No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

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ポストMUSES-C時代の小天体探査


 彗星や小惑星などの小天体は,太陽系誕生の情報を閉じ込めた「化石」である。先般策定された宇宙研の「太陽系科学探査の中長期的目標」のうち,「太陽系の起源・進化」,「惑星の多様性」,「生命の起源」と密接な関わりがある。従って,「工学試験」として小惑星サンプルリターンを試みるMUSES-C以降も,「理学探査」として,小天体探査を継続・発展させていくことが期待されている。

< MEF:市民参加型惑星探査の作り方 >

 MUSES-Cの試料分析が終わる2000年代後半に,次の小天体探査を実現するには,新年度からワーキンググループを発足させ,2〜3年後PM(プロトモデル)製作を開始する必要がある。また,小天体探査が月や火星のそれと最も異なる事情は,太陽系の創世から惑星が完成するまでの様々な出来事(例えば,原始太陽系星雲の形成,ダスト成長,微惑星の誕生,原始惑星の集積・破壊,熱的分化の開始など)の何を調べるかによって,探査対象が変わる点である。

 そこで2000年5月に,市民参加型の会員制グループ「小天体探査フォーラム(MEF)」(http://www.minorbody.com;随時会員募集中)を創設した。まず「始原天体探査ロードマップ」を策定し,続いて従来の惑星科学や宇宙工学の研究者だけでなく,教師,天文台学芸員,アマチュア天文家,ジャーナリスト,SF作家など,多方面から参加した145名の会員から,欧米で彗星探査が盛んな10年後に日本が行なう,独創的な探査案を広く募った。

 その結果,彗星・小惑星遷移天体や分化小惑星ベスタのランデブー,火星衛星着陸,黄道面脱出など,様々なアイディアが検討された。それらを会員間の投票,提案者同士および惑星探査のベテラン教授らの評価によって,審査した。上位2案を軸に,他案と共通する科学目的を統合したものが,以下のミッション案である。

<「ファミリー」ミッション >

 似た軌道要素を持つ小惑星帯天体の一群「族(ファミリー)」は,原始惑星が衝突破壊してできたと考える説が有力である。そこで本案では,同一のファミリー内の異なるサイズ,軌道要素,分光特性を持つ複数の天体を訪問することで,

 (1)母天体の熱的分化を探る内部構造の探査,
 (2)衝突破壊・再凝集の履歴と物理・化学的素過程の解明,
 (3)各々数万個ものデータベースがある「小惑星の地上観測」と
   「隕石・宇宙塵試料の物質分析」との橋渡し,

を目的とする。

 第一次案では,100kg以上の科学機器を搭載した探査機は,2010年頃に打ち上げられ,3―6年間にコロニス族天体3―5個へ接近し,撮像,分光,重力測定などを行う。その後フライバイ中に,各天体表面へ自律航行機能を持つ「弾丸」用子機を衝突させる。それにより,地下数mの深さから放出する試料を非破壊捕集物質で採集し,MUSES−C同様のカプセルで地球に回収する。

 コロニス族は大ファミリーの一つであり,軌道の観点から最も行きやすいファミリーである。軌道要素と対応した分光特性の違いによって,S型からより細分化されている。さらに軌道上に独自のダストバンドも観測されており,宇宙塵研究の観点からも興味深い。また同一族にありながら,E,M,S,F型と多様なスペクトル型を持つ,Nysa-Polana族を対象とした同様なミッションも検討に値する。

< スペクトル型既知NEOマルチランデブー&サンプルリターン >

 小惑星帯では,スペクトル型毎の存在頻度が日心距離によって異なる。これは,小惑星帯内では太陽系形成後も,太陽方向には構成物質があまり混ぜられなかったためと予想される。一方,地球上で発見される隕石や宇宙塵の多くは,小惑星帯及びそこから地球と交差する軌道に移動してきた近地球型小惑星(NEO)の双方からもたらされる。そのため,NEOの主要なスペクトル型と隕石・宇宙塵試料を直接対応づけることで,小惑星帯全体における物質分布も解明されると期待される。

 本案では,1〜2機の探査機を複数個のスペクトル型既知のNEOにランデブーさせ,周回機から赤外・蛍光X線分光,可視撮像などによる全球マッピング,微小重力ローバによる表層観察をした後,タッチ&ゴー方式で表面物質を採集,地球に持ち帰る。探査対象は,MUSES-Cや米国のHeraミッションとは異なるスペクトル型を選び,全体として多種のスペクトル型の試料採集を短期間で行なう。「小惑星の博物学」を早期決着させるのが最大の目的である。

 なお,本案最大の課題は,地球帰還までに最短6年,長いケースで14年もかかる点である。そこで今後,スペクトル型未知のNEOについても独自の地上物理観測を推進して候補天体を増やし,より短い運用期間のミッション案と探査機重量マージンの確保が不可欠である。

(矢野創,川口淳一郎(宇宙研)他,小天体探査フォーラム) 


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