No.244
2001.7

ISASニュース 2001.7 No.244

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Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory滞在

戸 田 知 朗  

 折り悪しく春休みと重なる3月末に出発となってしまった。当初2月からと思われていたのに,縁起でもないけれど今しばらくの宇宙研プロジェクトのように,やむを得ず少しずつ引き延ばしてきた結果である。

 成田空港はやはり団体客でごった返していた。こういうときの座席選びは,ある種賭けのようなものがある。なるべく細身で,遠慮深くて静かな前後左右の道連れをと願うしかない。果たして,窓側に陣取った私の横に現れたのは,ラグビーでもやっていたかと思われる,明らかに座席を上回る肩幅ともてあます上腕筋をもった人物だった。遠慮深いという点は当たっていたかもしれない。手首から上を動かさずに健気に食事をする様子は,最早自分を忘れて気の毒としか言いようがなかった。

 ワシントンD.C.は快晴であった。殆どの乗り合わせた団体客は,ニューヨーク便に乗り継ぐらしく開放感はひとしおだった。入国審査ゲートで,滞在はと訊かれるので,2ヶ月の観光と答えてみたら,案の定,感嘆符と共に「結構なご身分だな。うらやましいよ。」と天を仰いでみせて,会話に乗ってきてくれる。こんなことでアメリカを実感して安心するのだから,自分の中にも明らかにステレオタイプは存在する。

 JHU APLはワシントンD.C.とボルチモアの間に位置している。隣地にはのどかに馬が草を食み,地平線など当たり前の畑が広がっている田舎である。私はここに来るまで"John Hopkins"だと思っていたけれど,本当は"Johns Hopkins"。でも道路標識は"John Hopkins Rd."となっている。Rt.29からこのJohn Hopkins Rd.に折れるとすぐ,広大な敷地に一群の建物が現れる。門もなければ,植え込みも囲いもない。それと知っていなければ,うっかり通り過ぎてしまうほど入り口はあっさりとしている。付近に不似合いな大きな駐車場があるので,何となく気づかされて誘い込まれていく感じだった。なかなか洒落た色使いのかわいらしい標識が道路に面してあるのだが,何ともこの巨大な組織には似つかわしくない。宇宙研の門構えと交換して釣り合いがとれそうな感じがした。

 APLは宇宙研に先行する小惑星探査ミッションNEARの成功で沸き立っているはずで,その雰囲気の覚めないうちに合流したい,と思っていた。既に1ヶ月以上が経過していたけれど,達成感の余韻はそこここに感じられて人と接していても小気味いい。やはり成功というものは,部外者であっても自然に取り込まれて,何となくいい気持ちにされてしまう妙味がある。

 4号館2階に部屋を与えられて8週間を過ごすことになった。APLは各建物の出入り口が本当の門である。ここで厳重な検査を経て,漸く中に入ることができる。APLの建物群は正に「うなぎの寝床」というにふさわしく,殆ど無統一に次々に建物を建て増していったと思えるような造りになっている。傾斜地に立っているので2階1階になり,1階2階になったりしていく。

 APLの宇宙工学部門はこの4号館に間借りしていて7号館のサイエンスグループと協同している。全部で40号まで数える研究施設だから,宇宙といっても1部にすぎないほど多岐にわたる研究機関である。ここで,NEARのレーザ測距グループに交じって光センシング技術について検討する機会をもった。忙しさにおいては,宇宙研は自負していいと思っているが,APLも例外ではない。この忙しさのために,私は彼らを捉まえるのに忙しくせねばならなかった。ただ,彼らが多忙なのは17時きっかりに退所するためで,終わりの見えない宇宙研の忙しさとははっきり違っている。

 私のいた部屋からは7号館につながる廊下がみえていて,ここの頻繁に壊れて1ドル札をタダ取りする某ケミカル飲料自販機の前で,口惜しがったり,捨てゼリフを吐く所員の姿をよく見かけて面白がった。面白く思えるのは,こういう場面で彼らに期待するステレオタイプのせいかもしれないが,滞在の忙しさを忘れる瞬間だった。実際,彼らは本当に口惜しがっているとは見えない節がある。幸い,私自身はこの自販機に裏切られることはなかった。

 APLのミッションはTIMEDCONTOUR,そしてSTEREOと続いていく。

(とだ・ともあき) 



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