No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

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月探査におけるサウンダー観測


 月惑星の探査手段の一つとして,周辺の宇宙空間における電磁・プラズマ環境とともに惑星の表層の地形や表層付近の地下構造までも探る,サウンダー観測計画が進行している。サウンダーは月惑星探査機の周回軌道上で,電波やプラズマ波動の観測を行うほか,自ら電波を発射し,表面で反射して帰ってくる反射波の性質を詳しく調べることで表面付近や地下の情報を得るレーダとしての機能を持つ観測装置である。通常レーダは観測対象をできるだけ詳細にとらえるため,短い波長の電波が用いられており,このためパラボラアンテナなどが用いられるが,月惑星探査で我々が行おうとしているサウンダーの外見はこのようなレーダとは全く異なる。この装置は月惑星の地下のできるだけ深い場所からの情報を得るため,波長が10m〜数10mと長いHF帯の電波を使用する。

 このような月惑星探査特有のサウンダー装置は,まず現在火星に向かっている「のぞみ」探査機に応用されている。のぞみには火星の電離層の高さ構造を調べるべく,「じきけん」衛星以来の実績を持つサウンダー観測装置が搭載されているが,同時に火星表面地形観測をターゲットとする高度計の機能が備えられている。のぞみによる観測は2003年の末に火星に到着してから始められることになるが,現在,2004年に月周回軌道への投入が計画されているSELENE衛星では,月地下構造の探査を主目的とする観測が行われようとしている。

 HF電波を用いたレーダ観測の特徴は波長が長いことから地下の深いところにまで電波のエネルギーが届く点であるが,反面,アンテナのビームを絞ることができないため,どこから帰ってきた反射波なのかを識別するには特別の工夫が必要となってくる。この問題を解決するために,電波の送受信ハードウェアの開発とともに合成開口処理と呼ばれる信号処理手法が開発されている。合成開口処理は既にマイクロ波などを用いた地球観測衛星や航空機からのレーダによる資源探査などに広く応用されてきているが,これをほぼ無指向性アンテナを用いるHF帯のレーダに適応するためにコンピュータシミュレーションを用いての開発研究が進められている。現在5MHzのレーダ電波をダイポールアンテナを使って送受信し,月の表面地形の再現を行う解析手法が確立している。

 今後は月のみならず他の惑星観測に応用してゆくことが計画されるが,特に焦点となる観測としては,木星の衛星エウロパにおける氷の下の探査であろう。氷の衛星エウロパの下には溶けた水が存在するとも言われており,この場合サウンダー観測は生命の起源に関わる研究にも貢献できる。

(小野高幸(東北大理)) 


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