PLAINニュース第183号
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月周回衛星「かぐや (SELENE)」のデータアーカイブについて

祖父江 真一
SELENE プロジェクト

1. はじめに

 2007年 9月 14日に種子島宇宙センターから打上げられた月周回衛星「かぐや (SELENE)」は、同年12月21日から高度約 100km の月周回の観測軌道にて定常観測運用を 2008年10月31日まで実施した。その後、残燃料を用いた後期運用を実施している。2009年3月からは低軌道に移行し、さらなる詳細観測を行う予定である。

 この「かぐや」の観測データは、JAXA 臼田宇宙空間観測所で主として受信され、JAXA 相模原キャンパス D 棟 4階にある SELENE ミッション運用・解析センター (SELENE Operation and Analyses Center (SOAC)) において観測機器ごとに生データが分離し、観測機器チームに提供している。観測機器チームにより処理された処理済みデータである L2 プロダクトは、SOAC に戻され、L2DB・公開系システムにより、2009年10月からインターネットにて一般公開する予定である。また、「かぐや」の成果は、観測機器による科学成果として米科学雑誌「サイエンス」、内外の専門学会論文誌などに公表が始まっているところである。また、ハイビジョンカメラによる地球、月面の撮影映像も、教育・普及啓発目的で広く公開している。なお、これらの成果画像・映像については「かぐや」画像ギャラリー (http://wms.kaguya.jaxa.jp) にてインターネットにて公開している。

 本稿では、「かぐや」の SOAC にある地上システムのうち、データの保管・公開をつかさどるアーカイブシステムの現状と今後の予定について紹介する。

2. SELENE 地上系システムの概要

 かぐや(SELENE)の地上システムは、相模原キャンパス、筑波宇宙センター、臼田・内之浦宇宙空間観測所に分散して設置されており、衛星の追跡管制運用を行う追跡管制系システムと、データ受信、記録、処理・提供を行うミッション運用・解析システムに分けられる。図1に地上系システムの概要を示す。


図1 「かぐや」地上系システム概要

 このうち、ミッション運用・解析システムは、PLAIN センターニュース第169号にてすでに紹介したものであるが、ミッション運用システム、レベル 0/1 処理システム、L2DB・公開系システムと研究者用のセンター内ユーザシステム (研究者用 WS、LISM 処理システム)および初画像を含む広報画像の作成・公開を行う画像ギャラリーシステムで構成されている。

 「かぐや」のアーカイブシステムは、このミッション運用・解析システムのレベル 0/1 処理システム、L2DB・公開系システムおよび画像ギャラリーシステムといえる。レベル 0/1 処理システムは、衛星からの生データを恒久蓄積する。レベル 0/1 処理システムは、観測機器チームによるデータ処理に必要な情報として、軌道力学系から週 2回ペースで更新される軌道データや追跡データの受信と所定のマージ処理、S 帯/ X 帯データのそれぞれ VCID 単位のフレーム分解 (レベル0 処理)、APID 単位のパケット分解や S 帯テレメトリデータの工学値変換処理 (レベル1 処理) を行い、バス機器/観測機器 HK ファイルや姿勢情報ファイル、TI-UT 変換のための衛星時刻校正データファイル等の情報ファイルを作成している。衛星からの観測機器の生データについては CCSDS パケットの形式で保管されており、現在は、初期解析・校正のために観測機器チームにのみ提供している。

 他方、観測機器チームが L0/L1 データを用いて処理・校正した処理済みデータである L2 プロダクトは、L2DB サブシステムに登録、保存される。L2 プロダクトは、データと PDS (Planetary Data System) フォーマットをベースとして SELENE で定義したメタデータを含むラベル、grid, map, table などのデータ属性で定義されるデータオブジェクト、L2DB・公開系システム管理用のカタログ情報ファイルの他、画像データについてはサムネイル画像を tar 圧縮したファイルで構成されている。L2DB・公開系システムは、2009年1月現在、L2 プロダクトは 初期解析・較正のための SELENE チーム内での相互参照のために公開・利用されている。

 他方、「かぐや」の観測データや画像を一般ユーザに向けて紹介するホームページとして、「かぐや」画像ギャラリー HP を 2007年12月5日より運用している。画像ギャラリーでは、観測機器の観測データの可視化画像およびその解説記事を公開している。画像ギャラリーでは、2008年12月末現在で 140以上の画像や動画を公開している。1日平均約 20,000〜30,000 回のページ閲覧回数と、数 G バイトのダウンロードの実績があり、HDTV による満地球の出や LALT の全球地形図など、プレスリリースにより外部メディアに取り上げられた直後には大きくページ閲覧数が増加している(最大約 800,000 回/日)。画像ギャラリーにおいては、ユーザからの意見を取り入れ、より見やすいページにするため、CMS (Contents Management System) を利用し 2008年12月に全面改修を行い、観測機器、物理量、場所ごとのカテゴリーにおいて参照できるようにした(図2参照)。また、12月からは、Google/YouTube により、NHK, 観測機器チームと協力し、HDTV、地形カメラの映像配信を開始している (http://www.youtube.com/jaxaselene)。


図2 画像ギャラリーのスナップショット

3. 今後の計画

 2009年11月からは L2 プロダクトを L2DB・公開系システムにより一般公開を開始する予定である。Web インタフェースにより、観測機器/処理レベル/プロダクト種、観測日時、緯経度、バージョンなどの条件検索によりユーザはデータを選択し、FTPでデータ入手ができる。また、L2DB・公開系システムでは、mapタイプのデータに関しては、データのモザイキング、切り出し、地図投影法変換などのサービスの利用が可能である。なお、地図投影法は等緯経度が標準となっている。

 今後、かぐやの運用の終了後においても、JAXA としてデータの保管、提供サービスを継続することになる。しかしながら、ミッション運用・解析システムの計算機のベンダーによる保証サービスが 2010年から順次切れていくことから、システムの換装を行う必要がある。また、システムの換装においては、JAXA内外の科学衛星データアーカイブとの相互運用性確立による複数のデータの相互利用環境の提供も期待される。

4. 結び

 「かぐや」は後期運用を続けるとともに、観測機器チームによるデータ処理、解析が行われている。今後、「かぐや」の科学成果の公表が本格化するとともに、11月からのデータの一般公開および、画像ギャラリーによる広報画像の提供継続を実施していく。さらに、WMS (Web Map Server)+ Google Moon などという形での地理情報システム (GIS) を用いた画像の提供も進めていく予定である。 



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