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用語解説
TTM
MTM
クライオスタット
FM
ASTRO-F TTM試験

 今春行われた構造モデル(MTM)試験に引き続いて熱モデル(TTM)による熱真空試験が行われました。写真はスペースチェンバー内に鎮座し,蓋が閉められる直前の様子です。上部の銀色に光っている部分が液体ヘリウムクライオスタットで内部に口径70センチの望遠鏡と観測装置が納められています。下部の金色に光っている部分が通信,姿勢制御,電源等の共通機器が入っているバス部です。

 ASTRO-Fでは液体ヘリウムの寿命をできるだけ長くするために様々な工夫がされています。その一つがクライオスタット外壁を放射冷却によってできるだけ低温にすることです。しかし,実際に宇宙空間でクライオスタット各部の温度がどのようになるかは熱真空試験で確認してみないとわかりません。このため,クライオスタットに液体ヘリウムをいれ,スペースチャンバー外から真空ポンプでタンクを減圧し,液体ヘリウムを超流動状態にした上で熱真空試験を行いました。写真で本体の右側に見える銀色の配管が減圧ラインです。

 また,クライオスタットが大きく,かつ複雑なため内部の温度分布が定常になるのにかなりの日数を要します。このため,通常の熱真空試験に比べて試験期間が長く,チャンバーの運転は11月8日から27日までの20日間にもなりました。

 幸い試験は順調に進み,宇宙空間を模擬した試験が2種行われ,貴重なデータを得ることが出来ました。この結果はFM製作に反映されますが,これによりASTRO-Fがより信頼度の高いシステムになるものと思われます。

(松本敏雄) 


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宇宙学校・たけお

 さる11月11日(土),佐賀県の武雄市において「宇宙学校」が催された。九州では初めての試みで,延べ300人の参加者だった。1時限目「宇宙の謎に挑む」(講師:高橋忠,松岡),2時限目「惑星と生命」(田中智,黒谷),3時限目レ「ロケットと未来の宇宙開発」(的川,橋本正)というプログラムで,素朴でいい質問が連発された。好例を挙げれば,「光には重さがある?」「太陽風はどうして地球をよけるの?」「月は何色?」「宇宙から帰ったカエルは跳べるの?」「人工衛星に貼ってある金色の膜は何?」「スペースシャトルの中の空気はどうやって提供されているの?」など。「木星に火をつけたら爆発しますか?」という質問には,講師も度胆を抜かれた。

(的川泰宣) 


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 北緯79度は本当に79度で,あと1度80度,あと11度で北極点です。学校で習ったことがその通りに起きます。北極星はほぼ真上にあり夏の大三角は地面を突き刺すように立ったままぐるーっと一周します。月は地平線のすぐ上を横に進んでこれも沈まず一周します。単に傾きが変わっただけと納得するも,なんだか別の世界に来た気分になります。真昼でも太陽は地平線の下10度にあって,天気の良い日で南の山の輪郭が少しだけ分かる程度に漸く光が届きます。実際は曇りや雪の日が多くて要するに一日中真暗です。

 極域上空の太陽風と地球磁場の相互作用によって発生するとされる上層大気中のイオンの地球外への流出機構の解明を目指して,観測ロケットSS-520-2号機はスバルバード諸島スピッツベルゲン島ニーオルスンから1000kmの上空へ観測器を打ち上げます。このミッションは来年NASAが同種のロケット実験を計画していることもあり,是非とも今回の成功が望まれます。高度千キロを越えるのが実験主任との約束ですが,2段式とはいえ発射上下角を相当高くする必要があることと,現象の現れる南西の方向に打つためグリーンランドやアイスランド,ノルウエー本土を睨んで落下域の設定に気を遣うなどそれほど楽な打ち上げではありません。Mロケットのノズル材料の改良のための設計手法の検証の役目もあり通常の観測ロケットとは緊張の度合いはずいぶん違います。

 スバルバード諸島はノルウエー本土から北へ約千キロ。この地域まで流れ込むメキシコ湾流のために12月の平均気温はマイナス12〜3度で緯度の割には暖かく,今回の打ち上げを行ったニーオルスンという町は昔は世界最北の炭坑だったのですが,現在では極域の生態調査や科学観測の基地として研究者が常駐できる小さなコミュニティとして維持運営されています。日本からも極地研の出店があります。今回の実験期間中の町の人口は我々実験班を含めて40人から60人といったところでした。この時期週に2度の定期便が1回飛ぶと人口が何割も変わります。町のインフラは炭坑の時代から引き継がれたもので,ロッジからエネルギ供給,食事,飛行場の運用維持など Kings Bay Kull Compani (Kullは石炭,今は単にKings Bay)という運営会社が行っています。この会社は名前の通り昔は石炭採掘の会社だったそうで,ここのお姉さんたちは売店のレジから除雪やら散髪やら驚くことに航空管制まで一人で何役もこなします。

