No.192
1997.3

ISASニュース 1997.3 No.192

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8hr + 42 hr

   佐藤英一

 かつて“80日間世界一周”のなかのインドのジャングルを駆け抜ける列車に憧れたものだが,今回,バンガロールでの超塑性国際会議で招待講演をするのを機会に,会議の休日を利用してマドラスからデリーまでのインド亜大陸縦断の汽車旅行を試みた。カルカッパッム(マドラス郊外)の原子力センターから1年間私の研究室に滞在していた Dr. Valsan と論文執筆の打ち合わせの必要があったし,デリーのインド技術大学の Prof. Dube と日印共同研究のプロポーザルを打ち合わせる必要があったためである。

 インドの汽車の予約は,日本の旅行社ではなかなかやってくれない。結局 Dr.Valsan に頼んで寝台席を予約してもらうこととなった。インドの通常の夜行列車は,エアコンクラス(A/C)の1,2等,普通クラスの1,2等,座席の自由席からなっている。両クラスともベッドの形状は同しで,1等は上下2段 × (横向き1or2)のコンパートメント,2等はカーテンだけの上下(2or3)段 × (横向き2+通路を挟んで縦向き1)となっている。1.676Eの広軌(幹線のみ)なため,車内は非常に広く,特に1等のベッドではのびのびと寝られた。また,エアコンクラスのみシーツ,枕,毛布がついており,客層も高いため比較的安全だという。料金は次式のようである。

   飛行機 ≒ A/C1等寝台 ≫ A/C2等寝台 > 普通1等
             (約4倍)     (約1.5倍)

   寝台 ≫ 普通2等寝台 ≫ 自由席
    (約2倍)    (約4倍)

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 マドラス - バンガロール間は約350H,夜10時に出発で早朝6時到着。冬なのでエアコンの必要はないとのことで,Dr.Valsan と一緒に普通1等で行く。一眠りをしたら着いてしまった。バンガロール - ニューデリー間は約2,100H,夜6時に出発で翌々日の正午到着。42時間一人旅を十分に堪能することができた。今度は一人なので,比較的安全であるというエアコンクラス(2等)を予約しておいてくれた。バンガロールを出て朝チャイ(インド式の甘いミルクティー)のサービスで日が覚めると,赤茶けたデカン高原のまっただ中。360゜地平線の見える平らな大地を,汽車は止まりそうなはどのんびりと走っていく。もちろん単線でディーゼル機関車である。駅名を地図と照らし合わせていたら,全く進んでいないようでいやになってしまった。寝るともなく,起きるともなく,ベッドでごろごろしていた。

 朝昼晩の食事は,機内食のようなものを注文できる。ベジタリアンを頼むと,ご飯にチャパティ,汁気のないカレー(野菜の煮物)と汁っぽいカレー,ヨーグルトにチャイといったメニューであった。車内で料理しているそうであり,おいしくはないが最低限の清潔さは保証されている。Prof.Dube に,駅で売っているものは果物以外買い食いするなときつく戒められていたため,この車内食のみで過ごした。

 夕方,ようやく山々が見えるようになってきた。アジャンターの石窟寺院などのあるデカン高原北端の山々である。といって,ほとんど平らなところを走っていることには変わりない。ボンベイ - デリー間の電化複線の幹線に入り,汽車はようやく速くなった。  翌朝気がつくと汽車は霧の中。ガンジス,ジャムナー両大河流域に入って,景色が青々としているのがわかる。冬の朝はよく濃い霧が発生し,デリー空港も午前中閉鎖になることがままあるそうである。

 夕ージマハールで有名なアグラを週ぎると,デリーまでいよいよ3時間。さらにデリーに近づくと,線路の回りにはスラムが続くようになる。そういえば,これまでも小さな町の周りには必ず小さなスラムがあったことに気づく。と,ようやくニューデリー駅に汽車は到着,私の最長の汽車の旅は終わった。

(さとう・えいいち)


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