No.189
1996.12


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MUSES-B総合試験再開

 7 月中旬から中断していたMUSES-Bの総合試験が,11月 1日より再開されました。試験中断のあいだはアンテナ部分もなく,衛星本体部分がばらばらの状態でクリーンルームに保管されており,ときおり訪れる見学者の方に説明をしていても淋しい感がありました。11月19日には,アンテナ部も取り付けられ,徐々に打上げ時に近い形状に変わっていきます。アンテナ部分は,軌道上での最終形状は口径8m のパラボラアンテナですが,展開状態は三菱電機鎌倉製作所での展開試験を最後にもう地上では見ることができません。しかし,収納状態でもアンテナ部分のついた衛星は間近でみると大きく,迫力があります。写真は11月20日現在の状態で,衛星本体部分のパネルはまだ開いたままです。この状態で,衛星内部の機器の設置角度を高精度で測定し,衛星のパネルを閉じてから,動作試験,パネル外機器の設置角度測定を経て,順調に試験が進めば,12月10日ころにほぼ打上げ形状になります。その後,重量測定,バランス測定ののち,相模原での最終動作試験を終えてから,12月24日にコンテナに収納され,年明けのKSCへの搬出を待ちます。
 KSCでの衛星のフライトオペレーションは,年が明けた 1月13日よりはじまり,2月7日の打上げに向けていよいよ最後の準備を行ないます。

(村田泰宏)

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「ようこう」5周年記念シンポジュウム

 「ようこう」衛星は,今年の8月末で満5歳の誕生日をむかえ,相変わらず順調に観測を続けている。これを記念して,11月6日から3日間「国際シンポジュウム」が,代々木のオリンピック記念センターで開催された。実は,「ようこう」の5周年を意識した国際シンポジュウムは,すでに今年3月に英国グループが主催して,英国バースで開かれている。(ISASニュース No.182 記事参照)
 このような経緯から,今回のシンポジュウムは開催の決定が非常に遅れたうえ,特にこの会議のための経費等の手配が全くないまま実施に踏み切ってしまった。そのため会議の実務担当者の苦労は大変なものであったが,努力の甲斐あって非常に充実したシンポジュウムになった。参加者は,外国からの約40名を含めて合計約100名である。
 今回の特徴は,これまでにもまして,発表・討論が太陽物理だけでなく,実験室のプラズマ,地球周辺のプラズマ,宇宙X線源のプラズマが,太陽を接点にして共通の場で議論されるようになってきたことである。「ようこう」により,太陽表面の超高温プラズマ,特にその詳細な構造と時間変化が初めて明らかにされ,天体プラズマの基本的なモデルとして,また地上の実験室では実現できないプラズマの振舞いを目のあたりにみせる天然の実験室として,ますますこの観測の重要性が認識された。
 なお,シンポジュウムの開催に当たっては,所内外の多くの方々のひとかたならぬご支援ご協力を頂いた。この機会を借り,深く感謝する次第である。

(小川原嘉明)

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「IRTS国際会議」

 11月11日から14日にかけての4日間にわたって"Diffuse Infrared Radiation and the IRTS"(「拡散赤外放射とIRTS」)と題する国際会議が宇宙科学研究所において開かれた。この会議は昨年打ち上げられたSFU搭載赤外線望遠鏡IRTSの成果をふまえ,天文学の議論を深めようとして開かれたものである。会議の出席者は延べ103人で,このうち外国人出席者はアメリカ,フランス,ドイツなどからの34名でこの分野の指導的な役割をしている人たちであった。会議では星間空間中の有機物PAHの発見,星間塵・星間ガスからの赤外線放射の観測,赤外宇宙背景放射の観測等IRTSの最新成果が発表され,ESAの赤外線天文衛星ISOの速報やNASAのCOBE衛星の新たな解析結果等とあいまって活発な議論が行われた。
 今回のシンポジウムでは丸1日使ってスペース赤外線天文学の将来計画のついての議論が行なわれた。わが国のIRIS(ASTRO-F)計画もその中の一つとして紹介され,今後わが国がこの分野で重要な役割を果たすであろう事に大きな期待が寄せられた。また,非公式とはいえ国際協力の可能性についてアメリカ,およびヨーロッパ諸国と広く議論できたことも大きな成果の一つであった。
 回収されたIRTSや宇宙研の各種設備を見学してもらえたなど,宇宙研を会場としたメリットは大きかったが,出席者が予想より大幅に増えたためもあって,会場設営に苦労した。宇宙研も国際会議を開けるようなちゃんとした会場を持つべきではないかと感じた次第である。

