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No.244 |
<研究紹介> ISASニュース 2001.7 No.244 |
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「ようこう」硬X線望遠鏡でさぐる太陽フレアの磁場構造坂 尾 太 郎太陽フレアとは,コロナ中に蓄えられた磁場のエネルギーが爆発的に解放されることでコロナ中のプラズマ粒子を一気に加速・加熱したり,粒子を直接,惑星間空間に大量に放出する現象です。加速・加熱された粒子は,電波からγ線までの広い波長域で電磁波を放射しますが,このうち硬X線は,後述するように,高エネルギー電子が周囲のプラズマと衝突することで放出する,制動放射に起因します。硬X線に対してコロナ(密度108/cm3程度)は光学的に薄く,また電波と違いコロナ中の磁場の影響も受けないため,硬X線観測は電子が磁力線(磁気ループ)に沿ってどのように伝搬し,またどこでどのようにしてX線を放射するのかを調べる上で有効な手段となります。 「ようこう」に搭載された硬X線望遠鏡HXTは,14 - 93 keV(キロ電子ボルト)の硬X線域でフレアを4バンド(L, M1, M2, Hバンド;14 - 23 - 33 - 93 keV)で撮像し,フレアにともなう粒子加速のようすや加速のメカニズムを調べることを目的としています。HXTの大きな特長は,30 keV以上の,いわゆる純粋に「非熱的」な硬X線画像を初めて得ることができた点にあります。本稿ではこの非熱的な硬X線像を用いてフレアの磁場構造をさぐるという研究を紹介します。
まず,非熱的な硬X線で太陽フレアはどのように見えるのでしょうか。図1にHXTが観測した,硬X線像の例を示します。M2バンド(33 - 53 keV)では硬X線源は2つ目玉状に見えており,この2つ目玉は,同じく「ようこう」に搭載された軟X線望遠鏡SXTが観測した軟X線ループの両足元部に対応しています。30 keV以上のエネルギー範囲では,硬X線像はこのような2つ目玉構造を多く示すことがわかり,このことから一般に,非熱的な硬X線の大部分はフレアを起こしている磁気ループの両足元部から放射されていることがわかりました(注1)。
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さらに,2つ目玉それぞれからの硬X線の強度変動を調べると,両者はほとんど同時(時間差は〜0.1秒以内)に硬X線を放射しています。ループに沿って数万km離れた2点を同時に光らせるには,その硬X線を放射するものの速さは10万km/s以上であることが必要です。このことから,30 keV以上の非熱的なエネルギー域の硬X線は,磁気ループの上方で光速の数分の一にまで加速された電子が,ループに沿って両方の足元へと降り注ぎ,そこで周囲の密度の高いプラズマと衝突することで放射されていることが,HXTによって初めて明らかになりました。 さて,このように非熱的な硬X線源の性質がわかってくる一方,フレアのエネルギー解放が磁気リコネクションによっていることがHXTとSXTによる観測から発見されました。この,磁気リコネクションによるフレアのエネルギー解放については,ISASニュース2000年6月号の常田先生による研究紹介にわかりやすくまとめられていますので,そちらをご参照ください。フレアがコロナ中の磁場をエネルギー源とする以上,どのような磁場構造によってフレアが引き起こされているかを知ることは,フレアのエネルギー解放や粒子加速を理解する上で決定的に重要です。「ようこう」が明らかにした磁気リコネクションの描像(図2)では,互いに逆向きの磁力線がつぎつぎとリコネクションにあずかることでフレアのエネルギー解放が進行していきます。さて,その場合,(リコネクションで形成された)閉じた磁気ループの両足元部に位置する,2つ目玉の非熱的な硬X線源は,フレアの進行にともなって上空の電子加速領域がどのように移動していくかを知る上で,優れたトレーサーになると期待されます。例えば,図2では,エネルギー解放域(リコネクション点)が時間とともにコロナのより上方へと移動していきますが,それに対応して,2つ目玉の硬X線源は互いに離れていくという系統的な動きを示すことが予想されます。
