No.240
2001.3

ISASニュース 2001.3 No.240

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ロケット実験班に参加して

雛 田 元 紀  



 3月末でいよいよ定年です。今日まで約35年間,「ロケットのこと」一筋で参りました。時には気分転換と称して「ある海域における魚の適正分布の理論的研究」と言うたわいもないこと等に脱線したこともありました。そう言えば宇宙科学研究所誕生前の所謂「中枢研」構想では,プロジェクト開発を目指した応用研究と一般的な基礎研究の割合は,組織としても個々人としても七対三程度がよかろうとのご説明だったように記憶しています。当初の構想通り余裕のある研究所になって行けばより理想的でしょう。

 この間,普通では経験できないことを色々やらせて頂きました。内之浦出張も合わせて2年を越したでしょうか。その日の疲れをその日の内にと,「すっかり取るため」と称して,夜芋焼酎を痛飲していた時期もありました。当時喫煙も度が過ぎておりましたが,禁煙を契機に,ここ20年程はお酒にはすっかり興味を無くしております。若い頃をご存じの方にたまにお合いすると一様に怪訝な顔をされますが,代償として随分太ってしまいました。最初から太っていたとのご指摘が聞こえそうですが,それ以前は今ほどではありませんでした。

 さて,内之浦での余暇,待機の過ごし方にも触れておきましょう。私自身は実験場ではスクラブル,宿では,芋焼酎を飲みあるいは麻雀をしながら,歓談で時間を過ごしました。リラックスが目的なのは当然ですが,副産物として,チームワーク育成,知的,肉体的俊敏さの養成などにも役だっています。発射前後数分間の緊張状態で,的確な判断と迅速な行動が求められる飛行保安管制の訓練には,最適な余暇の過ごし方との意見に便乗して楽しんで参りました。

 研究所に入り立ての頃は,ロケット実験班はラムダ計画主任である野村民也先生(元宇宙航空研究所所長,元宇宙開発委員会委員長代理)を中心に総力を揚げてラムダ4Sロケットによる初の人工衛星を目指し,土日返上で,日夜取り組んでおりました。外部から寄せられた大きな期待感の裏返しとでもいうのでしょうか,なかなか衛星実現に至らず,世間の苛々も頂点に達した頃,ようやく1970年2月11日5号機で「おおすみ」誕生となりました。下っ端の私も何か手柄を立てたような,晴れ晴れした気分を味わせて頂きました。当時の感激と,それに至るまでに実験班の受けた学識経験者や一部報道からの手厳しいご批判は新米の私にも最も鮮明な記憶として,脳裏にやきついております。ラムダ4号機3・4段の追突事故は外部から初歩的ミスと糾弾されました。第3段残留推力によるその可能性を予想できなかた不明を深く恥じもいたしましたが,あまりに厳しいご批判に反論したいお気持を抑えられたリーダーの先生方はさぞや大変だったことと想像いたします。批判,評価,反省などの言葉は最近でもよく耳にしますが,深い見識に基づいた,建設的で責任ある批判,評価であってほしいものです。

 さて,大先生のお教えもご紹介しておきましょう。「おおすみ」に漕ぎ着けた後のある朝,故玉木章夫先生(元東大宇宙航空研究所所長)が「何もしてないと研究所に来るのが恥ずかしくなるだろうね。そうなったら辞めるしかない。」と仰いました。この心構えで勤めるよう心掛けて参りました。皆様は堂々と来られているようで,安心です。

 故森大吉郎先生(初代宇宙科学研究所所長)からは,「不具合,事故などの究明課程で,能力や手腕,責任感や熱意の程度がわかるもんですよ。」と伺いました。グループで仕事をしていると,個人個人のことは表に現れ難いものですが,そのような時には否応なしに現れて仕舞うし,その後の信用度にも関わるので心しなさいと仰ったのでしょう。また,「問題ないものは変えるべからず」,「実験の前祝いは決してするべからず」等と折々にご注意頂きました。勿論ご意志は尊重して参りましたが,後輩たちはどうでしょうか。

 所帯の小さい宇宙研では,互いに協力,連携して大きな成果を挙げてきました。若い研究者の独立性は最大限尊重される一方,ことに当たっては自我を抑え全員で取り組むことが求められてきました。多くの雑多な雑用も当然のこととして受け入れられ,何方からも不平,不満を聞きません。これは一般には極めて希なことですが,これこそが宇宙研の発展の原動力です。今後もこの伝統が若い人を含めて尊重,維持されることを期待します。

 以上宇宙研のためとあれこれ並べて仕舞いました。在職中,所内外の多くの先輩,同僚,後輩にご指導,ご支援を頂きました。皆様に深く感謝しております。

(ひなだ・もとき) 


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