(松本敏雄)

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R宇宙科学振興会研究助成対象者決定

 R宇宙科学振興会(関本忠弘理事長)では,その事業の一つとして字宙料学に関する独創的・先躯的な研究活動を行う若手研究者に対する研究の助成について平成8年度の研究助成候補者を公募していたが,去る12月2日に研究助成審査会を開催し,多数の応募者のなかから東京大学大学院理学系研究科鉱物学専攻・助手・三河内 岳(みこうち たかし)氏の「物質科学的手法による火星隕石の形成史の研究」に対し,研究助成金300万円を贈呈することを決定した。

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宇宙学校

 11月23日(金)勤労感謝の日に神戸市で「宇宙学校」が開催された。紅葉も鮮やか,六甲の山並みも映えるすばらしい天候で,「宇宙学校」の会場となった神戸市国際会議場には,子供たちのグループや親子連れなど延べ510人の熱心なファンがつめかけた。
 司会兼校長の的川教授による進行のもと,1時限目は「宇宙の謎を探る」。神戸大学の伊藤助教授,小原助手の講師から「ブラックホールと超新星の世界」,「オーロラの故郷をたずねて」と題して10分ずつの講義が行われた。質問では,宇宙のはては? ビックバンの前はどのようであったか? 等講師を困らせるものや,ブラックホールに関するものもたくさんあり,関心の高さをうかがわせた
。  2時限目は,「惑星と生命」。中村(昭)助手,長谷川助教授の講師から「地球の仲間たち」,「宇宙人はいるだろうか」と題し10分ずつの講義が行われた。質問では,テレビで宇宙人を捕まえた等の報道があるが信じてよいか,科学的根拠はあるか等があった。
 3時限目は「ロケット・宇宙開発の未来」。森田助教授,的川教授の講師から「ロケットとスペースシャトルの世界」,「21世紀の宇宙開発」と題し,1・2時限同様に講義が行われた。質問では,無重力と微少重力の違いは? 水と油は宇宙では混じりあうか等多くの質問が寄せられた。質問の途中で話題を変え校長から,毛利宇宙飛行士が宇宙で一番驚いたことは? 「宇宙でのおなら」の話などもを入れ,会場は熱気に包まれ,各時限時間を大幅に超えざるを得なかった。また,各時限の質問の後に「宇宙をさぐる」,「ブラックホールをさぐる」,「私たちの太陽系」を上映し盛況裡に終了した。

(佐々木英俊)

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ASTRO-E試作品(PM)の試験始まる

 ASTRO-Eは,昨年と今年で試作(PM)を終わり,来年から飛翔品(FM)の製作を始める予定で今年概算要求を提出している。計画では,2000年の1〜2月期にM-V型4号機で,高度約600Hの略円軌道に打ち上げられる。この衛星は,現在活躍中の「あすか」の性能を大幅に上回る高性能X線天文台で,特に日米の研究グループが新しく開発した,エネルギー分解能の優れた観測器が搭載される。ご他聞にもれず,予算の制約から極めて限られた部分の試作しかできないが,11月11日から始まった噛み合わせでは,日米協力で製作している装置も含め,搭載機器の試作品が登場し,主として相互の電気的インターフェースの確認試験が行われている。
 ASTRO-Eは,これまでのX線衛星に比べて,あらゆる意味で格段に複雑なものになっているが,特に機上系,地上系共にソフトウエアの比重が極めて増大している。そのため、試験の様相も一変し,いわゆるPM品は大量のワークステーション群の中に埋もれてしまい,一見ワークステーション相互の噛合わせかのような雰囲気になってしまった。
 衛星は,M-Vの打ち上げ能力を最大限に利用し,総重量ほぼ1.6トン,軌道上で太陽電池パネルと,伸縮式望遠鏡を伸展すると幅約5.5mで全長約7mの大型のものになる。さらに,検出器の一部を絶対温度で千分の65度の極低温に保つため,特殊な冷却系も搭載される。そのため,設計・製作だけではなく,各種試験も既存の設備では難しいことが多く,理工の関係者と担当メーカーが知恵を出しあって計画を進めている。

