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MUSES−B総合試験

 MUSES−B総合試験が,昨年1995年の11月2日より始まっています。1994年11月に一次噛み合わせ試験が終わり,従来の衛星に比べて余裕のある単体環境試験の日程で各サブシステムとも満を侍しての総合試験です。もっとも衛星の科学観測を行うVLBI観測信号系や世界でもっとも注目を浴びている直径8mの大型観測アンテナ系は,余裕のある日程にも関わらず息つく暇もない改修・調整・拭験を行いやっと間に合わせています。もし打ち上げが延びていなかったらどうなっていたのかと冷や汗ですが,“もし”と“れば”は言っても仕方ありません。一噛みの時には毎日のように出ていた不具合が,小さなものが週に数個(しかも1に近い)に減っています。しかしもう改修のできない土壇場に立ち緊張の日々で,各サブシステム担当者・メーカ・システム担当者ともに信頼性のある衛星作りに日々奮闘しています。温度試験では,チャンバ室の空調をまともに地上系機器にあててしまいKu帯(15GHz帯)の地上リンク系機器は,臼田からの長旅のせいもあり早速音をあげてしまいました。衛星に先立ち地上系の温度試験を行ってしまったことになり,これも地上系機器の信頼性を向上させる上で決して無駄ではなかったと思っています。大型アンテナは3月6日に搬入されて,振動試験を行ったのち再び三菱電機鎌倉製作所に戻りいよいよ最終鏡面調整に入ります。0.5mm cms目指して最後のかんばりです。

(小林秀行) 


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ペネトレータDOM−1 地上燃焼試験、無事に終わる

 DOM (DeOrbit Motor) はペネトレータを月面に貫入させるために使われる減速用固体ロケットで,ペネトレータは母船から分離後,DOMを点火して月周回速度を打ち消し,自由落下状態になります。DOM−1は実機DOM性能確認のための試作1号機で、全長590@,全重量21L,うち推進薬重量は17.2Lです。より正確に推進性能が把握できるよう極めて飛翔型に近い設計となっており,ノズル開口比も実機と同じ64になっています。このため,従来の大気開放拡散筒による真空試験方法ではノズル内部で流れが剥離してしまうために,2重真空槽方式という真空試験方法を考案しました。つまり,大型真空槽の中に小型真空槽を入れ,大型真空槽を閉じた状態で燃焼試験を行うわけです。さらに,姿勢安定化スピンを模擬するための強制スピンも与え,低圧・スピン環境下での試験を行いました。今回,初めて実験主任という大役で参加させてもらいましたが,本部の机に座っているというのはかなり苦痛で,気がつくとスタンド点で作業の邪魔をしていました。新品の小型真空槽と清掃してピカピカだった大型真空槽が燃焼ガスによって真っ黒になってしまったのには悲しいものがありましたが,実験が大成功に終わり,感慨ひとしおでした。

(石井信明) 

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SFU、日本へ向け輸送される

 スペース・シャトル「エンデバー号」により軌道上で捕獲されたSFUが平成8年1月29日,ケネディ・スペース・センターに於てNASA側から日本側に引き渡されました。受領されたSFUはただちにケネディ・スペース・センターから場所を移動し,アストロテック・スペース・オペレーションズ社(ASO)においてSFUに搭載されている非常時切り離しのための火工品の取り外し作業や,残燃料の排出作業,およびサンプル品の取り外し作業などをおよそ3週間で完了しました。

 SFUを日本へ輸出するためASO社のあるフロリダ州タイタスビル市から輸出港であるジョージア州サヴァンナ市までの2州にまたがり,およそ500Hにもおよぶ陸上輸送が行なわれました。SFUは,輸送用コンテナに入れるとアメリカでも大型物の輸送範疇に入ります。輸送は日照のある昼間に限られ(フロリダ州だけの輸送であれば深夜輸送するのが規則であるが),両州のパトロール車による先導を受けたものの大型物かつフライト衛星の輸送としては驚異的な時速90Hの速度で走行しました。目的地のサヴァンナはジョージア州の大西洋岸にある港町で,1782年イギリス総督を英本国に追い返した後ジョージア州都となり,綿花の集積港として繁栄・衰退した後現在もコンテナ船の重要港として活躍しています。

 さて,輸出通関検査を終えたSFUは,3月4日に地上支援装置とともに4万2千強総トン数の定期航路貨物船「カリフォルニア・サターン」号に積み込まれました。翌3月5日午前8時35分同船は,サヴァンナを後にし,パナマ,ロサンジェルスを経由したのち3月28日に横浜港へ入港しました。出港の様子を記録しようとホテルのベランダから撮影していた我々を見つけ,船の艦橋から船長さんが手を振っていた光景が印象に残りました。写真はASO社を出発しサヴァンナへ向かうSFUを積載したトラックです。

(清水幸夫) 

