4.開発
ガンマ線バーストの発生は,HETE-2やSwiftのような人工衛星からリアルタイムでメールで受けます。あらかじめどの方向で発生するか分からないガンマ線バーストを待ち受けるシステムは,このメールで突然たたき起こされて動き始めます。1.3mφの巨大望遠鏡とドームが,電子メールに反応して突然動き出すのはさすがにダイナミックです。ただ,これはとても危険なことで,はさまれたら事故になりますから注意しています。独占できる専用望遠鏡の強みですね。寝ていた恐竜が立ち上がってくるような感じです。しかし98用にチューニングされているこのシステムの速度はとても遅く,目標天体までには2分もかかることがわかり失望してしまいました。現在では,無人でも金沢からの遠隔操作でも動かせる状態にあります。金沢にいて,東京のシステムを整備することはなかなかに大変です。昨年は投入した旅費だけでも150万円を越えました。幸いX線グループの井上先生が私を客員にしてくださり,村上(浩)先生が共同利用研究に採択してくださいました。それでも宇宙研のシステムを金沢で開発するのは難しいことです。そこで考えたのは,大きさは0.3mφと小さいが,同じ様なシステム(ドーム,赤道儀,検出器,Linux) 一式を金沢大学の屋上にも設置して,技術を磨くことにしたのです。ここで確立した手法を東京に移植して,できるだけ東京には行く回数を減らす。全てネットに繋がったパソコンでの制御ですから,金沢でもある程度の開発が出来ました。
5.てんやわんやの予備観測
金沢での平行開発は成功でした。3月29日,東京のシステムがまだ立ち上がっていないときに,金沢のシステムがガンマ線バーストの観測に成功したのです。もちろん金沢のシステムには分光の能力はありません。観測が出来た証拠をお見せしましょう。CCDでの星の像で,○で囲んだところがガンマ線バーストに伴って出た「光フラッシュ」で,〜13.1等級もありました。まだ誰も見たことが無い,何十億光年先から初めて今届く光は,まあ恋人を独占しているような気分ですね。5月28日のガンマ線バーストでは,宇宙研ドームも自動で反応しましたが,残念「光フラッシュ」はありませんでした。「光フラッシュ」のあるものと無いものがあります。理由はわかっていません。「アイデアは良し,さて1.3mφの出番です」。あとは分光して距離を決めることですが,まだNICMOS赤外線検出器とプリズム-グリズムは完成していません。Swift衛星が打ち上がるまでに準備しましょう。3年程度は観測を続けたいと思いますので,サポートをお願いします。それにしても,13年前のこの旧式望遠鏡をオーバーホールするお金がほしい(パトロンを探しています)。
 |
図3 金沢ドーム望遠鏡:0.3mφで観測したガンマ線バーストの光フラッシュ。〜13.1等級もあったが,距離は数十億光年もの先である。こんなに小さな望遠鏡でも〜19等級の星を観測することが出来,数十億光年先を見ることができる。 |
6.星を見てみたい!
この話を読んで,「私この屋上望遠鏡で星をみてみたい!」と思われた人も多いでしょう。残念ながら,赤外線用に開発されたこの望遠鏡は可視光には向いていないのです。鏡の一部に金が使われ黄色い星になり,像もちょっと悪い。観望会を期待した人は残念でした。こんな旧式の望遠鏡で,宇宙の始まりや最も遠い宇宙を狙う観測や研究ができるのは愉快です。「観測に成功してから書け!」ですね。この分野は,眠っていた望遠鏡の活用法として,現在世界中でブームになっています。もちろん,ガンマ線バースト発生,一日後もすれば,NTT, Keck,Subaru等の8mφもある巨大望遠鏡での観測も可能で,競争は熾烈なのです。こんな巨大望遠鏡が活躍する時代に,この仕事を始めてもう一つ驚いたことは,大都会:東京のど真ん中,理研の屋上で,たった一人で0.3mφで頑張る鳥居くんを知ったことです。最近の観測では必ず彼が単独で研究者メールに名前を出してくる。しかも彼の観測は世界から高い評価で迎えられている。まだゲリラが活躍できる学問です。
この号がISASで自前編集される最後の号になると聞きました。きっと,体裁を変えてJAXAとしての再出発となるでしょう。充実した広報誌の編集,発行を長い間ご苦労様でした。
(むらかみ・としお)
|