(小川原嘉明)

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ATRエンジン地上燃焼実験

 エアー・ターボラムジェット(ATR)エンジンATREX-500の地上燃焼試験が10月16日から11月6日にかけて能代ロケット実験場で行われました。ATREX-500は,将来のスペースプレーンに用いることを想定して設計,試作された実機の1/4サイズのエンジンで,平成2年度に第一回目の燃焼試験が行われて以来,今日まで改良が積み重ねられてきました。今回は,今まで水で冷却していた燃焼室の部分を燃料の液体水素で冷却する再生冷却式燃焼室に変更し,更に,空気吸い込み口に取り付けたプリクーラ(空気冷却器)を,前回の試験結果に基づいて,新たに設計・製作し直し,試験に臨みました。再生冷却式燃焼室は,ドイツのDASA(Daimler-Benz Aerospace)社との共同研究によって製作したもので,試験にもDASA社の技術者が参加されました。試験は3段階に分けて予定通り7回実施され,それぞれのコンポーネント,及びそれらをシステムとして組み合わせたときのエンジン性能に関して貴重なデータを取得することができました。今回の試験で確認された最大推力と比推力は,それぞれ 442Lと1420sec でした。今後は,可変形状のプラグノズルと組み合わせた最終段階の地上試験へと移行する予定です。荒天(好天ではありません)に悩まされ続けた実験でしたが,昨年の補正予算で設置された「テストスタンドをすっぽり覆う移動式のドーム」が威力を発揮し,従来に比べると格段に良い作業環境の中で準備作業を行うことができたことをつけ加えさせていただきます。

(成尾芳博)

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LIC月撮像試験

 LIC(Lunar Imaging Camera)は,LUNAR-A探査機に搭載される月面撮像用の可視光カメラです。LUNAR-Aはスピン安定型の探査機で定常観測時には約20秒間で1回転しているので,LICは1次元モノクロCCDをスピン軸と並行に取り付け探査機のスピンを利用して2次元画像を得るようにしています(コピー機やイメージスキャナと同様の原理です)。
 探査機との噛合せ試験も終了し,現在はカメラ単体での各種試験,調整を行っています。感度,解像度,光学歪等の試験を各種光学試験装置を用いて行っていますが,前記のようにスピンを利用して撮像するので,2次元画像を得るためにはLICをスピンテーブルの上に載せるか,前方にスキャンミラーをおいて試験する必要があります。またLICは無限遠点に焦点を合わせているので,室内で試験を行うためには,前方に補正レンズをつけて行っています。高精度の測定をするためには,使用する試験装置の制約等のため,必ずしも実際の撮像時と同じ状態で試験することはできません。そこで各要素毎にそれぞれ試験を行い,全体システムとしての機能・性能は解析によって評価するという方針をとっています。例えば実際の月の明るさはアポロ探査機やクレメンタイン探査機の撮像データから計算し,LICの感度の精密測定は積分球と呼ばれる装置を用いて行って,実際に月面を撮像したときにちょうど良い明るさになるようにカメラの調整を行っています。感度測定試験をスピン状態で行うのは困難ですが,カメラの感度はスピンとは関係なく一定なので,静止状態で行っています(LICはスピン周期に同期して露光時間を変えるタイプではなく,常に固定です)。
 これらの試験は,落ちが無いようによく考えて実施していますが,もしも考え落としがあるといけないので,本物の月の撮像を11月22日深夜にNEC横浜事業所の屋上にて行いました。屋外ということで,スピンは手動(職人芸?)で行ったため画像の縦横の比率がずれてしまったので,掲載の写真は寸法の補正をかけてあります。写った月の明るさはほぼ計算値通りで,カメラの設計および地上試験法に誤りがないことが確かめられました。今回は遥か38万H離れた地球から撮像を行いましたが,LUNAR-Aは月面から約200Hの周回軌道上から撮像を行うので,実際にはこの1900倍の解像度の写真が撮れるはずです。お楽しみに!

(橋本樹明)

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