No.181
1996.4

ISASニュース 1996.4 No.181

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霞が関から

村 松 君 雄 


 一昨年の「きく6号」,昨年の「EXPRESS」と「SFU」の打ち上げ,そしてその回収と,ここ1〜2年,我が国の宇宙関係者にとっては身を削るような苦労の日々が続いたと思うが,こちらも国会やら財政当局への説明やらで,多分に「胃の痛くなる」時期を過ごした。新年度からは何事も順調にと願わずにいられない。  私は宇宙研で働いた経験もないので,そう詳しいことも専門的なことも書く資格はない。しかし,打ち上げの瞬間はテレビで見ていても,あのカウントダウンに誰しも魅了され,現場で実際に目の当たりにしてみると,私のような素人でもたちまち宇宙ファンにしてしまう不思議な力を持っている。

 文部省でも宇宙愛好家はけっこう多いと思うが。宇宙研を所管している研究機関課では,宇宙研のほかに研究所や大学の附属研究施設など300近い機関を抱えているから,宇宙のことだけを考えていたら他の分野の先生方に申し訳ない。この話をしたら,「宇宙研のことは,年に1日ぐらいしか考える暇はないのですね」とやや不満そうに(心細そうに)宇宙研の先生から言われたことがある。

 研究施設といっても,規模に大小あリ,新設・整備中のものありで,均等に勤務時間を割り振って仕事をしている訳でもないのだが,おそらく科学技術庁などと比べてそのように感じられたのであろう。同庁では宇宙関係だけで3課もあり,通産省などでも宇宙と名のつく課がある。文部省では,宇宙担当は1人とか2人とかであるわけだから,比較にならない。

 そもそも,文部省では,個々の機関や分野というよりも,広く我が国の学術研究・基礎研究全体を振興させるという使命があり,バランスのとれた発展こそ個々の分野のアカデミックな発展にもつながるものであるという考えが根底にあるように思う。さらに言えば,各機関には「大学の自治」や「学問の自由」があり,そうであれば,こと細かにチェックすることは,必ずしも好ましいことではない,ということになる。

 言い訳がましくなったので,話題を換える。

 本年1月に初めてエンデバーの打ち上げを見た。その後,ヒューストンのジョンソン・スペースセンターを見学し,帰国便では「アポロXIII」が上映されていた。多少出来過ぎの感があるが,又一段と宇宙に対する思い入れが深くなったような気がする。

 SFU回収の画面に映し出された地球の透明な青さは,確かに地球に対する認識を変えるのに十分である。ニュートンはリンゴが落ちるのを見て万有引力を発見したが,今では,この力学を知らないで生活している人はいない。宇宙科学における新たな発見も,たとえ今は気にとめられないものであっても,何十年かして,その理論や定理が生活を律するような,生活を豊かにするようなものであることが学術研究の面目であり,目先の利便を迫い求めることだけが社会へのアカウンタビリティーではない。これらは文部省の会議での先生方の御意見だが,勝手に引用させてもらった。私自身も全く同感だからだ。

 最近,宇宙研主催の「宇宙学校」に子供を連れて出かけた。大変な盛況で関心の高さを示している。実験だから時には失敗も起ころうが,これら子供たちには夢を与え続けてほしいと願っている。そのためにも絶えず新しいものにチャレンジし,若い血と力をどんどん入れていって欲しいと思う。

 さて,文部省に来られた方は気がついておられる方もあると思うが,学術国際局長室の入り口に今年夏期に打ち上げられるM−Ⅴ初号機の絵が飾ってある。用事で入る度に無事な打ち上げを願って「かしわ手」を打っている。担当官には,まだ胃の痛む時期が続くようだ。

(むらまつ・きみお,日本学術振興会事業部事業課・前文部省学術国際局研究機関課) 


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