長パケット(コマンド)、
優先度によるテレメトリ伝送、
レポートパケット(テレメトリ)、
海外地上局オンライン運用
すざく 2005 ASTRO-E とほぼ同等
あかり 2006 ASTRO-E とほぼ同等+
新 GN 地上局オンライン運用
ひので 2006 ASTRO-E とほぼ同等+
海外・新GN地上オンライン運用
SELENE 2007 「はやぶさ」とほぼ同等
PLANET-C 2010 「はやぶさ」とほぼ同等
ASTRO-G 未定 「はやぶさ」とほぼ同等

 この表からわかるように、宇宙研で現在ほとんどの衛星で使用されている「パケット」、SDTP(Space Data Tranfer Protocol)、SIB(Satellite Information Base)を主体としたデータ処理システムは、「のぞみ」から始まっているのです。私は、1992 年の春、当時「のぞみ」のプロジェクトマネージャーであった中谷先生より新しいデータ処理システムの開発を依頼され、「のぞみ」だけでなくそれ以降のあらゆるプロジェクトでそのまま使える汎用システムを全く新たな発想で開発しようと張り切りました。

 特に、それまでは非常に類似した装置あるいはソフトウェアをバラバラに開発していたという例がたくさんあったのですが、それを改めようとしました。しかし、バラバラなものをいっしょにするというのは意外に難しく、この試みは部分的にしか成功しませんでした。日本は、宇宙開発のような最先端(に見える)分野でも既得権益がものを言う社会なんだということを強く感じました。それでも、SDTP や SIB 等は、それまでバラバラに作っていたものをみごとに統一できた好例です。この SDTP や SIB がいったい何であるのかということは、この連載の後の方で説明しますので少々お待ち下さい。

 この「のぞみ」のシステムを開発するに当たっては、まず「のぞみ」のまとめ役を当時務められていた山本達人先生(故人)と私とで基本概念について(かなり激しい)検討を行いました。その後、開発に関わった所内およびメーカーの関係者をB棟3階のセミナー室に毎週のように集めては技術的な打ち合わせを行ったのですが、それまでとはシステム開発の発想が異なっていましたし、技術的な検討課題も山のように存在し、非常にハードな打ち合わせでした。ちなみに、現在多くの衛星で共通に使われている「地上系インターフェース仕様書」の初版は、この後者の打ち合わせの中で作ったのです。

 今まで「地上系全体会」なる会議が不定期に開催されてきましたが、この会議も、そもそもは「のぞみ」の新システムの開発者と利用者(すなわち衛星プロジェクト側の人々)との間の意思疎通を円滑に行うために始まったものなんです。昨年、宇宙研内部で衛星運用委員会という新しい委員会が発足しましたので、「地上系全体会」の機能の一部は衛星運用委員会で引き継ぐ予定ですが、それ以外に運用の調整を行う会議を新たに立ち上げようと思っています。

 「のぞみ」のシステムは、1995 年に実施された「のぞみ」の一次噛み合わせ試験から実際に使われだしました。その後、このシステムは、表1に示すように何度か新機能の追加を行いましたが、1995 年から現在に至るまで汎用システムとして多くの衛星の試験および運用に使われてきました。その間、特に大きな不具合もなく、それぞれのプロジェクトにそれなりの貢献ができたのではないかと思っています。

 現在私は 2013 年に打ち上げられる予定 のBepiColombo 以降の衛星でこのシステムをさらに改良するための検討を行っています。この連載の最後に現在検討していることも簡単に紹介したいと思います。

 それでは、次回からは、このシステムの中身の話をしていきたいと思います。技術的な話よりも私の思い出話を中心に書く予定ですので、楽しみにしていて下さい。

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