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では実際にはどうなのでしょうか。HXTが観測したインパルシヴ・フレア(注1を参照)のうち,30 keV以上のエネルギーバンドで2つ目玉状の硬X線源を示すフレアを取り上げ,2つ目玉の重心間の距離の時間発展を調べた一例を図3に示します。この図の例では,図2から期待されるように,時間とともに2つ目玉間の距離は大きくなっていきますが,反面,特に系統的な距離の増減の見られないフレアもありました。ところが,このような2つ目玉間の距離の振る舞いと,そのフレアの(空間積分した)硬X線スペクトルとの間には不思議な関係のあることがわかりました。図4は縦軸が2つ目玉の距離の広がる速さ(正の値が,2つ目玉が離れていくことを示す),横軸は,正の値が,20-30 keVを境にしてフレアのピーク時の硬X線スペクトルが低エネルギー側で急峻になる(負の値はその逆)ことを表しています。これを見ると,2つ目玉(=ループの両足元)が離れていくフレアは,系統的に20 - 30 keV以下で低エネルギー側のスペクトル成分が卓越していることがわかります。
磁気ループの両足元が広がっていくフレアの磁力線の構造は,少なくとも2次元の範囲では図2の描像(「カスプ付きループ型」)と整合しています。では足元が特に広がらないフレアはどのような磁場構造をともなっているのでしょうか。ここでは詳細は省きますが,国立天文台・野辺山太陽電波観測所での電波観測(ISASニュース1999年7月号の西尾先生の記事を参照)や,ハワイ大学天文台でのHα線観測などから,太陽表面から浮上してきた磁力線が上空のコロナ中の磁力線と衝突する,いわゆる「浮上磁場型」の磁場構造(図5の下側の図)を考えれば,このような足元の振る舞いを説明できるのではないかと考えています。
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それでは足元の広がるフレアと広がらないフレアで見られた,硬X線スペクトルの違いは何によっているのでしょうか。それを知るには硬X線画像そのものに立ち帰る必要があります。図1で (a)は足元の広がる(「カスプ付きループ型」の磁場構造をともなった)フレア, (b)は足元の広がらない(「浮上磁場型」の磁場構造をともなう)フレアです。 M2バンドではどちらも2つ目玉の硬X線源が見られるのに対して,Lバンド(14 - 23 keV)では両者の形状が大きく異なります。(a)のLバンドの線源は2つ目玉の間に位置し,それらをつなぐような形状をしています。これはフレアで生成された,ループの頂上付近に位置する3000 - 5000万度の超高温プラズマからの放射を見ています。一方,(b)ではM2バンドと同様にループの足元を示す2つ目玉が見えており,ループ頂上の超高温プラズマは見当たりません。解析した他のフレアについても同様で,このことから,我々はフレアの磁場構造と粒子加速・熱的プラズマの生成に関して,次のように予想しています(図5)。
(1) (フレアのインパルシヴ相での)ループ頂上付近の超高温プラズマは,「カスプ付きループ型」のフレアに限り生成される。
これまでは2つ目玉を示す硬X線源の距離を扱ってきましたが,個々の線源はどのように動いているのでしょうか。両足元が広がるフレアについてこれを示したのが図6です。図中の等高線はある時刻での2つ目玉の硬X線源,白丸は0.5 秒ごとの重心位置,矢印はその移動方向を表します。面白いことに2つ目玉は一直線上を遠ざかるのではなく,むしろ互いに反平行に進むように遠ざかり,その軌跡はちょうど,Hα観測でよく知られた,フレアの“two ribbon”構造を連想させます。硬X線源のこのような動きは図2の描像を超えた,フレアの3次元の磁場構造を示唆していますが,紙面の都合でここから先は別の機会に譲りたいと思います。 「ようこう」は幸いにも打ち上げから10年近くになる今日も順調に稼働しており,2000年前後の今太陽活動極大期に発生した数々のフレアでも興味深い観測結果を得ています。Hαを始めとする地上観測や,近々打ち上げ予定のアメリカの硬X線太陽フレア観測衛星HESSIとも協力して,どのような磁場構造によって,爆発的な粒子加速が引き起こされるのか,また,硬X線源がそもそも「2つ目玉」に見えるのはなぜか,すなわち,3次元の磁場構造の中で,なぜ特定の場所にだけ加速電子が集中的に降り注ぐのか,その場所を決めているのは何か(注2),といった問題を解明していきたいと考えています。
(さかお・たろう) |
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