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ISASコラム

第5回:イプシロンロケットの推進系 徳留 真一郎 イプシロンロケットプロジェクトチーム

(ISASニュース 2012年5月 No.374掲載)

イプシロンの実証機E-Xの上段モータ

 イプシロンロケット二段階開発の第一段階では、革新的機体システム技術を早期に実証するとともに、近い将来の小型衛星ミッションの要求に応えるため、イプシロンの実証機E-Xを開発します。その第2段、第3段には、「はやぶさ」を打ち上げたM-X型ロケット5号機の第3段モータ、第4段(キックステージ)モータの改良型、M-34cモータ、KM-V2bモータを採用します。いずれも比推力300秒台の超高性能の固体モータです。

 M-X上段モータの開発完了から10年以上が経過した今日、入手できなくなった部品や材料がある一方で、材料技術・製造技術の進歩によってコストの削減と構造の軽量化を同時に達成する改修も可能となっています。E-X開発では、設計、材料、製造工程について8項目の改修を行います。特に、燃焼ガスの流れに直接さらされる耐熱材・断熱材については、M-34cモータの4分の1縮尺モータによる地上燃焼試験(『ISASニュース』2011年11月号参照)を行って、機能が期待通りであることを確認しました。


新型固体モータサイドジェット(SMSJ)

 第1段には基幹ロケット(H-UA、H-UB)のSRB-Aモータ(長秒時型)を共用し、量産による低コスト化を図ります。その推力飛行中におけるロール制御と燃焼終了後の3軸姿勢制御には、同モータ後部筒の機軸対称位置に2基装備される、新型の固体モータサイドジェット(SMSJ)を用います。M-XまでのSMSJに比べて、端面燃焼型の固体ガスジェネレータ(GG)の直径を拡大するとともに推進薬の燃焼速度を下げて、推力の増強と燃焼時間の延長について調和をとり、要求されている3分近い運転時間を確保しながら基数を減らしてコスト削減を狙います。開発の最重要課題は、2基で3軸姿勢制御を行うことができるように、従来型SMSJのフラッパ式ホットガスバルブ(HGV)による対向2方向噴射方式から、新型のロータリー式HGVによる直交3方向噴射方式へと機能を向上させることです。2011年度末現在、エンジニアリングモデルによる技術実証が成功裏に完了して、開発の山場を越えました。

ポスト・ブースト・ステージ(PBS)搭載小型液体推進系

 国産固体ロケットシステムとしての最も大きな進歩は、第3段の上に小型の液体ステージであるポスト・ブースト・ステージ(PBS)のオプションを用意した点です。前回ご紹介した通り、PBSによって液体ロケット並みの軌道投入精度を達成できるようになります。H-UAロケット第2段の姿勢制御装置(RCS)に採用されている推力50N級のスラスタを、9基絶妙に組み合わせたシステムは、3段モータ点火から衛星の軌道投入までの姿勢制御と軌道調整に用いられ、さらに衛星分離後は、PBS自身を衛星軌道から離脱させる役目を担います。

補助推進系

 第2段に搭載される姿勢制御用ガスジェット装置(GJ)は、運用コストを抑えるために、M-Xの第3段に搭載されていたシステムをコンパクトにモジュール化して取り扱いやすくしたものです。また、 3段モータ点火前に第3段ステージをスピンアップさせるスピンモータ(SPM)、3段式基本形態において衛星分離後に3段ステージを軌道離脱させるタンブルモータ(TRM)の各小型固体モータが、M-Xから継承された固体補助推進系として用いられます。

その先へ

 E-X推進系の多くは基幹ロケットとの共用部品あるいは改修を伴う再製造品で構成されています。開発の第二段階では、現在行われている抜本的低コスト化・軽量化研究の成果を反映した、低廉で高性能な推進系を実現していく計画です。次のJAXA中期計画中には、すべての推進系が最新の技術によって生まれ変わることでしょう。

イプシロンロケットの推進系


(とくどめ・しんいちろう)