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ISASコラム

第11回:運用と施設設備(3)射場整備作業と射場点検取扱設備 前原 健次 イプシロンロケットプロジェクトチーム

(ISASニュース 2012年11月 No.380掲載)

はじめに−射場点検取扱設備とは−

 イプシロンロケットは、第1段に基幹ロケット(H-IIA、H-IIB)のSRB-Aモータを使用し、第2段、第3段ではM-V型ロケットの改良型であるM-34cモータとKM-V2bモータを使用します(連載第5回参照)。このように、基幹ロケットの文化、宇宙研の文化を統合したロケットとなっており、使用する略称もM-Vとは異なります。

 その一つとして射場点検取扱設備(AGE:Aerospace Ground Equipment)があります。AGEとは基幹ロケットにて使用されていた略称であり、ロケットを組立および点検する際に必要な設備です。AGEには機構系・電気系・電波系・液体推進系などがあり、効率的に機体の点検・組立を実施できるよう設計されています。

 今回は、イプシロンロケットにおいて使用される機構系AGEの説明を通じ、イプシロンロケットの組立整備作業について説明します。


射場整備作業とAGE整備方針

 イプシロンロケットの射場整備作業はM-Vおよび基幹ロケットにおいて培われた組立手法を活用し、効率的に作業がなされるよう工夫されています。

・第1段組立
 第1段は、種子島で固体ロケットの燃料の注形・非破壊検査および一部の結合作業などを実施後、トランスポータ(図1)にて内之浦に搬入されます。その後、M組立室において固体モータサイドジェット(SMSJ)の結合などの組立を行い、第1段組立として完成します。
 図1に第1段輸送形態、図2に分解図を示しています。AGEは、トランスポータ上のSRB-Aのまわりにある各種装置です。AGEは、組立に際してトランスポータの機動力を最大限活用し効率よく組立ができるよう、分割可能な構造などになっています。第1段の全体の作業流れを図3に示します。


・第2段組立・第3段組立
 第2段・第3段は、工場にて注形などを行った後、内之浦のM組立室に搬入され、ノズル結合および各種点検・組立を行います。各段の整備が終了すると第2段組立・第3段組立およびフェアリングなど上段の構成品は、M組立室クリーンブース内にて結合され、頭胴部として完成します。
 組立作業手順および機構系AGEは、M-V型ロケットにて確立した手法を継承していますが、新規コンポーネントの追加による機能付加も実施しています。


・フェアリング
 フェアリングは工場から内之浦M組立室に搬入された後、頭胴部組立に結合されます。フェアリングは、AGEも併せて新規開発です。

・全段結合
 M組立室において整備された第1段組立・頭胴部組立は、M型発射装置まで移動され全段結合されていきます。その際にはM-Vで確立した手法を継承して組み立てていきますが、第1段についてはSRB-Aを使用することから、発射装置のクレーンにて発射台までつり上げていきます。つり上げに際しては既存設備を使用するため、つり点を工夫し、干渉がないようにAGEを設計しています。

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(まえはら・けんじ)