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ISASニュース

強化型イプシロンロケット 構造系開発試験

No.420(2016年3月)掲載

はじめに
 『ISASニュース』2015年12月号 PDFファイルが開きます で、新規開発した2段モータケースを紹介した際、「私が担当している構造系は、2段ステージを中心に、フェアリングの開頭する部分と1段モータ以外の構造体の新規開発または改修を行っており……」と触れました。今月号では、相模原キャンパスで実施した構造系開発試験について紹介します。

構造系で行う主な開発試験
 構造系では、設計結果の確認のために主に三つの試験を実施します。

  • 機械環境試験(振動・音響・衝撃試験):構造体自身が機械環境で壊れないこと、構造体に取り付く機器に対する機械環境条件を確認します。
  • 分離試験:役割を終えた構造体を切り離すための機構がきちんと動き、きちんと(姿勢を崩すことなく)分離することを確認します。特に、イプシロンロケットではスピンしながら分離するので、スピン状態を模擬できることが重要です。
  • 強度剛性試験:ロケット飛翔中に発生する荷重を負荷しても壊れないこと、予定通りの硬さ(剛性)があることを確認します。

相模原キャンパスで試験をした構造コンポーネントたち
 今回、相模原キャンパスで試験を実施した構造コンポーネントは以下の通りです。強化型イプシロンロケットは3段式固体ロケットなので、ロケットの一番上(フェアリング)と一番下(後部筒)以外のほぼすべての構造体を相模原キャンパスで試験した、と言っても過言ではありません。

  • 衛星分離部(PAF):衛星を結合し、分離する装置(衛星分離機構)を搭載。
  • 第3段機器搭載構造(B3PL):第3段モータの上部にあり、打上げ直後から衛星分離後までロケットの制御、データ取得・送信する機器を搭載。
  • 第2段機器搭載構造(B2PL):第2段モータの上部にあり、多くの電子機器を搭載。また、燃焼後の第2段モータを分離する装置(2/3段分離機構)も搭載。
  • 第2段後部構造:第2段モータの下部にあり、2段飛翔中の機体方向を制御する機器(第2段ガスジェット装置、ノズル駆動制御機器)を搭載。
  • 第1段機器搭載構造(B1PL):第1段モータの上部、機体のほぼ真ん中にあり、大気飛行中に最も大きな力がかかる。内部には1段飛翔中の姿勢を検知するセンサなどを搭載。また、燃焼後の第1段モータを分離する装置(1/2段分離機構)も搭載。

なぜ相模原キャンパスで試験を行う?
 強化型イプシロンロケットは、JAXA第一宇宙技術部門(筑波宇宙センター)に属するプロジェクトチームが開発を主導しています(私も第一宇宙技術部門の所属です)。なぜ相模原キャンパスがベストなのかと言いますと、ロケット構造のような「大きな構造体」に対しての設備、またロケット特有の「強い振動」「大きな荷重」「スピン分離」が実施できる装置が1ヶ所にそろっているからです。また、M-Vロケットからの経験が豊富な宇宙研の先生方の技術支援が受けられることも、構造系担当としては非常に重要なポイントです。図に相模原で実施した試験のスナップショットを示します。紹介した通りたくさんの試験をする必要があり、2015年6月から開始して、今年度末の2016年3月まで相模原キャンパスのどこかで試験を実施しています。現時点(2月末)で、すべての試験データを良好に取得し、「振動応答」「強度剛性」「分離性能」に対して問題ない結果を得ています。

おわりに
 今年度いっぱいの開発試験を終え、来年度はいよいよ打上げに向けた本格的な準備を始めます。今後とも応援のほど、よろしくお願い致します。また、一連の構造系開発試験の実施に当たり、長期間協力いただいている宇宙研をはじめとする相模原キャンパスの関係者に、この場を借りてお礼申し上げます。

(宇井 恭一)

構造系開発試験の様子@相模原キャンパス

構造系開発試験の様子@相模原キャンパス [画像クリックで拡大]