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大気球

最近の実験(国内)

硬X線偏光度検出器PHENEXによる天体観測

PHENEX(Polarization of High ENErgy X-rays)実験は、これまでに観測されていない硬X線領域での偏光観測を目的とした気球実験です。偏光の観測を行うと、天体の磁場の情報やエネルギー発生メカニズムに関して多くの情報が得られます。山形大学が中心となり、大阪大学、理化学研究所、JAXAが共同で開発を進めています。2006年には、かに星雲の観測を行いました。現在データ解析を進めつつ、次の気球実験に備えて検出器の改良を行っています。将来は小型衛星や長時間飛翔気球での観測を計画しています。

MeV広視野ガンマ線カメラによるMeV領域ガンマ線天体探査

京都大学のグループによって開発が進められているサブMeVおよびMeV領域γ線の新しい検出器、広視野電子飛跡検出型コンプトンカメラによる天体観測実験が始まりました。

これまで感度のよい観測装置がなかったために、測定が少なかったサブMeVおよびMeV領域での観測を通じて、宇宙の高エネルギー現象を解明していきます。

2006年には、最初の試験飛翔を行い、プロトタイプ検出器の動作確認を行うと共に、宇宙や上層大気からの拡散ガンマ線の観測に成功しました。

飛翔するMeV領域γ線検出器

CALETプロトタイプ検出器の実証と電子線/ガンマ線観測

CALET(CALorimetric Electron Telescope)実験では、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験モジュール(JEM)曝露部で、高エネルギー電子、γ線、陽子、原子核成分や太陽変調を受けた電子の観測を行います。これらを通じて、超新星爆発における電子加速、宇宙線の銀河内伝播の謎に挑みます。

それに先駆け、1993年より気球実験を開始し、プロトタイプモデルでの観測を行い、実際に高エネルギー電子やγ線を精度よく測定できることを実証してきました。2004年には、南極周回気球実験を行い、13日間の飛翔により、従来十分な精度では観測できなかった100 GeVから1 TeV領域での電子線の観測に成功しています。今後、気球実験による装置の検証を行いながら、ISSに向けた装置の構築を進めていきます。

クライオジェニックサンプラーによる成層圏大気の観測

1981年から東北大学を中心とするグループにより、成層圏大気を凍結させて採集する実験が定期的に行われています。これは、大気中の成分を、酸素のような主要な成分からフロンガスのような微量成分にいたるまで分析し、その高度分布や、時間変動をモニターしているものです。地球の温暖化の状況を把握したり、地球の大気大気循環のメカニズムを研究したりしています。これまでに、二酸化炭素が年々増加してゆく様子や、上空でフロンガスが紫外線で破壊されている様子が調べられています。

BSMILESによる大気中微量成分観測

BSMILES (Balloon-Borne Superconducting Submillimeter-Wave Limb-Emission
Sounder) の外観

観測で得られたオゾンや成層圏微量分子からの放射電波スペクトル

観測されたHO_2 の極微弱な電波スペクトル

超伝導を利用した低雑音サブミリ波帯(650GHz帯)受信機システム(BSMILES)を用いて、オゾンやHO_2などの大気中微量成分から放射される電波の観測を情報通信研究機構のグループが中心となって行っています。この実験は、宇宙ステーションから成層圏大気を高感度で測定する JEM/SMILES(Superconducting Submillimeter-Wave Limb-Emission Sounder on Japanese Experiment Module)プロジェクトの一環として行われているものです。これらの物質は、気候変動にも密接に関連する重要な物質ですが、微量で、しかも、時間的にも変動するため、これまで観測が困難でしたが、高感度な SIS(Superconductor-Insulator-Superconductor)受信機により、短時間での観測が可能となりました。

超伝導受信機(左:SIS 素子、右:SIS mixer mount)

高層の雷観測

大気の上層で発生する雷の観測を東北大学のグループが中心となって行っています。
この雷はエルブス、スプライトと呼ばれ上空100 km程度で発光しているもので、その存在が見つかったのも、1990年代に入ってからのことで、その正体は未だ不明です。
2006年に行った気球実験では、雷が光る様子を、横から画像としてとらえたり、二種類の波長での明るさとVLF電波の時間変動を測定することに成功しました。

ソーラーセイル用膜展開試験

完全に展開した差し渡し20 mの巨大膜

ソーラーセイルは、風を受けて海を走る帆船のように、
宇宙空間で拡げた巨大な薄膜で太陽光を反射して推力を
得る推進方法で、惑星探査などで活躍が期待されています。

ソーラーセイル実現の最重要技術項目の一つに膜面展開があります。ただし、地上では膜面を展開する際に大きな空気抵抗が働くため、十分な実験ができません。そこで、気球を利用し、空気が薄い高高度環境で展開実験を実施しています。広大な空間を実験場として利用できることもこの実験の大きな魅力です。

まず、2003年に差し渡し4mの膜面を動的に展開する試験を実施しました。次に、2005年、2006年には差し渡し20mの膜面を世界で初めて準静的に展開することに成功しました。

高高度気球を用いた微小重力実験装置の開発

気球を使って30秒程度にわたる質のよい微小重力環境を安価に提供する実験システムの開発を進めています。気球により高度40kmまで実験システムを持ち上げ、自由落下させることで無重力環境を実現します。上空では空気抵抗は地上よりもずっと小さくなるはずですが、それでも微小重力実験の妨げになるため、実験部は落下実験システム(機体)の中で非接触で浮いています。つまり機体(外殻)の中に実験部(内殻)が10cm程度のすき間を空けて浮いている二重構造になっています。実験部にぶつからないように機体を制御することで、実験部は理想的な自由落下、すなわち外乱力が働かない状態となり、非常によい微小重力環境を実現しています。2006年5月に動作試験用の1号機を飛翔させ、数秒間の流体物理実験を実施しました。2007年には2号機を飛翔させ、30秒にわたる微小重力環境にて燃焼科学実験を行いました。
なお本研究は、文部科学省科学研究費補助金(学術創成(2):16GS0220「高高度気球を用いた微小重力実験装置の開発」)を受けて実施しています。

柔らかな大気突入機の研究

気球実験用フライトモデル

投下直後のフライトモデルの様子

宇宙と地上を頻繁に行き来する時代にむけて、安全かつ安価 な輸送システムの開発が必須です。東京大学、宇宙科学研究本部、九州大学を中心としたグループでは、新しい大気突入システムである「柔らかな大気突入機」の研究を行なっています。これは、大気突入機に軽量かつ大型の膜状柔軟エアロシェルを取り付け空気の薄い高高度で減速を可能にし、機体にかかる空力加熱を大幅に減らすという方法です。

そのシステムを実証する第一歩として、大気球を利用し高度40kmから直径1.5mの錐台形状のエアロシェ ルを有する機体の投下試験を行いました。本試験の結果より、錐台型の柔軟エアロシェルを有する飛行体が、遷音速(最大マッハ数0.93)から亜音速の速度領域において安定かつ安全に飛行し、その減速性能が事前の風洞試験で予測されたとおりであったことが確認されました。

現在は、本システムの実用化にむけてより大型の柔軟エアロシェルとその展開機構の開発や高温環境に耐える柔軟膜材料などの開発を進めています。本システムが実用化されれば、宇宙空間に存在する様々物資を容易に地上に持ち帰れるようになることに加え、大気のある惑星への突入プローブとしての応用も考えられています。

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