No.302
2006.5

ISASニュース 2006.5 No.302 

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H-IIAロケット燃料充填完了 

宇宙基幹システム本部鹿児島宇宙センター 園 田 昭 眞 


 種子島宇宙センターから今年の1月、2月にH-IIAロケット8、9号機が連続して打ち上げられたのは、記憶に新しいところです。さて、H-IIAロケットの燃料は、液体水素、液体酸素ですが、どのようにしてロケットに充填されるのでしょう。

 種子島宇宙センターで使用する液体水素は、ほとんどが大分市の化学プラント工場で作られます。プラントで発生させた水素ガスを精製、液化し、種子島へは専用のタンクローリまたはコンテナで運びます。液体酸素は、霧島市(旧国分市)の工場で空気を材料として空気分離装置により酸素ガスを取り出し、液化します。種子島へは水素と同様、専用のタンクローリで運びます。

 種子島宇宙センター内に貯蔵タンクを整備しており、液体水素および液体酸素をタンクローリから移します。貯蔵タンクには、燃料充填後の打上げ延期も考慮して、打上げ時に使用する約2倍の量を準備します。

 それでは、いよいよ打上げ当日の燃料充填です。燃料充填作業は危険作業のため、ロケットから500m離れた発射管制棟(通称ブロックハウス;地下約12mに設置)から遠隔操作で行います。貯蔵タンクから機体のタンクへ、一気に充填はできません。その理由は、両燃料とも極低温状態(液体水素は−250℃、液体酸素は−180℃)であり、途中の地上配管でボイリング(沸騰)してしまい、機体のタンクまで液体が流れないからです。また、大量の液体を急激に流すとトラブルとなり、危険な状態になりかねません。

 このため、設備の予冷作業から開始します。それぞれの常温の設備配管に少量の液体を流し、徐々に配管を冷やしていきます。機体タンクに近い設備側温度センサが液体水素、液体酸素温度まで低下したときが設備側の予冷終了です。配管内は、液体燃料で充満しています。この後、機体側の充填バルブを開いて、機体タンクへ液体を流し始めます。機体のタンクも当初は常温状態です。液体で徐々に冷やされ、液体水素、液体酸素温度になったときが、ロケットへの燃料充填のスタートです。

 機体のタンクには、0%、5%、30%、70%、100%のポイントレベルセンサを設置し、燃料の充填量が分かるようになっています。0%センサ点灯が、機体タンクに燃料がたまり始めた合図です。100%センサ点灯まで充填を続け、点灯後も打上げまで補充填を行い、100%充填状態を維持します。100%センサが消灯の状態では、発射はできないシステムです。

 0%センサは、もう一つ重要な役割を持っています。液体ロケットエンジンの点火後から徐々に燃料は消費され、最後に0%センサが消灯することになります。0%センサ消灯の信号が、ロケットエンジン停止の命令です。このため、0%センサは3個設置し、1個が誤作動を起こしても停止することがないように、2個以上のセンサが消灯したときに停止するシステムとしています。昨年の野口聡一宇宙飛行士が搭乗したスペースシャトル「ディスカバリー」の打上げ直前に燃料タンクセンサの異常が発見され大騒ぎになったのは、このセンサが同じ役割をしていたためです。

 以上のようにH-IIAロケット打上げの場合、燃料充填は大変な作業です。ロケットへの最終充填量は、液体水素が1・2段合計約300キロリットル、液体酸素が合計約60キロリットルです。予冷、補充填などを含めて1回の打上げで使用する量は、液体水素が約450キロリットル、液体酸素が約170キロリットルです。貯蔵タンクと地上配管は真空二重断熱構造にし、また機体タンクへも断熱材を吹き付けて熱の進入を可能な限り抑えていますが、たくさんの水素、酸素が蒸発してしまいます。その金額は数千万円です。「燃料充填はお札が飛ぶ」の一席でした。


(そのだ・しょうしん) 


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