No.237
2000.12

ISASニュース 2000.12 No.237

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第20回

シリコンマイクロストリップセンサー

深 沢 泰 司  

 10MeVよりエネルギーの高いガンマ線光子は,電子陽電子対生成を利用して検出する。発生した電子・陽電子対は,エネルギーが高くなると検出器中でカスケードシャワーを発生する。これらのカスケードシャワーや入射粒子の飛跡を高精度で測定することによって,ガンマ線の到来方向を決めたり荷電粒子起源のバックグラウンドを除去することができる。エネルギーが100GeVより大きくなると発生したシャワー粒子群がエネルギー測定用カロリメータ内で完全に吸収されにくくなり,また10MeV以下ではコンプトン散乱が主検出過程になってくる。このため,10MeV-100GeV領域がガンマ線の中でも観測感度が良く,1970年代からSAS-2COS-Bにより宇宙ガンマ線観測が行われてきた。そして,1990年代Compton衛星搭載EGRETにより,検出天体が270にもなった。まさに大きく発展しようとしているエネルギー領域である


図1 シリコンストリップセンサー。
   大きさは,87.5 X 87.5mm2。 


 従来は,電子陽電子飛跡測定のために,ガスの中にワイヤーを張ったスパークチェンバーが用いられてきたが,ワイヤーの位置精度や数で性能が制限され,またガスを消耗するために測定時間が制限された。ところが,半導体の実装技術の進歩によりシリコンウエーハー上にストリップ(縞)状のp電極を1μmの精度で実装できるようになり,シリコンストリップセンサー(SSD)として開発され,1990年代に入ると加速器実験で広く使われるようになった。現在建設中の実験装置では1つのプロジェクトで数万枚のSSDが用いられている。そして,このSSDが米日伊仏共同の次期ガンマ線衛星 GLAST (Gamma-ray Large Area Space Telescope2005年打ち上げ予定)で初めて本格的に宇宙観測に利用されることとなった。SSDを用いることにより,飛跡の決定精度が向上してガンマ線源の位置精度が格段に向上する(GLASTでは0.5-20分角)。また,検出器の高さを低くして視野を大きくすることができ(GLASTは全天の20%),観測時間の効率化にもなる。これにより,GLASTEGRET50倍の感度で全天をくまなくサーベイする画期的なガンマ線衛星となる。

 GLASTには,東京大学(現:広島大学)の釜江氏が加速器実験で世界のトップレベルのSSD設計技術を持つ広島大学の大杉氏と共同設計し,浜松ホトニクスの協力を得て開発したSSDが採用されることが決まっており,それは6インチという大面積のFZ高抵抗ウエーハーで製作に成功したものである。感度のある領域が87.5 X 87.5mm2384本/1枚のストリップが含まれる(図1)。このSSDが全体で約1万枚も用いられる予定である。この大きさにもかかわらず,不感チャンネル比率が0.1%以下という高品質である。大面積化,高品質化のおかげで不感部分の大幅削減,および検出器の組み立ての大幅能率化になり,測定器全体の信頼度向上が期待される。1999年に実際に全体の16分の1の単位モジュール検出器が試験用に組み立てられ(図2),ビーム試験に成功している。

図2 ビームテストモデル。
左のようにSSD15枚(本物は16枚の予定)が並んだユニットが,鉛の板とともに32層重ねられて右の1つのタワーになる。本物は16タワーで構成する。

 GLAST衛星は,検出天体の数が1万を越えると予想され,X線領域でEinstein衛星が科学者に与えたと同様な興奮をガンマ線領域で与えると期待されている。そして,これまで主にパルサーやBLAZARに限られていたMeV/GeVガンマ線天体が,トランジェント天体,巨大分子雲,超新星残骸,近傍銀河,銀河団,ガンマ線バースト,超対称性粒子など多種多様に広がる。GLASTと競合する他の衛星計画も同時期には存在しないため,世界的にも注目されており,日本か積極的に参加しようとしている。

 SSDは,MeV領域のマルチコンプトンカメラや硬X線領域の撮像検出器としても期待されており,我々のグループも含めて現在その開発が行われ始めている。

(広島大学 ふかざわ・やすし) 


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