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No.240 |
<研究紹介> ISASニュース 2001.3 No.240 |
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中性子星の磁場宇宙科学研究所 堂 谷 忠 靖宇宙に存在する様々な天体の中で,中性子星はブラックホールに負けず劣らず特異な天体である。太陽と同程度の質量がありながら半径は10km足らずで,極限の密度,極限の重力,極限の磁場を持つ,まさしく極限の天体と言えるだろう。近年,「あすか」衛星を始めとするX線観測の進展もあって,その小さな体に似合わぬ多様な振る舞いが明らかになってきた。ここでは,中性子星の磁場をめぐる最近の研究の進展について概観してみたい。 中性子星は,超新星爆発で誕生する。太陽の8倍からおおよそ30倍程度の質量の星が一生の最後に超新星爆発を起こすと,あとに中性子星が形成されると考えられている。もとの星の中心核が角運動量や磁束を保存しつつ収縮すると仮定すると,生まれたての中性子星は,(その表面で)1億テスラという超強磁場を持ち,毎秒数百回という高速で自転することになる。ちなみに,地球磁場は2万分の1テスラ,実験室で定常的に作れる磁場は最大100テスラ程である。中性子星の磁場を磁束の保存で説明するのは正しくないと思われるものの,磁場強度として概ね正しい値を与える。 中性子星は,1967年に電波パルサーとして発見された。電波パルサーの輻射機構については,今もって議論が続いているが,もとは中性子星の回転エネルギーである。磁場を持ち高速回転する中性子星は,基本的には単極発電機と考えることができ,誘導電場で加速された電子(と陽電子)が雪崩式に増殖し,磁場に沿って加速度運動をする時に電磁波が放射されるようである。したがって,電波パルサーの回転はだんだん遅くなっており,その減速の割合から磁場の強さが推定できる。それによると,多くの電波パルサーは,1億テスラ程の磁場を持つ。また,自転の減速の割合から大まかな年齢を推定することができる。それによると,おおよそ百万年から一千万年ほどで,天文学的に言えば,電波パルサーは若い(死んで間もない)天体ということになる。電波パルサーの自転周期がだんだん伸びて10秒近くになると,電子の雪崩増殖がうまく起こらなくなり,電磁波が放射できなくなってしまう。電波パルサーの死である。 ところで,星の多くは連星系をなしている。近接連星系では,一方が超新星爆発を起こしても,系が壊れずに連星のまま残ることがある。この中性子星に相手の星からガスが落ち込むと,中性子星に落下する過程で膨大な重力エネルギー(静止質量エネルギーの1割)を解放し,一千万度を超える高温になってX線を放射するようになる。X線連星の誕生である。X線観測が本格的に始まった1970年代には,すでにX線連星には2種類あることがわかっていた。ひとつは,X線でパルスを放射しているX線パルサーである。やはり1億テスラ程の強い磁場を持ち,磁極に集中した降着物質からのX線放射が自転に伴い見え隠れする事で,パルサーとなっている。同じパルサーでありながら,電波パルサーとは輻射機構が全く異なるので注意。単独なら電波パルサーになるところが,たまたま連星に生まれて,相手からガスが落っこちてきたため,X線パルサーになっていると考えられる。もうひとつは,非常に古い系である低質量X線連星である。X線パルスが見られないことから,磁場は弱いと考えられているが,ちゃんと測られたことはない。十万から百万テスラ程度だろうと,推測されている。なぜ磁場が弱いのかは,はっきりとはわかっていない。 このように,単独で生まれた中性子星と,連星系で生まれた中性子星で,きちんと棲み分けがなされていたのが,1980年代頃から新しい展開が見られるようになってきた。きっかけはミリ秒パルサーの発見である。 宇宙で最も早いパルサーは,長らくカニ星雲中のパルサー(カニパルサー;周期33ミリ秒)であったが, 1982年にミリ秒パルサーPSR B1937+21(周期1.56ミリ秒)が電波観測により発見された。PSR B1937+21の自転は減衰率が大変小さく,磁場の強さは約4万テスラ,年齢はざっと2億年になる事が直ちにわかった。その後,ミリ秒パルサーが次々と発見され,その多くは連星をなしている事が明らかになった。早い自転は若い中性子星の特徴だが,弱い磁場や大きな年齢などと矛盾する。一方,連星系中の古い中性子星というのは,低質量X線連星に他ならない。これらの観測事実を統一的に説明するのが「再生シナリオ」である。