 ニーオルスンは島の西岸 Kongsfjordenという湾に面していて対岸には雪をかぶったとがった山が並び,山と山の間を氷河が海に流れ込む雄大な景色が眺められます。ただし太陽が昇ればの話で,今回のニーオルスン滞在の実験班の内3人2年前の調査で明るいときの様子を見ていますので,暗い中をこっちの景色はこう,あっちはこうすごいと説明しますが他の大半の実験班にはなにやら不満です。氷河の先端から海に落ちた氷が港にプカプカ浮かんでくる(水面の上でも家より大きい)のを見て青い氷に氷河の名残をみるのが精一杯でした。これはみんなで車で港へ行ってヘッドライトで照らして眺めます。あとはオーロラです。実験期間中に昼間も含めて赤やら緑やら何回も出ますが,実験班の中でもこれを見る態度の差の甚だしいことと知りました。外で見るのは寒いのです。

 さて実験は11月13日から,発射地上設備や追跡を担当するノルウエー側アンドーヤロケットレンジの連中と輸送機材の点検,開梱から始め,輸送時の温度や環境の記録を点検してよしよし予定通り,とまずは安心。スエズ運河を通るときのロケットの温度環境についてのすったもんだやら,噛合わせでのトラブルや武豊での出荷時のゴタゴタとか,いろんなことがあった割にはあっさりと作業開始。以後組み立て,動作チェック,ランチャ装着などきわめて順調。準備の良さと調査の完璧さを誇るロケット班チーフ。こういう時はさらりと流すものだとたしなめる実験主任。この後に始まる長い長い「待ち」のことなど想像もできず・・・予定通り11月25日の打ち上げ初日に臨む体制ができあがりました。




 "We continue to HOLD."ずっと続く実験主任の放送。毎朝5時からスケジュールに入り打ち上げ体制を作って6時過ぎから昼まで良い観測条件を待つ。実験主任とPIは地上観測とデータQLで町で待機。ロケット組は射点近くのブロックハウスに缶詰。以下,天気,風,打ち上げ条件ベストの日のアンドーヤの連中との会話(ロケットの都合で打てなかった日のことは忘れている):
「サイエンスの奴らはどこまで欲張りだいつも120%を狙う」
「いや500%だ」
「今までのアンドーヤでの待ちの記録は
NASAの奴らが23日待って打てなかった。この時もサイエンティストがGOを出さなかった。次に出直して来たら初日に上げて失敗だった」
「そりゃかっこ悪いな」・・・

 「おおいシモセ行くど」
「今日は
1時間目体育,2時間目玉突き,晩飯,3時間目体育,サウナ,inch club,夜食」
「はいはい」
「今日はPIの若いのをいっちょもんでやろう」・・・
打ち上げ待機中の毎日の昼食後の会話。週に1回 Kings Bayのエアロビクス教室もあります。
「とほほ・・おまえらは日本の誇りを背負って北極までロケットを飛ばしに来ておる。エアロビクスのお姉さんをのぞくとは何事かなにー一緒に踊っただと・・情けない」

 12月4日,地上,上空,風の条件何とかよし,ただし雪はやまない。現象の現れるのを待つうちいよいよゴーサインで発射。雪と氷の地面を照らしながらSS-520-2号機は降りしきる雪の中を雲の向こうに消えてゆきました。ロケットの飛翔正常。搭載機器,観測器動作もすべて正常。追跡受信も射点を含めロングイヤーベン,ノルウエー本土の3カ所とも正常。約20分後ほぼ予定通りの消感で実験終了。頂点高度は千キロを余裕で上回りあとは帰ってから>PI10日間の待ちの苦労も吹き飛び実験終了。最後はうろうろしているトナカイやシロクマやキツネが間違って食べて腹をこわさないように,射点の周りに飛び散ったケーブルやロケットの保温材やらの破片を積もった雪の中で回収掃除。ここは北極。自然と動物が一番偉いところです。

 暗闇生活25泊のキャンペーンはM-V-4号機で明けた多難な年の最後を締めくくることができました。何とか21世紀を迎えられます。実験班の皆さんお疲れさま。ほかに書くことはいっぱいありますが紙面がつきました。また別の機会に。

