陽電子は,様々な物理現象の中で作り出されます。例えば,電子と陽電子を合わせた重さよりも大きなエネルギーを持った光子(エネルギーと質量はエネルギー=質量×(光速の自乗)という関係式で結ばれます)が物質にあたると,原子核のクーロン場で電子と陽電子の対が発生します。また,光子の密度が高い場所を高エネルギーのガンマ線が通過すると,光子と衝突して,電子と陽電子の対が生まれます。非常に高温の状況ではこうした電子と陽電子の対が沢山発生していると考えられています。したがって,わが銀河の中心に,非常に大きなブラックホールがあり,それがなんらかのメカニズムで陽電子を作り出しているのではないかというように想像する人もいるわけです。
超新星爆発の時に作られるような不安定な原子核がより安定な原子核に崩壊する時に,陽電子が放出される場合があります。原子核が崩壊する過程で,陽電子が宇宙空間にまきちらされていき,宇宙空間をさまよった末に,電子と出会って電子陽電子消滅線を出して消滅するわけです。陽電子が電子と出会って消滅するまでの時間は周りの環境によって異なります。元々の陽電子のエネルギーが数メガ電子ボルトのような場合には,厚い降着円盤の中では瞬間ですが,低密度の星間物質の中では,消滅するまでに10万年以上かかります。したがって,銀河中心付近の電子陽電子消滅線の集中は,はるか昔に起こった爆発的な星形成の証拠を示しているのかもしれません。
消滅反応が高温プラズマの中で起こる場合は,511キロ電子ボルトのラインに拡がりが,また中性子星の表面のように強い重力場で起こる場合には,赤方偏移したラインが観測される可能性があります。このように電子陽電子消滅線は,その元となる陽電子の分布,生成の原因,そして消滅を起こす場所の状態を知ることのできる大切な観測対象と考えられています,しかし,こうした現象をきちんと研究するためには,数百キロ電子ボルトからメガ電子ボルトにかけてのエネルギー範囲にかけて,格段に感度が高く,精度の高いイメージがとれるガンマ線望遠鏡が必要です。近い将来,こうした次世代の検出器が登場し,活躍する事が期待されます。
(たかはし・ただゆき)