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低質量X線連星では,中性子星の周りに降着円盤ができている。円盤中のガスは,中性子星近くでは回転周期が1ミリ秒以下になり,この回転するガスが中性子星に落下することで,中性子星の自転は徐々に早まって行く。低質量X線連星の寿命は十億年以上で,その間の質量降着で中性子星の自転周期をミリ秒まで上昇させるのに十分である。一方,伴星はガスを失ってだんだん軽くなり,やがてガスを供給できなくなってしまう。ここで低質量X線連星としての寿命が終わり,ミリ秒パルサーとして新たな活動が始まるわけである(図1)。この中性子星の再生機構はX線パルサーでも機能し,やはりミリ秒パルサーが形成される。
図1:連星系からX線連星ができ,ミリ秒パルサーへ進化する過程の模式図。 この再生シナリオは,いろいろな観測事実をうまく説明するものの,低質量X線連星中の中性子星が高速自転している直接的証拠はなかなか見つからなかった。ところが,1996年にいて座に出現したX線新星から,周期2.5ミリ秒のX線パルスが検出された。低質量X線連星中の中性子星が確かに高速自転していることが直接確かめられたのである。このX線新星は,ミリ秒パルサーになる一歩手前のX線連星と言えるだろう。
ところで,これまでに知られているX線パルサーは100近くになるが,その中にいくつかの変り種がいることが以前から知られていた。これがどうも新種らしいということで,1990年代の中頃から「異常なX線パルサー」と呼ばれるようになってきた。その特徴をあげると,
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さらに,このマグネターが,軟ガンマ線リピータと呼ばれる天体と関連するらしいことがわかってきた。この天体は,時たま軟ガンマ線でバーストを頻発する天体で,銀河系内に4天体が知られている。紛らわしいが,宇宙の遠方で起きる(古典的)ガンマ線バーストとは別の現象である。軟ガンマ線リピータがどういう天体か,なかなか観測が進まなかったが,1990年代に入ってX線など他波長での観測が進み,数秒のパルス周期,大きなスピン周期増加率,超新星残骸との関連などが明らかになり,マグネターの仲間ではないか,と言われるようになってきた。中性子星内部の磁力線の配置が突然変わることで,軟ガンマ線バーストに伴う膨大なエネルギー(太陽放射の千年分)が説明可能とも言われているが,これまた詳細は不明である。 これまで出てきた中性子星を,スピン周期と磁場で分類すると図2のようになる。ところで,これ以外の種類の中性子星は存在しないのであろうか? 超新星残骸の寿命はわずか数万年なので,その近傍を探せば若い中性子星が網羅的に調べられそうである。これまでに発見されている超新星残骸は約220で,電波パルサーは1100を超えている。ところが,超新星残骸にパルサーが付随している例は,(偶然のものを除くと) 20に満たないようである。中性子星を作らない超新星爆発は,(我々の銀河系では)少ないことを考えると,この数は驚くほど少ない。では,中性子星は一体どこへ行ってしまったのか?
図2:様々な中性子星の,スピン周期と磁場強度による分類。 この,パルサー不在問題は,ずいぶん以前から指摘されていたが,だんだん明らかになってきたのは,「誕生間のないパルサーの典型はカニパルサー」ではないのではないか,ということである。最近このような例がX線観測で見つかるようになってきた。電波をほとんど放射しない若い中性子星である。典型は,カシオペアAという超新星残骸(年齢約340年)の中心付近に発見された中性子星(らしき天体)である。パルスは検出されていない。まだ暖かい中性子星表面(数百万度?)からの熱的放射が見えているのではないかと考えられている。ところで,最も若い超新星(残骸)といえば,SN1987Aがある。ニュートリノの観測から中性子星が生まれたと考えられているが,カニパルサーのようなパルサーが存在していないのは明白である。では,どのような中性子星が生まれたのだろか? 最近,可視光で2.1ミリ秒のパルスが検出されたという報告がなされたものの,多くの人は半信半疑である。今後の観測が期待される。 このように,中性子星をめぐる研究は,急速な進展を見せている。いちいち述べなかったものの,電波パルサーやマグネター,軟ガンマ線リピータの観測では,「あすか」の寄与も大きい。Astro-E II衛星によってさらにどんな発見がなされるか,今から楽しみである。 (どうたに・ただやす) |
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