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自然界における最も重要な3つの定数

高校で学んだニュートン力学では、基礎的な方程式に重力定数$G$は入ってきても、 光速$c$は入ってこなかった。これは重力によって生じるモノの速さが光速$c$に比べてはるかに 小さい場合のみを扱ってきたからである。光に近い早さでモノが動く状況を記述するには、 特殊相対性理論(特殊相対論)が必要になり、そこには光速$c$が出てくる。 しかし、そこでは重力は扱っていないので、$G$は出てこない。 重力によって生じるモノの速さが光速$c$に比べて無視できない場合を扱うのが、一般相対性理論 で、その基本方程式には$c$$G$の両方が出てくる。一般相対性理論は巨視的な世界を扱う理論なので、 そこにはプランク定数$h$は出てこない。

プランク定数$h$は、小さなスケールに於ける物理現象 を記述する量子力学に出てくる。ただし、シュレディンガー方程式には$h$は でてくるが、$c$$G$も出てこない。これは、素粒子が光速に近い速度で 動いていることを考慮せず、また素粒子同士の重力を考慮していないからである。実際には、素粒子は 光速に近い速さで運動しているので、シュレディンガー方程式に特殊相対性理論の効果を 考慮したディラック方程式が必要になり、 ここには必然的に$h$$c$が出てくる。

その後、素粒子論は発展し、現在では、自然界に存在する四つの力、電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用、重力相互作用のうち、重力相互作用をのぞく三つを統一する可能性がある標準理論 ($h$$c$を用いて記述される)が研究されている。そのような理論を検証するには、素粒子をほとんど 光速まで加速して衝突させて、とことんばらばらにする必要があり、そのためにCERNのLarge Hadolon Collider[*]のような 巨大加速器実験が行われている訳である[*]

さらに、素粒子間の重力まで考慮に入れて、4つの相互作用を統一的に説明する理論、 $h$$c$$G$が同時に出てくる理論はあるのだろうか?そのような量子重力理論は まだ存在しない。少なくとも、正しい、と広く受け入れられているものは。 また、そのような理論の検証には、言ってみれば素粒子間に働く重力の測定が必要であり、それは 地上ではほぼ不可能である。それが実現しているのは、この宇宙ではビッグバンの瞬間にしかないわけで、 必然的に素粒子論の研究は、ビッグバンの起源を探る研究になる[*]

いずれにしろ、我々が知っている限り、この宇宙の物理法則は、$c, h, G$を用いて記述される。 これらの定数から自然に導かれる時間と長さと密度が、物理法則で記述できる最小の時間(プランク時間)と空間(プランク長)と最大の密度(プランク密度)である。 プランク時間、プランク長が、現在の物理学で考えられる時間と空間の最小単位である。すなわち、現在知られている 物理常数をどう捻っても、これ以上短い時間や空間は作れない。 非常に大雑把に言って、ビッグバンからプランク時間後の宇宙の大きさが プランク長、そのときの宇宙の密度がプランク密度である。その頃の物理状態を記述するのが量子重力理論である。



Ken EBISAWA 2011-05-30