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「はやぶさ」のイオンエンジン運用

 5月9日に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」は,その後も順調に飛行を続け,1日に約30万km の速さで遠ざかりつつあります。ちょうど探査機との交信時間が1日毎に2秒ずつ延びている勘定です。7月はじめには,0.1 AU (天文単位)を超えました。

 イオンエンジンの運用については関係各方面でご関心とご心配をいただいておりました。高圧電源を用いるために発生しうるガスを十分に出し切って(ベーキング)大きな放電がないように準備を重ねて参りまして,わりに長い時間を要しての立ち上げとなりました。エンジンは全部で4基あり,つの性能の確認と「個性」を見極めているところです。同時に運転する台数は3台で,3台の高圧電源を4台にふりわけるスウィッチの選択も含めての確認だったので,時間を要したわけです。5月27日に,イオンエンジンにはじめて「灯」をいれ,先日6月25日には3台のエンジンを同時に稼働させて加速を開始しました。

 当初は,イオンエンジンの加速量はきわめて小さいことから,加速度計で計測できるものでもなく,長期間にわたる軌道決定を行わないと加速性能の見極めはできないと考えていました。しかし軌道修正作業で「のぞみ」などでも用いてきた通称「マヌーバモニタ」という2-way ドプラの予想値と瞬時計測値の差を実時間で表示する表示装置で,幸いにして実測できることがわかり,現在では4 x10-6G という微弱な加速量を,驚くべきことにかなり高い精度で計測処理することができています。

 現在のところ,イオンエンジンの性能は地上試験での値によく合致しており,順調な加速を行っています。来年の地球スウィングバイまでに加速する量は500m/sec 弱で,おおむね年内いっぱいから来年はじめまでには,要求された加速を完了できる見込みです。

(川口淳一郎) 


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赤外線天文衛星ASTRO-Fの打上げ延期

 ASTRO-F衛星は,天体からの赤外線を観測して,宇宙初期の銀河の誕生や進化,暗黒星雲中での星や惑星系の誕生の秘密を解き明かすのを目的とした衛星です。赤外線天体観測衛星としては日本で初めてのもので,2004年2月の打上げを目標にこれまで開発が進められてきました。しかし望遠鏡主鏡を支持する部分が,打上げ時の振動や衝撃で壊れる可能性が明らかになり,これを改修するために,残念ながら打上げが延期されることになりました。

 ASTRO-Fは有効口径67cmの反射望遠鏡を搭載しています。この望遠鏡は,液体ヘリウムを使って-270℃近くまで冷却して使用される特殊なものです。鏡は炭化ケイ素で作られており,これがチタンやアルミなどの金属でできた構造に取り付けられています。試作品を用いた極低温下の試験では特に何事も起きませんでした。しかし実機の試験で,鏡の取り付け部分が外れる不具合が起き,その強度が不足していることが明らかになりました。この問題を解決するために対策委員会が作られ,故障原因の詳しい調査や,改良方法の検討が始まっています。

 ASTRO-Fの打上げがいつになるかは,まだ決まっていませんが,故障の原因究明と改修を行なって打ち上げられる状態に復帰するには,1年程度かかる見込みです。今後は,問題点を確実に直した上で,できるだけ早く打ち上げられるよう,最大限の努力を払おうと考えています。

 ASTRO-Fを使ってどのような観測を行い,どのような研究を進めるかについては,国内外の多くの天文研究者の参加を得て議論を進めてきました。この観測計画を最終的に決定する日程も,打上げ延期に伴って変更されることになりますが,これまでの活発な議論を中断することなく,少しでも多くの成果をあげられるよう,引き続き知恵を絞りたいと思います。

(村上 浩) 