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「あすか」国際会議

 「あすか」衛星の打上げ3周年を記念して,「X線像と分光による宇宙高温プラズマ の研究」と題するX線天文学の国際会議が3月11〜14日早稲田大学の国際会議場で 開かれた。昨年9月のドイツでのX線発見100周年記念の会議からあまり日数が経っていないので,参加が危ぶまれたが,予想に反して,1994年の東京都立大学での会議を上回る人数が参加した。一時は申し込みが300名を越え,参加を制限した程であった。最終的には,海外13ヶ国から,120名、国内から130名の250名に落ち着いた。

 会議は,4日間で70の口頭発表と,180のポスター発表を行なうという過密スケジュールであった。朝9時から,夕方6時過ぎまで,熱心な討論が続いた。「あすか」 の成果の他,ドイツのローサット衛星,米国のガンマ線衛星,最近打ち上げられたばかりのXTE衛星,ロシアのグラナット衛星,「ようこう」衛星の結果も報告された。し かし,「あすか」の結果は,質量共に他を圧倒するものであった。X線像と分光が同時に観測でき,しかも10keVまで高い感度を持つ「あすか」の特徴がよく発揮されたものといえる。会期中に重要な発表についての記者発表が行われ,星生成域および超重星からのX線放射,宇宙背景X線放射の原因となるX線天体、宇宙における鉄原子の生成に関する重要問題について説明が行われた。

 13日の夕方、大学の構内にあるホテルで,「あすか」3周年のささやかな祝賀を兼ねたパーテイが開かれた。所長の歓迎の挨拶に続き,来賓,外国からの参加者からの祝辞 が述べられた。はからずも,筆者は余興代わりに赤い袖なしと帽子を被らせるはめになり,国際的に年齢を暴露する結果となった。

 14日の終了まで,出席者はあまり減ることはなく,熱心に最近の成果に聞き入ってい た。多くの参加者から会の成功とパーテイが楽しかったことを告げられた。お世辞半分にしてもうれしく感じた。今回の会議は連絡はすべて電子メールだけであった。開会の直前まで,出席者の確認とプログラムの調整ができた。特にロシアとの連絡に威力であった。

 この会の機会に日独の国際協力が話し合われた。ローサットの高い空間分解能と「あす か」の波長分解能を組み合わせると,最高の性能の観測手段となり、新たな成果が期待される。会議のよい副産物となった。

(槙野文命) 

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世界初の窒素振動温度測定

 平成8年2月11日20時00分,S-310-24号機による観測は完璧に成功した。本実験の目的は窒素振動温度の観測を行うことであった。「振動温度」という極めて耳馴れない言葉をまず説明しておく必要があろう。窒素分子は二つの原子がくっついて空間を飛び回っているが,同時に二つの原子の間隔を変え(振動させる)ながら飛んでいる。個々の分子の飛び回る速度は不思議な美しい自然の摂理に従って分布している(マクスウェル分布という)。マクスウェル分布則に従って飛び回っている粒子の平均エネルギーにある定数を掛けて言い直したものが,いわゆる大気温度(気温)であり,振動もまたマクスウェル状態にあるであろう。これが今回測定した振動温度である。

 窒素分子は約3eV 以上のエネルギーを持つ電子によって振動状態に励起される一方で,それよりエネルギーの小さい電子には振動エネルギーを与えるという面白い振舞いを示す。振動エネルギーが高くなると酸素イオンと急激にくっつき易くなり,これが電離圏のプラズマ密度をコントロールする一因となる。このような訳で,電離圏に起きているいくつかの現象,あるいは熱圏下部(約100H付近)の酸化窒素の振舞いを解明するために窒素の振動エネルギーを測ることが必要とされてきた。窒素分子の振動状態そのものを測る手だてはないので,まず元の振動状態を保つようにイオン化し,これから出る光のスペクトルから振動温度を求める。従って測定システムは窒素分子を電離する電子銃と窒素分子イオンから出る光を検出する分光計より成る。

 写真はスペースチェンバーでの電子ビーム放出実験で青い光に我々の知りたい秘密が隠されている。

 図は実際に高度約100H で得られた窒素イオンからの主な三つの光を含むスペクトルである。今回の実験によって約150Hまでの測定がなされ,ロケット搭載用としての測定器の基本は確立したと考えているが,今後,感度を高めて測定レンジを全高度に拡げること,小型にすることなど,いくつかの課題が残されている。

 最後にこの測定器は,メーカーを含む所内外の多くの方々の好意によって完成したものであり,紙面を借りて心から謝意を表する。

(小山孝一郎) 


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文部省の早田研究機関課長がKSC訪問


 早田課長がさる3月18日(月)に鹿児島宇宙空間観測所(KSC)を訪問し,新装なったミュー・センターその他の施設を熱心に視察した。まず管理センターの前で降り立った時の第一声は「これが管理棟? かなりひどいね」だった。しかし管理棟はまだまだ新しい部類に属する建築物である。つづいて衛星テレメータ・センターの仮眠室などを見るに及んで「これは何とかしなくては」の声も聞かれるようになった。

