No.241
2001.4


ISASニュース 2001.4 No.241 

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赤外線スペースアストロメトリ計画


 アストロメトリ(位置天文)観測とは,天球上での恒星の位置,距離(年周視差による測定),固有運動(天球上における横断速度の角速度)を測定するものだが,これに視線速度の情報を加味すれば,星の6次元位相空間の情報(銀河系の“6次元地図”)が分かることになる。この情報は,銀河系の力学構造はもとより,恒星物理,連星系や超新星の物理,銀河系の形成史,また,惑星系探査といった様々な天文学の展開を可能とする。さらに,得られた銀河系内の情報をもとに,遠方の宇宙を推測し,系外銀河の物理や宇宙論に至るまでのサイエンスの展開をも可能とする。アストロメトリは天文学の最も基本的なものとも言える。

 さて,アストロメトリの観測は,地上では地球大気のゆらぎ等が大きな支障となり,高精度な位置決定精度を達成することが困難であった。そこで,1989年ESAが打ち上げたヒッパルコス衛星によって,アストロメトリ観測はいよいよスペースの時代に突入した。このヒッパルコス衛星は,天文学の“革命”と呼んでいいものである。しかしながら,ヒッパルコス衛星の観測の精度(年周視差の精度は,約1ミリ秒角)は,まだ決して十分なものとはいえない。年周視差によって,距離が精度良く決まる星の距離は,ヒッパルコスの精度だと我々から高々300光年以内なのである。銀河系全体(我々から銀河中心まで約27,000光年ある)に比べれば,はるかに小さい領域しか見渡せていない。そこで,次は,銀河系全体のスケールを精度良く見渡す必要がある。そのためには,10万分の1秒角以上という高精度なアストロメトリ観測を要求する。

 このような高精度アストロメトリ観測を目指す衛星計画が欧米でつほど既に進行中である。これらは,2004年〜2012年頃にかけて打ち上げられることが,いずれも決定している。このように,海外でスペースアストロメトリ計画が目白押しなのは,銀河系の“地図”作りの重要さが,世界でも強く認識されている結果といえよう。しかし,これらの衛星計画はすべて可視光の観測であるので,銀河系で一番星が多く存在するディスク面,バルジにある星の光を,ほとんど観測することができない。星間塵により,可視光はかなり減光されてしまうからである。そこで,星間塵による減光の影響が少ない近赤外線による観測が有用である。そこで,我々は近赤外線でのアストロメトリ観測衛星を計画し検討をはじめてきた。この観測により,銀河系の形成・進化の“化石”の宝庫である,ディスク面とバルジの解明を目指し,銀河系“地図”を完成したい。

(郷田直輝,辻本拓司,中島 紀,小林行泰(国立天文台),松原英雄(宇宙研)) 


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