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ASTRO-E II衛星の現状

 TRO-Eの打上げ失敗の後,ASTRO-E II計画は2001年4月に正式にスタートしました。まずASTRO-Eと同じ衛星を作れるかという検討を中心にASTRO-E IIの設計検討を約1年間行いました。入手不可能な部品があるなどの理由で,実は同じものを作ることはそう簡単ではないのです。それと同時にリスクのない範囲内での観測装置の改良を検討し,ASTRO-Eの時のプロトモデル等を利用してその実証試験を行ってきました。これによって,ASTRO-Eでも史上最高のエネルギー分解能を達成していたX線分光検出器(XRS)のエネルギー分解能をさらに2倍向上し,これを冷却する冷媒(液体ヘリウムと固体ネオン)の寿命も1.5倍程度延ばすこともできました。またX線反射鏡の迷光を除去したり,X線CCDに放射線劣化対策をほどこし電極を付加するなどの改良も行います。これらの検討結果は2002年6月の設計確認会において所内の理工の諸先生方にレビューしていただきました。この7月からは,いよいよ一噛試験が始まります。宇宙研クリーンルームでは3衛星の試験が同時進行する時期もあり過密状態となりますが,お互いにスケジュールを調整し乗り切りたいと考えております。関係の方々には御協力をお願いいたします。10月には衛星として組み上がった姿を見られる予定です。

(満田 和久) 

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国際共同水星探査計画BepiColombo,
  宇宙開発委員会における評価を経て次の段階へ

 太陽に最も近い灼熱の惑星である水星は,飛翔体を用いた直接観測としては1970年代の米国のMariner10によるフライバイ時の観測があるだけです。Mariner10は水星にはないと考えられていた磁場と磁気圏活動の予想外の発見をもたらしましたが,その究明は30年以上続く夢に留まっていました。

 ISASでは1997年に水星探査ワーキンググループを結成し,1998年に日本独自の水星探査計画を纏めました。1999年ESA(European Space Agency)からの共同検討の提案,2000年ISASの参加意志の表明を経て,2000年BepiColombo計画がESAの大型計画(Cornerstone)として正式に選定されました。ISASにおいては,2001年の宇宙理学委員会への提案を経て,2002年初頭に評価のうえ正式に認められています。

 BepiColomboは,ESAISASがそれぞれ探査機システムを担当する初めての本格的な日欧国際共同プロジェクトで,水星に2機の周回機と1機の着陸機,計3機の探査機を送り込み,地球型惑星として最も未知の惑星である水星について磁場,磁気圏,内部,表層を初めて多角的・総合的に詳細に観測する野心的な計画です。日本は周回機のつである水星磁気圏探査機(MMOMercury Magnetospheric Orbiter)を担当します。ESAは,打上げロケット,惑星間巡行用のエンジン,もうつの周回機である水星表面探査機(MPOMercury Planetary Orbiter)並びに水星着陸機(MSEMercury Surface Element)を担当します。観測機器に関しては,全探査機において日欧が競争開発し,観測計画については共同で立案・実施します。打上げは2010年度,水星観測開始は2014年度を予定しています。


BepiColombo 水星磁気圏探査機(MMO)提供:京都大学宙空電波科学研究所

 この6月に,基礎研究フェーズ(2003年度)から開発研究(PM)フェーズ(2004年度)に着手することを要望したことに伴い,宇宙開発委員会の計画・評価部会のもとで,東京大学の佐藤勝彦教授を主査とする水星探査プロジェクト評価小委員会が開かれました(6月13日および24日)。プロジェクトの意義,目標及び優先度の設定,宇宙科学全体の方針の要求条件への適合性,開発方針,基本設計要求の妥当性及びシステム選定,リスク管理,実施体制,資源配分の観点からの厳正な議論の結果, BepiColomboプロジェクトが開発研究フェーズに進むことが妥当であると判断されるという喜ばしい結果となりました。先行して行われるアメリカのMessenger計画(2004年打上げ,2009年水星観測開始)でも水星環境探査や内部・表層探査が行われますが,BepiColomboプロジェクトは,水星の磁場構造の全球的な観測により,地球との比較を初めて可能にするとともに,磁気圏の高精度・高分解能観測により,地球との比較から磁気圏の普遍性と特異性を明らかにするという点で,大きな成果を挙げることが期待されています。

 これまでと同様に,ESAとの密接な連携のうえ,国内の大学・諸研究機関の方々,また欧州の関係研究者ともども,本格的な立ち上げを行っていく予定です。今後ともよろしくお願いします。

(山川 宏) 


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