 KSCは,総合ビルを建設する計画も進んでおり,今回の早田課長の訪問によってKSCの再開発も加速されることが望まれる。

(的川泰宣) 

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ISASニュースのwwwサービス開始

 WWWの登場により,手軽に世界中から情報を得ることができ,逆に世界中に情報を発信することもできるようになってきました。インターネットの普及に伴い,WWWの需要も増加の一途を辿っており,昨年スタートした宇宙研ホームページも,3月中旬には立ち上げ当初の数倍のアクセス頻度を数えるに至りました。

 以前からISASニュースもWWWで公開して欲しいという要望があり,有志の方によるネットワーク版lSASニュースの評価ページも作成されました。このページは常に高い人気を維持しており,毎日所外から数十件,日によっては100件以上ものアクセスがあります。これが毎月更新されるようになれば,アクセス件数は尚一層増加するものと考えられます。

 このような需要と期待に応えるべく,編集委員会においてもWWWによる毎月のISASニユースの公開にGOサインが出されました。インターネット版のISASニュースは,試行的に4月号より掲載することとなりました。(もしかしたら,既にこの記事をインターネット上で御覧になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか?)

 これまで通りのISASニユースの発行と並行してネットワーク上でもISASニュースを御披露できる時代になります。宇宙研外からのアクセス番付としては横綱級のぺ一ジがひとつ,新たに加わることになるでしょう。

 アドレスは,http://www.isas.jaxa.jp/ です。

(三浦 昭) 

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SFU搭載赤外線望遠鏡IRTSの成果

 今年1月、SFU衛星がスペースシャトル・エンデバーで回収されたのは,まだ記憶に新しい。この衛星には,液体ヘリウムで−271℃以下に冷却された,赤外線観測用の特殊な天体望遠鏡が搭載されていた。

 この望遠鏡(IRTSと呼ばれる)は,SFUが打上げられて11日後の3月29日から,約90リットル積まれていた液体ヘリウムがすべて消費さた4月24日まで,26日間の天体観測に成功した。打上げから約5週間,望遠鏡は極低温に冷却されていたことになる。この冷却寿命はほぼ設計通りで,宇宙での冷却技術を確かなものにすることができたことも,IRTSの成果の一である。

 天文観測は,特定の天体を観測するのではなく,太陽と地球を避けてSFUを回転させることにより,天球を無作為にスキャンする方法で行われた。

 観測データは電波で地上に降ろされ,観測終了後に解析が開始された。まず,一部分ずつ地上に降ろされたデータを時刻順に並べ,SFUの姿勢制御系のデータとの間で,時間的な対応関係を確定する作業が行われた。その後,ジャイロのデータや,IRTS自身が持っていた星姿勢計のデータを使って,各時刻の望遠鏡指向方向を決定する作業が開始された。現在までに,全観測時間の3分の2について,この作業がほぼ終了している。幸いなことに,SFUの姿勢制御は大変安定しており,観測時間のかなりの部分で,1/50度程度の精度で,望遠鏡指向方向が決定できそうである。

 天文学的な解析は,これまでに全観測天域の約4分の1について,第1段階の処理が終わっている。図に示したのは,銀経50度付近の銀河面についての,各種波長での強度分布である。図1,図2は,星間空間にある大きな有機物分子が放射していると言われる特徴的な赤外線だけを抜き出して描いた地図である。これ程きれいな図が描けたのは初めてで,鉱物質の星間塵が出す赤外放射(図3)の分布と驚くほどよく似ていることがわかってきた。どうも有機物分子は,普通の星間塵と大変よく混ざりあって存在しているようである。図4は,星間空間の炭素イオンの放射強度分布で,やはりこれまでになく高精度で,しかも銀河面から離れた場所でも検出できており,星間物質の理解は大きく進むと期待できる。

 IRTSでは星間塵の熱放射がサブミリ波領域まで延長された。これにより,現在議論になっている,絶対温度10度以下の大変冷たい星間塵の存在についても,重要な結果が出せそうである。

 IRTSは,冷却されたシヤッターを備えていて,空の明るさの絶対測光ができる。この機能を使って,波長数ミクロンでの空の明るさに,銀河系外からの赤外線がどれくらい寄与しているかが,測れるのではないかと期待されていた。これがわかれば,銀河の進化のモデルに重要な制限を課すことになる。これまでの解析では,もしかしたら有意な値が,悪くてもモデルに重要な制限をつける上限値が得られそうである。  SFUが無事回収され,IRTSももうすぐ私たちの手元に戻ってくる。データは観測中に地上に送られてしまっているので,IRTSにとって回収は本質的な重要事ではないが,装置の特性を測り直してデータの信頼性を上げることができ,また,1年近く宇宙に出ていたことが,この種の望遠鏡のハードウェアにどんな影響を与えるかを調べることができる。データだけでなく,ハードウェアとの付き合いも,もう少し続きそうである。

(村上 浩) 

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ISASニュース No.181 (無断転載不可)