PLAINニュース第183号
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ADASS 2008

海老沢 研
宇宙科学情報解析研究系/
科学衛星運用・データ利用センター

 2008年11月2日から5日まで、カナダのケベックシティで開催された ADASS 2008 に参加してきました。ADASS とは Astronomical Data Analysis Software and System の略称で、これは文字通り天文学の分野におけるデータ解析ソフトウェアとシステムの話題について毎年開催されている国際学会です。今回で 18 回めになります。私は長いあいだ科学衛星データ解析ソフトウェアやデータアーカイブズの仕事に従事してきましたが、実はこれが最初の ADASS 参加でした。天文ソフトウェアやアーカイブズに携わる研究者・技術者は、できるだけ「枯れた」技術を用いてシステムを構築しようとするタイプと、できるだけ最先端の技術を追求したがるタイプに大別されるように感じていますが、私はどちらかというと前者のタイプで、ADASS は主に後者のタイプの人々が集まる場所と言う印象を持っていたのです(初期の頃の ADASS に参加した NASA/GSFC の同僚が、初めてパワーポイントの発表を見たと興奮気味に話していた事を思い出します)。しかし、インターネットも高性能の PC も、関連する情報技術もすでに成熟期に入り、今回の ADASS では奇をてらったような新しい技術に関する発表はほとんど見かけず、「先端的ではあるが最先端ではない」、安定した技術を使った、地に足の着いたシステムに関する発表が多かったという印象を持ちました。それとも関連して、Virtual Observatory (VO) が、長い開発段階を経て、いよいよ天文学者が使えるツールになってきたと感じました。

 今回の ADASS のトピックとして、グーグルとマイクロソフトが同席し(!)、それぞれ Google Sky (http://www.google.com/sky/), World Wide Telescope (http://www.worldwidetelescope.org) のデモと質疑応答を行いました。どちらもすごいシステムではありますが、互いの互換性、あるいは他のシステムとの互換性は(当然のように)全く考えておらず、また、目で見て楽しいツールを目指しているが、研究者が使えるツールを目指してはいないようです(たとえば、投影法の制限で、天の北極、南極付近の表示ができません)。以下で述べる、私たちの JUDO も良く似たシステムですが、グーグルやマイクロソフトにはできず、我々にしか実現できないことは、まだまだたくさんあるようです。

 日本では、地上望遠鏡でも科学衛星でも、世界最高レベルの観測装置を開発し、運用できるようになってきましたが、ソフトウェアとアーカイブズではまだまだ後進国。アメリカやヨーロッパで開発・運用されている多くの優れたシステムの紹介に圧倒されました。その中でひとつ最も印象的なものを挙げろと言われたら、ハッブル宇宙望遠鏡の Hubble Legacy Archives (http://hla.stsci.edu) でしょう。実際に触れてみるとわかりますが、非常にシンプルなインターフェースを実現しており、背後に使われている様々な技術をユーザーが全く意識しないで済む作りになっています。まさに天文アーカイブズの王道だと思いました。また、計画中の天文台や衛星のデータ処理やアーカイブズの発表が多々あった事が興味深かったです。アメリカ,ヨーロッパでは、望遠鏡や衛星が稼働を始める前からデータ処理やアーカイブズの開発を始めるのは普通の事なのですが、これが日本ではなかなか実現しません。私たちも海外の例を見習い、JAXAの将来の科学衛星については、そのアーカイブズのあり方を打ち上げ前からできるだけ考えるようにしたいと思っています。

 私は、私たち C-SODA 科学データ利用促進グループが開発した JUDO (http://darts.isas.jaxa.jp/astro/judo/) と UDON (http://darts.isas.jaxa.jp/astro/suzaku/udon.html) のフォーカスデモを行ってきました。これは、約一時間、壇上で講演しながら実際にシステムのデモを行うものです。ケベックの会場からネットワークで DARTS に接続して行ったのですが、十分の性能が出て安心しました。比較的短時間のデモを二回繰り返し、多くの聴衆に私たちのシステムを紹介することができました。どちらも私が約 3年前に日本に帰国してから着想し開発を始めたもので、これらのシステムを実際に稼働させ、アメリカ時代、スイス時代の同僚たちに見せる事ができたことが、個人的には感慨深かったです。

 来年の ADASS は、初めて日本 (札幌) で行われます。国立天文台の天文データセンターの方々が中心になって準備していますが、ぜひとも成功することを願っています。なお、今回の出張は、日本学術振興会、先端研究拠点事業「最新情報技術を活用した国際ヴァーチャル天文台の我が国における拠点形成」の補助によって実現しました。日本学術振興会と、研究代表者である国立天文台の大石雅寿准教授に感謝いたします。



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