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「はやぶさ」地球スウィングバイの実施と結果について



 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部(当時,宇宙科学研究所)が2003年5月9日に打ち上げた工学実験探査機「はやぶさ」は,この1年余りの間,太陽を周回する軌道を順調に飛翔し,イオンエンジンを使用し離心率を拡大して,相当する軌道エネルギーの蓄積を行ってきた。この間のイオンエンジンの延べ運転時間は,1基当たりに換算して約1万1000時間に達し,備蓄した増速分は約700m/sに相当する。

 「はやぶさ」は,この5月19日に再び地球に接近し,地球スウィングバイを行い,この蓄積された軌道エネルギー分を接線方向に振り向け直すことで,太陽周回の軌道を円軌道から楕円軌道へと拡大させ,小惑星「ITOKAWA(糸川)」へ向かう新たな軌道に入った。

 地球スウィングバイは,地球の重力を利用し,探査機に搭載する推進剤を新たに消費することなく軌道を大きく変更する技術で,打上げ時に確保していた分を含めて約4km/sの増速を行ったことに相当する。今回のイオンエンジンによる加速を地球スウィングバイと組み合わせて用いる技法は,構想,実施の両面で,世界で初めての技術実証である。

 「はやぶさ」は5月19日15時22分(日本時間)に東太平洋上空(西経141度,南緯3.5度)にて地球に最接近し,その時点での高度は約3700kmだった。「はやぶさ」は,この直後から約30分間の日陰に突入したが,わが国で初めて搭載されたリチウムイオン二次電池の機能も良好で,翌20日の日本時間午前2時半からの運用でも搭載各部の機器の動作も完全で,正常に動作していることが確認された。このリチウムイオン二次電池は,宇宙機用に開発されたものとしては,世界でも初めて搭載されたものである。

 「はやぶさ」探査機の軌道はスウィングバイ後にあらためて推定されており,その結果によれば,スウィングバイ時の目標点からの誤差はおよそ1km程度にとどまり,非常に厳密に実施されたことが裏付けられた。支援を行ったカリフォルニア工科大学のジェット推進研究所の担当部局より,正確な誘導と航法の運用に賞賛の評価を得たところでもある。また,最新の軌道決定結果に基づいた小惑星「ITOKAWA」への飛行計画案の作成にも成功し,5月28日より本格的なイオンエンジンの運転を再開した。イオンエンジンの状態は非常に良好である。

 なお,地球接近時に近赤外線分光器の較正観測が行われたほか,探査機に搭載された光学航法カメラ(小惑星との相対位置検出,ならびに科学観測を行うためのセンサ)による月および地球画像の取得にも成功し,宇宙航空研究開発機構および同宇宙科学研究本部のホームページにおいて画像を逐次掲載し,公開した。

(川口淳一郎) 


5月17日に撮影した月(カラー合成した画像) 5月18日に撮影した地球(カラー合成した画像)

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2004年度第1次大気球実験が行われる



 若葉が芽吹く5月に入ると,大気球実験が宇宙科学研究本部三陸大気球観測所において始まります。2004年度第1次大気球実験は,5月17日から6月7日の間に5機の気球実験が計画されました。B50型(容積5万m3)気球を用いた「硬線偏光度検出器の基礎性能試験」,B100型(容積10万m3)気球を用いた「Micro Segment Chamberによる高エネルギー宇宙電子および大気ガンマ線観測」の2機の科学観測気球と,3機の工学実験気球が放球されました。

 「硬X線偏光度検出器の基礎性能試験」では,山形大学,宇宙科学研究本部,大阪大学が中心になって開発を進めている硬X線偏光度検出器の飛翔性能試験を行いました。この検出器は,40keVから200keVのエネルギー領域に感度のある硬X線偏光度検出器としては,世界最高の性能を持っています。偏光観測が実現すれば,ブラックホール近傍での時空のゆがみの検出,ガンマ線バーストのエネルギー輻射メカニズムの解明,パルサーの輻射メカニズムの解明など,物理的に非常に重要な研究を行うことができるものと期待されている実験です。

 「Micro Segment Chamberによる高エネルギー宇宙電子および大気ガンマ線観測」は,新しい能力を備えた検出器を開発し,エネルギー10GeVからTeV領域までの宇宙電子のスペクトルの観測を目的として行われました。この検出器は,神戸大学,青山学院大学,名古屋大学,宇宙科学研究本部,愛知教育大学が中心となり,従来のエマルションチェンバー(原子核乾板)の手法にニュートリノ実験などのために技術革新を重ねてきた精密なエマルションチェンバーの高速全自動解析の技術を組み合わせて創出したものです。またエネルギー10GeVから数百GeV領域の大気ガンマ線を同時に観測し,エネルギー100GeVから10TeV領域にわたる一次陽子スペクトルの推定を行うことも目的として実験が行われました。本実験の結果から,宇宙線の起源,宇宙線の銀河内での伝播について貴重な知見が得られるものと期待されています。

 これらの科学観測実験のほかに,気球工学実験として3機の気球が放球されました。気球工学実験は,「長時間観測用気球」1機と「超薄膜型高高度気球」2機の飛翔性能試験が予定されていました。

 長時間観測用気球は,厚さ25μmの多層膜フィルムをラップ・シールが可能な接着装置で製作した容積1万5000m3のパンプキン形圧力気球で,気球グループの長年の夢である“バラストの不要な気球”の初めての飛翔性能試験です。

 超薄膜型高高度気球では,一昨年世界最高高度に到達した気球フィルムより厚みが12%薄い3μm,幅で1.75倍のフィルムの開発に成功し,昨年度,容積5000m3気球の性能試験が行われ,飛翔に成功しました。今年度は容積を6倍にして,高度51km程度までの上昇試験が行われました。また,今年度開発した厚さ2.8μmのフィルムで容積5000m3気球の初めての飛翔性能試験も行われました。この気球の飛翔成功によって,高度60kmの夢の実現への道が開かれました。

 写真は,本実験で計画した容積1万5000m3の圧力気球の3分の1相似形気球を製作し,地上における耐圧試験を行っている様子を示したものです。地上試験では大変満足のいく結果が得られ,満を持して本実験に臨みました。

(山上 隆正) 


容積1万5000m3の圧力気球の3分の1相似形気球による耐圧試験

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ISASニュース No.279 (無断転載不可)