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第2回「すざく」衛星
Science Working Group 会議開催


会議の合間に「すざく」の見たデータについて熱心な議論をするSWGメンバー


 昨年7月に打ち上げられた「すざく」衛星は、8月より観測を始めました。その初期の科学的成果を議論するため、2月20〜23日に、打上げ後2回目のScience Working Group(SWG)会議を開催しました。米国から22名、ヨーロッパから2名、国内から107名が参加し、これまでに観測されたデータの解析結果を議論しました。

 「すざく」衛星では、本格観測の始まった昨年9月から3月末までをPerformance Verification Phase(PVフェーズ)として、主要な天体で衛星の機能を確認するため、SWGで観測計画を策定して実施してきました。この間、70個を超す天体が観測され、徐々に機器の較正が確立されてきています。その結果、「すざく」衛星が、これまでにない優れた性能を持つことが明らかになってくるとともに、それによる新しい科学的成果が出始めています。こうした新しいサイエンスをSWGのメンバーで議論し、論文にできるものは議論を煮詰めると同時に、これからの観測戦略を考えることが、今回の会議の目的でした。

 会議は衛星運用の簡単な報告の後、解析が進んでいる7個の天体について20分の講演、19個の天体については10分、解析が始まったばかりの天体27個については3分の講演を行いました。2日目の最後にはこれらの講演を天体の種類別に四つのカテゴリーに分けて、そのカテゴリーのリーダーがまとめの講演を30分ずつ行いました。これと並行して、すべてのテーマについて、合計70枚を超えるポスターセッションを行いました。

 「すざく」のもたらす新しいサイエンスとして、三つほど例を挙げます。一つは、CCDカメラの軟X線における高感度・高分解能を生かした、高温ガスの輝線によるプラズマ診断です。まず、死につつある星の周辺物質のX線観測から炭素、窒素、酸素の元素比を決めたところ、太陽組成比の数十倍という炭素超過が見られ、星での元素合成の現場を明確にとらえることができました。これは、天文学会の2006年春季年会でも記者発表をしています。このほかにも、我が銀河系内の高温の星間物質、超新星残骸、銀河団など、広がった天体の観測が進められています。中でも意外だったのは、巨大な太陽フレアが起きた直後の観測データをたまたま詳細に確認したところ、太陽風に起源を持つ炭素輝線がかなりの強度で見えてきたことです。これは、地球を取り巻くプラズマ圏の物理につながる、新しいデータです。

 「すざく」の二つ目の特徴は、検出器バックグラウンドの低さです。これにより、大きく広がった天体に対して新しいデータをもたらします。この特性を活かし、「すざく」では戦略の柱として、銀河中心に長い観測時間を費やしています。鉄輝線を詳しく調べることで、放射体の物理状態を詳しく知ることができ、高温ガス、強い放射に照らされた反射星雲などの起源に鋭く迫ることができるようになってきました。これにより、さまざまな活動性が複雑に入り交じっている我々の銀河中心の謎が、一つ一つ解けていくものと期待されます。

 「すざく」の三つ目の大きな特徴は、硬X線検出器を合わせた広帯域高感度のスペクトル観測です。活動的銀河では、数時間から数日で大きく変動する中心核からの放射成分と、その放射を受けた周辺物質からの反射・蛍光成分が見えています。広帯域スペクトルの時間変動を用いて、多成分の分離が可能となり、活動的銀河の構造と放射機構がクリアになります。

 会議では、このほかにもさまざまなアイデアで観測と解析が進められていることが報告されました。そして、なるべく早くこれらの結果を投稿論文(特集号)にまとめて公表していくことが決められました。

 会議3日目には観測機器について現状報告と解析のための情報交換が行われ、4日目にはそれぞれの天体ごとのチームにおける会議を持ち、今後の解析、論文投稿までの方針が議論され、終了しました。全体としては、「すざく」の持つ特徴を120%引き出し、その成果を世界へ発信しようという意気込みが強く感じられました。

(「すざく」チーム 文責・名古屋大学 國枝 秀世) 

⇒⇒ 参照:すざくホームページへ 


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