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No.237 |
<研究紹介> ISASニュース 2000.12 No.237 |
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ミクロの機械の作り方や動かし方とその応用の研究
東京大学生産技術研究所
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2. 研究室の概要生産技術研究所は六本木から駒場(旧東大宇宙航空研究所の跡地)に移転の最中ですが,どちらのキャンパスも先端的な科学技術の情報の創造と交換の場になっています。藤田研もその中で,国際交流を含めて活動しています。現在,職員2名,大学院生4名,外国人研究員(フランス国立科学研究センターより派遣)6名,企業からの共同研究員3名など約17名の構成です。研究室メンバーの半数近くがフランス人のため,研究打ち合わせ会も英語を公用語にしています。最初は大変ですが,グローバルスタンダードを目指して皆がんばっています。設備としては,シリコンチップの製作法を利用したミクロの機械の加工法(半導体マイクロマシーニング)に絞り,マスク設計から薄膜形成,フォトリソグラフィ,エッチングなどの微細加工,観察と評価まで一貫して行えるようになっています。 設備の使用を管理する時に一番気をつけているのは,マイクロマシンの製作において最大限の自由度と最短のプロセス時間を目指すことです。論文などの締め切りが迫って特急で仕事をすれば,マスク製作からマイクロマシンの完成まで1週間程度で行えます。このような体制は,考えついたことを直ちに実行して試し,更に改良してゆく上で,極めて大切です。
3.研究テーマ
高性能のマイクロマシンを作るには,立体的なマイクロ構造と良く動くマイクロアクチュエータが不可欠です。立体的なマイクロ構造の作り方として,シリコン基板をプラズマで垂直にエッチングする方法と,シリコンの薄膜を高温で組成変形して立体的に組み上げる方法の二つを開発しました。この加工法を使い,マイクロアクチュエータとして,静電気や磁気の力,圧電効果,磁歪効果,形状記憶効果,熱膨張など様々の原理で動くものを実証しました。 |
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3.2 群れで働くマイクロマシンマイクロメカトロニクスの魅力は単に小さいことではなく,「センサや電子回路とアクチュエータを集積化した要素を多数同時に製作できる」点にあります。この特長を十全に生かすため,たくさんのマイクロマシンが協調して働くシステムを提案しています。ちょうど多数のアリが一匹ずつ自律して動き,お互い協力することで大きなエサを運ぶように,賢いマイクロシステムを多数配置し,お互いに連絡しあって助け合いながら一つの仕事を実行させようとするものです。新しいシステムの考え方として最近注目されている自律分散システムのマイクロ版です。
![]() 図3 人工繊毛システムの動作原理
アレイ状に並べた多数のアクチュエータでシリコンチップを運搬しました。人工繊毛システムは,熱膨張によりバイメタルのようにたわむアクチュエータを,基板上に並べたものです。このアクチュエータは,振動するカンチレバーを二つ向き合わせて2自由度を実現したもので,図3に示すように交互に動くことで上に置いた板を支えたり一方に送ったりします。二つの動くタイミングを逆にすれば,逆方向にも動かせます。実際には図4のように,長さ500μm,幅100μm,厚さ6μmのカンチレバーを交互に組み合わせ,10mm四方に512本並べてあります。このうえに2.6 X 1.5 X 0.26mmの大きさで重さ2.4mgのシリコン基板の一片を置き,それを運びました。搬送速度は,アクチュエータの動作周波数につれて速くなり,20Hzの時0.5mm/sでした。また,センサ,アクチュエータ,制御回路を組み込んだモジュールを平面的に並べた,分散搬送システムを作っています。搬送システムの上に載せた物体を望みの位置に運び,その向きを合わせる作業や,物体の形状による分別作業をマイクロマシンチップとVLSIチップだけで実行させる研究を進めています。
![]() 図4 人工繊毛システム
3.3 ナノテクとバイオへの応用科学技術振興事業団の戦略的基礎研究「極限物理現象」の一環として,局所的で極めて強い電界中における原子や分子の振る舞いを可視化観測する研究をしています。具体的には,マイクロマシニング技術により微小な走査トンネル顕微鏡(STM)を作り,それを透過型電子顕微鏡中で作動させ,ティップ先端におけるトンネル現象,原子の移動,鎖状高分子の電気・機械的特性の評価などを行う予定です。図5は,2本のナノ探針がお箸のように向き合った構造です。針の太さは100nm,その先端の間隔は300nm。一つずつの針は独立に動かせるので,丁度お箸のようにDNA分子を自由に操作したり,カーボンナノチューブを調べたり,半導体量子構造の特性を明らかにしたり,いろいろの応用が考えられます。
![]() 図5 ツインナノ探針。各々の探針は個別に駆動可能。
細胞の大きさやDNA分子の長さは,数ミクロンから数十ミクロンであり,マイクロ構造と同程度の大きさです。このためマイクロマシンはバイオ工学のツールに最適です。直径5μm,長さ30μmの微細な中空針のアレイを作り,それを細胞の集合体に刺して,DNAを注入することに成功しました。また,特定のタンパクを認識する分子を固定した微細電極のアレイを作り,そこにターゲット細胞だけを選択的に吸着する研究もすすめています。
(ふじた・ひろゆき) |
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