 計画会議に始まり足かけ3年,計画の延期やロケットの設計変更,改修などいろいろなことがありましたがご支援いただいた多くの皆さんのお陰で無事に乗り切ることができました。ノルウェー側の協力や実験に参加されなかった多くの関係の皆さんにもお礼申し上げます。来年はもっと良いことがありますように。

(稲谷芳文) 

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ビギーバック
INDEX衛星のMTMモデル振動衝撃試験

 11月21日から12月初旬にかけて宇宙研のINDEX衛星のMTMモデルの振動衝撃試験を,C棟で行っています。INDEX衛星は,他の科学衛星と違い,インハウスシステムをその目標のひとつにしており,大衛星メーカーさんの力を借りずに衛星パネルの組立,ダミー機器の取付を,樋口先生,奥泉助手を始め,宇宙研若手が一喜一憂しながら,行っている所です。

 INDEX衛星は,H-IIAピギーバック衛星として2002年頃に打ち上げられる,50kg級で衛星コストが4億円程度の小型衛星です。小型といってもいろいろ工夫をこらした3軸姿勢安定衛星です。

 現在の宇宙研の科学衛星では,計画開始から10年以上たってからでないとその成果が得られない長期化の弊害が問題になっています。また,そのコストも,打上コストを含めて150億円以上となります。この点を改め,新規開発した衛星技術をいち早く軌道上で実証し,かつ,タイムリーに科学的成果が得られる理学観測のチャンスを与えるために,INDEX衛星は提案されました。1号機には,オーロラの微細構造を極軌道から撮影するカメラ3台と粒子センサーが搭載されます。高速(60MHz)プロセッサによる衛星の統合的な制御,リチウム電池,高効率な反射板つき太陽パネル等の工学的技術の実証も行います。衛星システムの設計も可能な限り所内でおこない,搭載ソフトはすべて所内で開発しています。

(齋藤宏文) 

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M-25 SIM-3大気燃焼試験

 M-V型ロケット第2段M-24モータの改良型M-25モータの1/3.5縮尺のシミュレーションモータM-25SIM-3の燃焼試験が2000年11月27日,成功裏に終了した。過去2回の縮尺型モータの燃焼試験で既に,90気圧弱での圧力下で供試モータが予想通りの推進性能を示すことを,そしてCFRPモータケースが十分に機能を果たすことを確認しており,今回は実機なみに110気圧を越える圧力で燃焼試験を行った。点火は午前10時30分,天候,風向きともに申し分のない条件下で行われ,着火・燃焼ともに正常,計測・光学も良好なデータ,記録を取得できた。高圧燃焼に備え採用されたITE (Integral Throat Entrance)方式ノズルの3D-C/C製入口部や低目付CFRP製開口部ライナの焼損の度合いも非常に小さく,今年度末に予定されているM-25モータの燃焼試験の成功を予感させるのに十分であった。また,ノズルから排出されるアルミナ粒子の捕集にも成功したが,燃焼終了後,ある捕集用金属製たらいが実験班員の気分を和ませる挙動をとったことを付記しておく。

(堀 恵一) 

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JPL
MUSES-C搭載予定のSSV開発中止

 MUSES-C計画は米国NASAとの間で協力が進められているが,その一つとしてMUSES-Cへ搭載予定であったJPLの超小型ローバー( SSV: Small Separable Vehicle )の開発をNASAが断念することとなった。NASAの説明によれば,開発中止の理由は重量及び予算の大幅な増加のためであり,その背景には最近のNASA/JPLの火星ミッションの相次ぐ失敗があったとのことである。火星ミッション3回連続失敗の後,JPLで現在進行中の全ての計画についての見直しが行われた結果,現状のSSVは運用上のリスクが大きいと判定され,一方それをSSVに許された重量内で解決するには更なる予算増が必要なため,中止止む無しと決定されたものである。

 SSVは手のひらサイズながら>4つMUSES-Cが小惑星に接近した際に探査機本体から切り離されて着地,小惑星表面を動き回って搭載の可視及び赤外カメラによる「その場」観測を行う予定であっただけにその開発中止は残念ではあるが,工学実験衛星としてのMUSES-C計画全体の成功という観点から,宇宙研としてもこの決定を受け入れることとした。

 なお,MUSES-Cにおいては他にもサイエンス及びDSN(深宇宙通信網)による追跡支援等の協力関係があるため,現在これら協力の今後の進め方について協議を行っているところである。

(上杉邦憲) 

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ISASニュース No.237 (無断転載不可)