No.279
2004.6

ISASニュース 2004.6 No.279

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上海天文台訪問記 意外と近い国 

宇宙情報・エネルギー工学研究系 村 田 泰 宏  


 VSOPのプロジェクトに参加してから,ほとんどの外国出張がアメリカの中西部(NRAO VLBAの本拠であるニューメキシコ州のソコロとJPLのあるパサデナ)であった。さすがに初めてのときはいろいろとワクワクしたが,回を重ねるごとにそのような気持ちも薄れてきた。「はるか」が打ち上がった後は,しばらくは外国に行く余裕もなく,日本にこもってせっせと衛星の運用をしていた。中国をはじめとする多くの国々と協力をしていたが,衛星の打上げ前後の本当に忙しい時期には,国際会議の多くは日本で行われていた。そのようなこともあり,日本以外のアジアの国に行くのはこれが初めてであった。


活気ある上海へ

 成田を飛び立つと,飛行機は日本列島に沿って西に進む。長崎を過ぎたところで,「着陸体勢に入るので高度を下げる」とのアナウンスがあった。日本からまだ出ていないのに,もう着くのである。空港から上海市街にある上海天文台まで車で1時間くらい。さらに30分くらいで,VLBI観測を行う上海天文台の25mアンテナに到着する。内之浦のアンテナよりも早く着いてしまうのである。とても近い 航空運賃(時価)もほとんど変わらない。

 『三国志』や『十八史略』などの歴史書を好んで読んでいたために,中国の長い歴史や広大な国土にあこがれる面もある。一方で,国の制度が日本と違っているとか,行くのにビザが必要であったりと,なかなか遠い(行きにくい)国というイメージがあった。ところが,昨年の9月より短期間の滞在の場合はビザが不要になり,だいぶ行きやすくなった。さらに今回上海を訪れて(上海が特別なのかもしれないが),特に不自由もなく滞在できた。最近は,市内と空港を結ぶリニアモーターカーが開通していて,高速道路も整備され,高層ビルがどんどん建設されていて,今までの自分の認識を改めさせられた。

 上海の街は今,非常に活気がある。車や人がとてもアクティブに動いていて,古い町並みもある反面,これからどんどん発展していこうという雰囲気も大いに感じた。歴史的に見ても中国は衰退期と繁栄期を繰り返しており,清朝末から現在の中国になるまでを衰退期とすれば今,繁栄期に向かっているところなのだろう。


上海天文台

 今回の上海天文台訪問の目的は,日本のVLBI計画と中国のVLBIグループとの協力関係について情報交換をすることである。VSOP計画で「はるか」と共同で観測を行った上海天文台の関係者と,VSOPやそれに続くVSOP-2計画の状況および今後の協力関係について意見交換を行った。VSOPVSOP-2と同様に地上VLBI計画として中国との共同研究を重要視している国立天文台のVERAプロジェクトからも,VERAプロジェクトマネージャの(VSOPでも主力だった)小林先生が一緒に意見交換を行った。

 上海天文台は,国立天文台のようにさまざまな分野の天文学者が研究をしており,その中に電波天文学,VLBI観測を専門とする研究者がいる。宇宙研にも客員教官として滞在され一緒に研究をしていた沈(シェン)博士や,VSOPの運用でいろいろとお世話になっている洪(ホン)博士が,VLBIグループの中心として活躍している。上海天文台が運用している25mアンテナは,VSOP計画によるスペースVLBI観測に参加した世界中の電波望遠鏡の一つである。最後までVSOP観測に付き合ってくれている電波望遠鏡である。沈博士はVSOPのデータで研究を行っており,彼の指導する大学院生は,VSOPのアーカイブデータを使って研究をしている。ここでもVSOPファミリーが研究活動を行っているのである。

上海天文台(ドームが載っている19階建ての高層ビル)と,
VSOP観測にも参加している上海25mアンテナ(右)。 


アジアの国々といい関係で

 中国や韓国では現在,次世代の電波望遠鏡計画が立ち上がりつつあるところで,今は活動的で発展的な段階にある。日本にあるVLBI観測局との協力関係も今後どんどんと進んでいくだろう。このインターネット全盛の時代であれば,近いから協力しやすいということはないように思えるが,実際は協力していく上で,定期的に直接会って話をすることはとても重要である。VSOPでも年2回程度のペースで世界中の関係者がカ所に集まり,会合を持った。その点でいうと,航空運賃も比較的安く,近くて時差もなく,ほとんど九州や北海道くらいの感覚で往復できるアジアの国々との協力はやりやすい。人材や天文観測のためのリソース(望遠鏡や相関器,VLBI観測ターミナルなど)を広く共有し,協力し,場合によっては互いに競争関係を持って研究を進めていくことは,それぞれの国にとってとても有益なことである。互いに楽しく天文学の研究を続けていけるよう,今のいい関係を継続,発展させていきたい。

(むらた・やすひろ) 


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