No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

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耐放射線強化SOIデバイス


 宇宙研が計画している将来の惑星探査ミッションでは,画像の高速処理や姿勢の自律制御等,これまでにない大容量の情報を,高速に処理する衛星搭載機器の開発が求められています。これらミッションを遂行するためには,情報処理機能の中核であるマイクロプロセッサーあるいはメモリー等の半導体デバイスの高性能化が不可欠です。

 これまで衛星搭載機器には,厳しい宇宙環境に耐えるよう特別に製造された宇宙用認定デバイスが用いられていましたが,冷戦の終結とともにそれらは一部が製造を中止されたばかりでなく,新規開発が停滞しているため,要求されるような高性能な宇宙用認定デバイスはもはや入手できなくなりました。このような状況が衛星開発技術の高度化を阻害する深刻な要因となっていることから,米国は民生用に開発されたPentiumPower PCといった高性能マイクロプロセッサーの耐放射線性強化に着手しました。このように米国で開発される高性能のマイクロプロセッサーは魅力的ではありますが,政治的あるいはコスト的制限のため,宇宙研で入手できることは期待できません。

 そこで私たちは,将来の衛星搭載機器に汎用的に使用可能な高性能マイクロプロセッサーやメモリーを国内で早急に開発する必要があるものと考え,これら半導体デバイスの耐放射線性強化技術について検討を進めています。放射線耐性を強化する半導体プロセスとしては,SOIプロセスを用いています。これは,デバイスをSilicon-On-Insulator(SOI:絶縁体上に形成されたシリコン)基板上に製造するプロセスで,シリコン基板上に形成する通常プロセスと比べて高速化・低消費電力化をはかれるがコストアップを招くものとして,これまで民生デバイスの製造プロセスには用いられていませんでした。ところが近年,半導体デバイスの中心市場がコンピュータから携帯機器に移り,低消費電力化に対する強い要求が生まれたため,民生デバイスの製造プロセスとしても急速に開発されてきているものです。私たちはこの優れた国内のSOIプロセスを利用して,独自に128K-bit SRAMを試作して放射線耐性を評価したところ,その放射線耐性は十分に高く,特定の宇宙ミッションに使用できることがわかりました。

 現在,この成果を受けて,将来の惑星探査ミッションで必要となるマイクロプロセッサーの基本論理回路をSOIプロセスで試作して,その放射線耐性を評価する準備を進めています。

(廣瀬和之,斎藤宏文,升本喜就,和田武彦(宇宙研),黒田能活,石井茂(三菱重工)) 


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放射率可変素子
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